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ご当主様とのご対面

 神父の「これにて、ふたりは神に認められ、夫婦となりました!」という宣言がなされる。すると、三名の参列者が立ち上がり、拍手喝采となった。

 振り返った私は、どこにふたりいるのか、と呆れた気持ちになる。


「あの――」


 私の言葉を制すように、六十代くらいの男性がこちらへずんずん接近する。

 彼はいったい何者なのか。それを先に聞きたい。


「これよりお前はヴェルノワ公爵家の人間だ」


 そう言うやいなや、男性は私の腕を掴んでぐいぐい引いて歩き始める。


「えっ、ちょっ――!?」


 有無を言わせず、連行するようにどこかへ行こうとするなんて酷い。

 けれどもいくら腕を引いても、びくともしなかった。

 老齢だというのに、力が強い。

 婚礼衣装は裾が長いので、踏んで転びそうになる。


「待ってくださ――」

「どんくさいですわねえ」

「本当に」


 十代半ばくらいの少女と四十代半ばくらいの女性が、くすくす笑いながら私と並んで歩く。

 礼拝堂から出ると、草木が鬱蒼と生えた裏庭のような場所へと進んでいった。

 この辺りは庭師が手入れなど行っていないのだろう。木や草が自由気ままに生えていた。

 まるで森のような雰囲気である。

 獣道のような道なき道を進んでいく。


「せ、説明を――きゃあ!」


 ついに私は裾を盛大に踏みつけ、転んでしまった。

 掴まれた腕が放される代わりに、地面を転がってしまう。

 婚礼衣装は泥だらけとなったが、誰も手を貸そうとしなかった。


「お母様、お父様、彼女がヴェルノワ公爵家の新しい花嫁だなんて、がっかりですわ」


 彼ら三人は親子らしい。何も言ってくれないので、会話から関係を読み取る他なかった。


「エリス、仕方がないわ。我が家に新しい花嫁は必要だもの」


 その物言いは、以前あった物が壊れたからしぶしぶ新しい物を購入した、という意味合いに聞こえる。


「黙ってついて来い」


 六十代くらいの男性は冷たく言い放ち、再度歩き始めた。

 どうやらここで説明する気はないようなので、しぶしぶ立ち上がり、あとに続くこととなった。


 行き着いた先は城と見まがうほどの立派な屋敷ではなく、こぢんまりとした平屋の離れだった。

 ここは庭師の休憩場所か。それとも使用人の宿舎なのか。

 かなり年季が入っているような建物に見える。


「こ、ここは――?」

「ご当主様がお待ちだ」

「え?」


 初めて疑問に答えたかと思えば、信じがたい言葉が聞こえた。

 ヴェルノワ公爵家のご当主様が、ここにいるだって!?

 聞き違いかもしれないと思いつつ、中へと入る。

 今にも外れそうな扉は施錠などされておらず、蝶番が劣化しているのか、出入りをしているうちに扉が外れてしまいそうだった。

 室内は薄暗く、清掃していないのか埃臭かった。廊下は歩くたびにギイギイと音を鳴らす。隙間風が入ってくるからか部屋の中だというのに肌寒く、天井には蜘蛛の巣が張っていた。


「こんなところに、ヴェルノワ公爵家のご当主様はいらっしゃるのですか?」

「そうだとお父様はおっしゃっているでしょう?」


 エリスと呼ばれた少女が答えてくれた。

 どうやら聞き違いではなかったらしい。

 この劣悪な環境の中に、ヴェルノワ公爵家のご当主様がいらっしゃるというのだ。


 いったいどういう事態なのか。

 好き好んでこのような場所にいるとは思えない。

 まさか感染症の病を患い、ここに隔離されているのか。

 新聞で報じられた私の記事を読んで、花嫁にぴったりだと思ったとか?

 そうであれば、新しい花嫁が必要だ、と言った意味も理解できる。

 ただ、先を歩く親子は無防備過ぎた。

 もしも感染する死の病であれば、ここに入りすらしないだろう。

 別の理由があるのだ。

 まさか、ヴェルノワ公爵家のご当主様はこのような環境を好む変わり者とか?

 だとしたら、お茶会で皆の表情が引きつった理由も納得できた。

 もう、ヴェルノワ公爵家のご当主様がどんな人でも驚かないようにしよう。そう、自分の心に言い聞かせておく。

 ついに親子は立ち止まり、扉を開いた。


「ご当主様、新しい花嫁を連れてまいりました」


 六十代くらいの男性はそう言って、部屋の中へと入る。母とその娘エリスも続いた。

 そこは寝台しかない殺風景な部屋だった。けれども入った瞬間にゾッとする。

 部屋の床や壁、天井にびっしりと魔法陣が描かれていたから。


「こ、これは――」

「こい」


 私は再度腕を掴まれ、寝台のほうへ連れて行かれる。

 寝台には全身を覆うようにブランケットが被さっていた。

 そのブランケットは一気に剥がされる。

 寝台にいるヴェルノワ公爵家のご当主の姿を見て、悲鳴をあげてしまった。


「きゃあ!!」


 顔を背けたかったが、顎を掴まれ、よく見るように仕向けられる。


「これが、お前の夫だ!!」

「な、なぜ、このような、ううっ!」


 寝台に横たわるヴェルノワ公爵家のご当主様は、肌は黒ずみ、肌はしわくちゃでミイラのようで――まるで死体を安置しているみたいに見えた。


「お前は兄上の新しい花嫁となる」

「あ、兄上?」

「そうだ。私の名はフレデ・ド・ヴェルノワ。当主の弟だ」

「ええっ!?」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様について謎に包まれていたが、なんと、私と五十歳以上も年が離れたご老体だった。

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