表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第五章 すべての元凶は〝彼〟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/66

名前

 悪夢をみた。

 巨大なゼリーに押しつぶされそうになるという、極めて特殊な悪夢を。

 ハッと目覚めると、私の体に覆い被さるようにしてケロ様が眠っていた。

 昨晩、私の足下に寝ていたはずなのに、コロコロ転がってきたのだろうか?

 大きくなったケロ様は桶で作った寝台に眠れなくなったので、私のベッドで一緒に眠ることになったのだ。

 ただケロ様が大きくて並んで眠ることはできないため、私の足下にあるスペースをお貸しすることになったのである。ご先祖様に足を向けて眠るなんて、と思ったもののケロ様が問題ないと言ってくれたので実現したわけだ。

 ケロ様の大きくなった体は見た目ほどの重量はないのだが、それでも眠っているときにのしかかられると地味に重たい。そんなわけで悪夢をみてしまったのだろう。


「うう……」


 夢の中で巨大ゼリーは謎の食堂で販売されており、中年カップルがイチャイチャしながら食べているのに私は潰されているという、謎のシチュエーションであった。

 おそらく昨晩、義妹とジェイクさんの密会を発見してしまったので、このような意味不明な状況が夢に出たのだろう。

 最悪な目覚めだったが、今日も一日頑張るしかない。

 ぐっと背伸びをし頬を叩く。今日も頑張ろう、と気合いを入れたのだった。

 まずは寝室を覗き込んだが、ヴェルノワ公爵家のご当主様はいまだ目覚めていないようだ。あと少ししたら起きるかもしれない。先に朝食の支度をしよう。


 今朝もロマン君は早起きで、一緒に朝食作りをしてくれた。

 昨日飲んだミント茶がおいしかったので、また飲みたいと思って朝から摘んできたようだ。

 朝食は白インゲンのスープにディルを練り込んだ渦巻きパン、ゆで卵に根セロリのサラダを作った。

 ケロ様も匂いにつられて起きてくる。

 皆で食事を平らげたあと、ロマン君とケロ様はさっそく石版の欠片探しに出かけるという。


「では、私もご当主様が目覚めるまでご一緒しましょうか」

『いや、オデットはここで待っておけ。あの男が起きてから家に誰もいなかったら、拗ねるだろうから』

「わかりました」


 ウサギのぬいぐるみ姿で拗ねるヴェルノワ公爵家のご当主様の様子を想像したら、とてつもなく愛らしかった。


 出かける前に一言物申しておく。


「あの、ケロ様。その、お力を取り戻したことにより存在感が増したといいますが、ご立派になられたというか……。使用人達が目にしたら、あまりの眩しさに驚いてしまうかもしれません」

『ふむ、そうだな。では、姿消しの魔法でもかけておこうか』

「あ、できるならば、ロマン君にもお願いできますか?」

『よいぞ』


 ロマン君が庭を一人でうろついていたら、使用人達が不思議に思うかもしれない。

 一緒に姿を消してくれるというので、ホッと胸をなで下ろす。


「魔法の力も取り戻されたのですね」

『ああ! ぐっと調子がよくなったぞ』


 ケロ様は姿消しの魔法を展開させたようで、二人の姿は忽然と消えた。

 声は聞こえるのでそれを頼りに二人を追い、玄関前まで見送った。

 静かになった室内で、がたん! という物音が聞こえた。ヴェルノワ公爵家のご当主様の寝室のほうである。

 もしかしたら目覚めたのかもしれない。


「ご当主様!!」


 部屋へ駆け込むと、ヴェルノワ公爵家のご当主様はウサギのぬいぐるみの姿で寝台に立っていた。


『オデット』

「はい」

『私は、自らの名を思い出すことができた』

「ようやくですか!」

『ああ、待たせたな』


 ヴェルノワ公爵家のご当主様のもとへ行き両手を握る。


『私の名は、ブリザール。ブリザール・ド・ヴェルノワだ』

「ブリザール様、ですか?」

『ああ』

「ブリザール様、すてきなお名前です」


 ようやく夫となった男性の名を呼ぶことができたのだ。


「すみません、私が先に調べられたらよかったのですが」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様改め、ブリザール様は首を横に振る。


『名前くらい、自分で名乗りたかった。今日まで待ってくれて、感謝する』

「いえ」


 感極まった私達は抱き合う。幸せな気持ちで満たされた。

 ただ喜んでいる場合ではなかった。これからロマン君の鳥を救出しなければならない上に、義弟の悪事を暴く材料を入手しなければならない。


『先にロマンの鳥を助けるか』

「そうですね」


 鳥を取り上げられたせいで、ロマン君は情報を口にすることを封じられている。

 一刻も早く助けてあげなくてはならないだろう。

 ブリザール様は小さなポシェットをかけた姿で登場した。あまりにもかわいすぎる。

 ポシェットは葉っぱと蔓を使って作った簡易的な物らしい。出発十分前に庭で作ったようだ。

 ひとまず歩いて喋るぬいぐるみというのは目立つので、ブリザール様はかごの中に入れて上から布を被せておく。


「ではブリザール様、いきましょう」

『ああ、頼む』


 本日も目立たないよう裏口から屋敷へ侵入する。

 運よく今日もニナリーに会えたので、義弟の所在について聞いてみた。


「ニナリーさん、フレデさんはいらっしゃいましたか?」

「フレデ様? あー、わかんない。奥様にならお会いしたけれど」

「そ、そうでしたか」

「奥様だったら、これからジェイクの馬車で出かけるってさ」

「ははは」


 逢瀬は屋敷の敷地内でも行われているらしい。

 思わず仲がよろしいことでと言いそうになったものの、寸前で誤魔化すことに成功した。

 続いてロマン君が飼育していた鳥について聞いてみる。


「ニナリーさん、フレデ様がお世話を始めた鳥についてご存じですか?」

「鳥? いや、知らないけれど」

「そうですか。ありがとうございます」


 他の使用人に聞いて回るしかないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ