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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第四章 母になる

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麗しの美少年

 キラキラ輝く金の髪に、宝石みたいな青い瞳、切れ長の目に整った目鼻立ち――どこからどう見ても、ヴェルノワ公爵家のご当主様の顔立ちに似ている。

 義弟が見間違ったのではないか、と最後まで疑っていたが、それは間違いだった。

 この子は正真正銘、一族の血を引いているのだろう。

 部屋には義弟以外おらず、ジェイクさんも退室していった。

 なんて言葉をかけていいものかと迷っていたら義弟は私達の間に立ち、ロマン君を紹介してくれた。


「ロマン、彼女が新たに母親となる公爵夫人オデットだ」

「母上、ですか?」

「ああ、そうだ」


 ロマン君は私をじっと見つめ、思いがけないことを言ってくれる。


「初めて会った気がしません」


 いやいや、そんなことはない。私達は初対面である。

 もしかしたらロマン君が一方的に私を見知っている可能性があるが。

 残念ながら、どこで会ったかというのは記憶にないらしい。


「は、はじめまして、オデットです」

「ロマンです」


 握手を交わす。ロマン君の手は少し乾燥していて、荒れている状態だった。

 とても貴族の子息の手とは思えない。


「あの、手、どうかしたのですか?」

「手?」

「荒れているので」

「ああ、これはいつもです。養育院では毎日水仕事をしたり、農作業をしていたりしたので」

「養育院!?」


 なんとロマン君は養育院で発見されたらしい。当時の状況について義弟が教えてくれる。


「記憶がない状態でさまよっているところを、養育院で働くシスターが保護したそうだ」


 そしてそのまま一年間、身よりがない子どもとして暮らしていたらしい。


「オデットよ、今後ロマンの世話を頼む」

「は、はあ」


 未来のヴェルノワ公爵としてしかるべき教育を受けなければならないようだが、その前に記憶を取り戻すことが先決だという。


「お医者様には見せたのですか?」

「もちろんだ」


 発見後、数日間入院し、記憶が回復するように治療を受けたらしい。

 しかしながら、効果はなく退院となったようだ。


「しばし親子水入らずで話すといい」


 そんなことを言われても、相手は初対面の少年である。何も話すことはない。


「兄上については、すぐに屋敷へ移す予定だ。これから従僕達を遣わそう」

「あっ、待ってください!」


 今、ヴェルノワ公爵家のご当主様は意識をぬいぐるみに移す魔法を作っている途中だ。

 魔法を邪魔されては困る。


「どうした?」

「いえ、今日は顔色がよくないようでしたので、明日以降でもよろしいでしょうか?」

「顔色が悪い? 肌は黒ずんでいるのにわかるのか?」

「もちろん! 毎日ご当主様の看護をしておりますので!」

「そうか、わかった。では、具合がよくなり次第、移動させよう」

「はい、よろしくお願いします」


 納得してくれたので深く安堵した。その後、義弟はいなくなり、ロマン君と二人きりになってしまう。

 何を話そうか、などと考えていたが、その前に彼の手荒れについて思い出した。

 ちょうど薬用クリームをポケットに入れていたのだ。塗ってあげよう。


「ロマン君、って呼んでもいいですか?」

「はい」


 とってもいい子!!

 教会にやってくる十歳前後の子どもは、静かなところで大人しくできなくって走り回っていた。その子達に比べたら、なんて大人なのかと思ってしまう。


「僕は、なんと呼んだらいいですか?」

「私のことですか? なんでもいいですよ」

「なんでも?」

「はい。お母さんとか、母上とかでもいいですし、呼びにくいようであればオデットとか、お姉さんとか、好きに呼んでください」


 ロマン君はしばし悩む様子を見せていたが、最終的に私を〝オデットお姉さん〟と呼ぶことに決めたようだ。

 親子というよりは姉弟といったほうがしっくりくるので、お姉さんと呼ばれるのはなんだか嬉しい。

 なんて喜んでいる場合ではなかった。ロマン君の手荒れをどうにかしてあげなければならないだろう。


「ロマン君、薬用クリームを塗りますね」

「え、なんでですか?」

「手が荒れているので、お薬を塗らせてくださいな」


 私もお揃いなんです、と荒れた手を見せる。あとで薬用クリームを塗ろうと思っていたが、すっかり忘れて今に至るのだ。


「高そうなお薬を、塗っていただくわけにはいきません」

「大丈夫ですよ。これは手作りなんです」

「手作り、なんですか?」

「ええ。私は元シスターで、教会に所属しているときに、こういう薬の作り方を習ったんです」

「そうだったのですね」


 溶かした蜜蝋にカレンデュラの精油をたっぷり入れた薬用クリームは、荒れた皮膚を治し保護する効果がある。しっかり保湿し、肌をしっとりなめらかにしてくれるのだ。


「いい匂いがします」

「でしょう? 自慢のレシピなんです」


 薬用クリームのおかげでロマン君の緊張は解れたように見える。

 彼は自分からいろいろ話すタイプではないようで、私が話題を振らない限り喋らないようだ。

 ひとまず記憶について尋ねてみた。


「ロマン君の記憶について、聞いてもいいですか?」

「はい」


 触れてほしくなかったらどうしようかと思ったが、あっさり応じてくれた。


「ロマン君はここでの暮らしを覚えていますか?」

「いいえ、ぜんぜん」

「では、何か覚えていることはありますか?」


 ロマン君はじっと私を見つめる。そういえば、初めて会った気がしないとか言っていたような。


「私の顔に、心当たりがありますか?」


 なんだか指名手配犯の顔にピンときたら、みたいな聞き方になってしまった。

 ロマン君は控えめに頷く。


「とても懐かしいというか、思い出せなくてすっきりしないと言うか、不思議な感じです」

「なるほど、わかりました」


 私の顔がロマン君の知る誰かに似ているのか。それともシスター時代に一度会っているのか。私も彼について思い出す努力をしなければならないようだ。 

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