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暗躍していた男

 ロマン君の母親が私の叔母ということは私達は従弟だったのだ。

 そういえばロマン君は私の顔を見たとき、初めて会った気がしないと言っていたような。

 もしかしたら母親との面影を重ねていたのだろうか?

 ただ亡くなったと聞いたのは十年前、ロマン君が生まれてすぐである。母親の顔なんて覚えているわけがないのだが……。


「あの女は魔法に少々精通していたようで、闇魔法に気づいたようだった」


 このままでは命が危ない。それに気づいた叔母は生まれたばかりのロマン君を連れ、連絡先を把握していた姉夫婦――私の両親を頼ったらしい。


「息子を姉夫婦に託して、自分は一人で公爵家に戻るつもりだったようだ」


 けれどもそんな目論みもジェイクさんには筒抜けだったらしい。


「女と姉夫婦、全員を闇魔法の素材として命を奪ったのだ」

「なっ――だったら父と母は」

「私が殺した」


 両親は事故に遭ったのではなかったのだ。

 この男が殺したのだ。

 涙が溢れ頬を伝って落ちていく。

 これまで両親の死は運が悪かった、仕方がないと何度も言い聞かせていたのに。

 誰かに奪われていたなんて。


「ああ、そう。赤子だったロマンの命は奪わなかった。成長させたあと、素材として活用する予定だったからな」


 ロマン君を養育院へ連れていったのはジェイクさんだったという。


「それにしてもまさか、シャルトル子爵家が再度、娘を嫁に出してくるとは思いもしなかった。さらにその娘が魔力値が高く良質な闇魔法の素材だった夫婦の一人娘だったとは!」

「――っ!!」


 拳を握り、振り上げたくなるもののぐっと我慢する。

 殴りかかった途端、串刺しにされることがわかっているから。


「私の野望は奪われたものをすべて取り返すこと。そして、ヴェルノワ公爵家の宝のすべて――金を手にすること!」


 しかし、金脈は数代前の当主が採り尽くしたせいでなかった。それを彼も把握していたらしい。


「ヴェルノワ公爵家が保有している金が、どうやってできているか知っているか?」

「いいえ」

「それは、竜の魔力だ」


 竜が金脈に魔力を付与することにより金が生まれる。


「ヴェルノワ公爵家の始祖たる竜がその気になれば、金はいくらでも造れるのだ!」


 ただ、その始祖たるケロ様は大変頑固で、当主が懇願しても金脈を元に戻すことはなかった。

 ならば金庫にあった金塊はどこからやってきたのか。


「それは赤子の手を捻るよりも簡単だ。竜の血を引き継ぐヴェルノワ公爵家の者の命を捧げればいいだけのこと!」


 ということはつまり、ブリザール様の父君の命は――!?


「エドガーの命を捧げ、私は金塊を造りだしたのだ!」


 愕然とする。人の命と引き換えに金を造り出すなんて。


「金庫にあった大量の金塊は、エドガーたった一人の命から造られているんだ! ヴェルノワ公爵家の者達が持つ魔力量はすばらしいだろう?」


 ロマン君も大人になるまで待って、結婚させて子どもを作らせたあと、金塊にするつもりだという。人の道に反する邪悪な思考だとしか思えない。彼の計画は着々と進められていたようだ。


「あのフレデとかいう男は、とても役に立った」


 彼が利用していたのは、ブリザール様の父君に鬱憤うっぷんを抱いていた男、義弟ことフレデ。

 なんでも義弟はブリザール様の父君の二番目の妻が別の男との間にできた子だったらしい。

 ヴェルノワ公爵家の者達が持つ、金色の髪に青い瞳を持っていないことから、不貞の末にできた子どもというのは明白だったようだ。

 義弟の母はすぐにジェイクさんの犠牲となり、残された義弟は認知されるわけがなく、よその家で養子となった。

 長年、養父母からヴェルノワ公爵家から養育費を貰っていると聞き、義弟は自分もヴェルノワ公爵家の一員なのだ、という自尊心が育っていた模様。それをジェイクさんは利用したようだ。

 義弟とその妻をそそのかし、ヴェルノワ公爵家を乗っ取らせた。


「フレデにはヴェルノワ公爵家の爵位と財産の譲渡をさせるよう、書類を作成させた」


 もしも義弟が死んだ場合、その財産のすべては妻ウラリーに渡るように唆していたらしい。


「フレデが死んだあと、私はウラリーと結婚する。そうすれば、何もかも手にできるはずだった。あの男――ブリザールが現れるまでは」


 なんでもブリザール様は徹底的に本家から遠ざけられていたらしい。

 幼少期は領地で過ごし、初等部から全寮制、休暇中も王都の街屋敷には近づかないよう、ブリザール様の父君が厳しく言っていたようだ。


「妙に勘が働くからか、エドガーが行方不明になったと聞いてからちょくちょく屋敷に戻るようになって――」


 これまで父君がしていた霊廟の管理を、ブリザール様がやるようになったようだ。


「忌々しいことにブリザールの奴が、屋敷に近づくどころか、私の計画に気づいたんだ」


 ブリザール様はジェイクさんの暗躍に気づき、霊廟へと連れ出したという。


「私が霊廟に仕掛けた金を作る魔法を暴きながら、これはなんだと問い詰めてきた。腹立たしいことに、国家魔法師の制服姿で尋問してきたのだ!」


 その姿は、かつてジェイクさんを御者になるように声をかけてきた父君の姿と被ったという。


「親子続けて行方不明になれば変な噂が立つと思った、ブリザールの物言いと態度は我慢できなかった。だから彼を呪って、八十の老いた父親に偽装させたのだ!」


 ただ魔法を発動させた瞬間、ブリザール様は思いがけない行動に出たという。


「ヴェルノワ公爵家の者達と金脈、竜の始祖の繋がりとなっていた石版を、破壊してくれたのだ! その石板はヴェルノワ公爵家の者どもの命から、金を作り出す闇魔法の礎にもなっていたのに!」


 石版というのは私達がこれまで修繕していた物だろう。

 壊したのがまさかブリザール様だったなんて。


「それだけでは飽き足らず、ブリザールは石版の欠片を持ち去ったのだ」


 ただ途中で呪いが発動され、石版の欠片は庭に散り散りとなる。


「石版の欠片は魔法で巧妙に隠されていて、私には発見できなかった――」


 私が見つけることができたのはケロ様のお導きだったのか? その辺はわからない。


「まあでも、この家も終わりだ。絶好の生贄と引き換えに、新たな金を造り出す闇魔法が完成する予定だからな」


 ジェイクさんは指を差して叫んだ。


「生贄はお前の命だ!」

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