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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第四章 母になる

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薬草クラフト

 午後はヴェルノワ公爵家のご当主様のために、薬草でアイテム作りを行う。

 ゼラニウムにレモングラス、ミントを束にし、壁飾りスワッグにした。


『オデットよ、その薬草は何か効果があるのか?』

「はい! いい香りかつ、虫除け効果がある薬草を集めてみました」


 この辺りは自然が豊かで水場も多いので比較的虫が多い。隙間風がびゅうびゅう吹き付ける家の中で虫を見かけることがあるので、ヴェルノワ公爵家のご当主様に害がないよう作ってみたのだ。


 寝室のカーテンレールに吊り下げた状態で飾ってみた。


「この薬草がだんだん乾燥していって、お花がドライフラワーになるんですよ」

『乾燥した状態でも、香りがしたり効果を発揮したりするのか?』

「もちろんです」


 ドライフラワーは水分が蒸発し、香りや効果が消し飛んでしまうように思えるが、豊かな芳香を放っている。


「ただ、乾燥方法によっては香りが変わってくるんです」


 煎った薬草茶は自然乾燥させたものより豊かに香ると言われている。

 修道院ではその昔、煎って作る薬草茶は王侯貴族に納品していたようだ。


『ふうむ、作り方にも歴史があるというわけか』

「そうなんです」


 壁飾りスワッグが完成したので、二品目を作ろう。

 乾燥させていたラベンダーを細かくカットして、端布はぎれで作った小袋に詰める。最後にラベンダーの精油を垂らしたら安眠効果のある匂い袋サシェの完成だ。

 これを枕の下に入れたら、ラベンダーのいい香りがしてよく眠れるようになるのだ。


「そういえば、この辺りの薬草は季節外れと言いますか、シーズンではないのに元気に生い茂っているのですが、何か理由があるのでしょうか?」

『この辺りは我の竜脈があるので、栄養が豊富なのだろう』

「竜脈、ですか?」

『ああ。大地に芽吹くものにとっては、肥料のような効果をもたらす』


 そんなすごい土地だったなんて知らなかった。

 これから栽培する予定の野菜もいい物ができそうだ。


『それはそうと、よく眠っているというのに、それは必要なのか?』

「ええ。眠っているように見えるのですが意識はあるようで、私達の声なども聞こえているようです」

『そうだったのか。知らずに好き勝手言っていた。起きたらこの男は我になんて酷い物言いをしていたのか、と言って怒りそうだ』


 もしもヴェルノワ公爵家のご当主様が目覚めたら、私を盾にして隠れたい。ケロ様はそんなことを言っていたが、竜の姿に戻ったら私の背後に回り込んでも姿は丸見えだろう。


「ご当主様はお優しいので、怒らないと思いますよ」

『優しいか? そうだとよいのだが』


 ケロ様と一緒にヴェルノワ公爵家のご当主様の寝間着を着替えさせたあと、ブランケットを新しいものに換え、枕の下にラベンダーの匂い袋サシェを差し込む。

 すると、ヴェルノワ公爵家のご当主様の体がわずかに動き、「ありが……とう」と言ってくれた。


「ケロ様! 今、はっきりありがとうと言いましたよね?」

『ああ、しっかり聞いていたぞ』


 これまでの中でもっともはっきり発音した言葉だっただろう。

 石版の欠片集めが進んだおかげで、ヴェルノワ公爵家のご当主様の容態もよくなってきているみたいだ。


『オデットよ、喜んでいないで、返事をしてやれ』

「はい」


 少しだけ寝顔が穏やかになったように見えるヴェルノワ公爵家のご当主様に向かって、私はどういたしまして、と言葉を返したのだった。


 夕食はフォカッチャの余りと、オレガノをたっぷり入れた肉団子のオーブン焼きを作った。トマトソースをかけていただく。

 肉団子もケロ様はおいしそうに平らげてくれた。食べきれないかも、と思うくらい大量に作ったのだが、ぺろりと完食してくれた。なんとも幸せな夕食の時間となる。


 ヴェルノワ公爵家のご当主様への清拭は、冷え性に効果があるタイムで作ってみた。昼間、手を握ったときにいつもより冷たい気がしていたのだ。ぽかぽかの状態で眠れますように、と声をかけながら体を拭いていく。


 お風呂は今日もケロ様と一緒に入った。桶に張る薬湯をすっかり気に入っているようで、今日は上機嫌な様子で鼻歌を歌っていた。

 夜、一緒に眠りたいというので、寝台代わりの桶を私の私室に運んでくる。


『あの男に話が聞かれているとなれば、おいおいと一緒に過ごすわけにはいかないからな』


 なんでも寝言を聞かれるのが恥ずかしいらしい。なんともかわいいことを言ってくれる。


『不思議だな。オデットとは会ったばかりだというのに、ずっと過ごしてきたような気安さがある』

「光栄です」


 私も慈愛に満ちていて心優しいケロ様と一緒にいたら心が安らぐ。母と話しているときのような、特別な包容力があるのだ。


「あ、そうそう。ケロ様、報告を忘れていたのですが、ご当主様のご子息が見つかったようです」

『息子だと? あの男、いつの間に子なんぞ作っていたのか?』

「ロマンという、十歳の男の子なのですが」

『いったい何歳のときの子だ!?』


 ずっとその子が墓守をしていたという話を聞いていたが、記憶が混乱しているのだろうか。


「詳しい話はご当主様に聞いてみますね」

『ああ、それがいい。まったく、真面目が服を着たような男だと思っていたのに、やることをやっていたとはな! どこの娘に産ませたのやら……はあ』


 十年前に亡くなったという公爵夫人の記憶もないらしい。

 どうしてだろうか。ヴェルノワ公爵家のご当主様と前妻である公爵夫人の間に子どもがいると聞いて、心がモヤモヤしている。

 夢でヴェルノワ公爵家のご当主様と会ったら、気持ちはすっきりするのだろうか。

 そうだといいな、と思いつつ眠りに落ちた。 

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