真実
義弟に見つからないよう、そそくさと離れに戻る。
ロマン君とケロ様はすでに戻ってきていて、一枚、新たな石版の欠片を発見したようだ。
「古井戸の底にあったんです」
「ええっ、井戸!?」
なんでも霊廟の裏にも古い井戸があったようで、そこに石版の欠片が落とされていたらしい。
「ど、どうやって回収したのですか?」
「幸い井戸は涸れていたので、ケロ様が僕にかけた浮遊魔法で井戸の底まで降りて拾ってきました」
「す、すごい」
単独で古井戸の底まで行ったロマン君の勇気を賞賛する。
「私達は――ああ、そうでした!」
私はかごに入れていた鳥をロマン君へと差し出した。
「ああ、よかった……!」
ロマン君は鳥かごを抱きしめ眦に涙を浮かべていた。
その様子を見ながら、よかったよかったと思う。
『む、なんだその鳥かごは?』
ケロ様が何か気づいたらしい。鳥かごの底に魔法陣が描かれていたようだ。
「あの、何か魔法がかかっているのですか?」
『闇魔法だ! ロマンが何か秘密を喋ったら、この鳥の命を奪うものだろう』
「なっ――!?」
そんな魔法がかけられていたなんて。ロマン君は闇魔法について知っていたのだろう。それについて喋ることすら、禁じられていたのかもしれない。
以前、筆談で会話をしようと提案したのも、この魔法を警戒していたからに違いない。
「ケロ様、この魔法をどうにかできますか?」
『もちろんだ!』
術者に気づかれずに魔法を相殺することができるという。さすがヴェルノワ公爵家の始祖たる黄金竜だ。
ケロ様の頭上で金に輝く魔法陣が生まれ、体当たりするようにぶつかる。
すると鳥かごの底に描かれていた黒い魔法陣は消えてなくなった。
『これで大丈夫だろう』
「ケロ様、ありがとうございます!」
ロマン君に感謝され、ケロ様は嬉しそうに目を細めていた。
ここでブリザール様が帰ってきてから一言も喋っていないことに気づく。
「あの、ブリザール様、お疲れになりましたか?」
『いや、考え事をしていただけだ』
『どうした、何か問題でもあったのか?』
「そ、それが――」
金庫に積み上がった金塊について聞いたケロ様は『ありえぬ!!』と叫んだ。
『金脈の金なんぞ、数百年も前に尽きている!! 当時の当主は金をすべてお金に換えていた!』
ならば、どこから金はやってきたというのか。
「あの、関係あるかわかりませんが、証言をさせてください」
「ロマン君……」
話が外に漏れないよう、ケロ様が離れ全体に強固な結界魔法を展開させる。
これで会話が聞かれることもないだろう。
「まず、以前ご当主様が指摘したように、僕は記憶喪失ではありません。また、ご当主様の一人息子として連れてこられましたが、少し違います」
『違う、というのは?』
「僕は生まれたときから養育院に引き取られて育ちました。ヴェルノワ公爵の血が流れていると知ったのは、ごくごく最近です」
ある日、ロマン君のもとに義弟の代理人が現れて、ヴェルノワ公爵の息子だと知ったようだ。
「代理人が話すのは父のことばかりで、母親については教えてくれませんでした」
ロマン君はしだいに母親のことが気になるようになり、王立図書館に調べ物をしにいったという。
「貴族の家系などは図書館に保管されていると、以前、誰かが話していたのを覚えていたんです」
おつかいの帰りに、ロマン君は王立図書館でヴェルノワ公爵家の家系図を調べた。
「現当主の名は〝エドガー〟」
『なっ!?』
皆の視線がブリザール様に集まる。
『エドガーは、父の名前だ』
いったいどういうことなのか? 皆、言葉を失っていた。
沈黙を破ったのはロマン君だった。
「父エドガーは八十歳であることはわかったのですが、残念ながらその家系図には男系の名前しかありませんでした」
母親の名前はわからなかったが、腹違いの兄がいることが明らかになったという。
「名前は〝ブリザール〟、ご当主様です」
『ロマンは……私の弟だったのか?』
「はい」
ロマン君が私を〝オデットお姉さん〟と呼ぶように決めたのは、ブリザール様の弟君だったからだ。
以前夢の中でブリザール様から、会ったことがない弟についての話を聞いていたというのに。今日、ロマン君から話を聞くまで気づかなかったなんて。
「あれ、待ってください」
父君が八十歳としたらブリザール様は?
「わ、私、ご当主様が八十歳だとフレデ様からお聞きしました」
「オデットお姉さん、ご当主様の年齢は二十九歳です」
脳内がなぜ!? という言葉で支配される。
「で、では、フレデ様はご当主様の弟ではなく――」
「叔父です。おそらくですが、父エドガーの不在を誤魔化すために、ご当主様を兄だと偽ったのでしょう」
ああ、と声をあげそうになる。
私は最初から義弟に騙されていたのだ。




