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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第四章 母になる

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舌戦

 さて。このまま離れに戻ったら非常に流れ的には自然なのだが、私はまだここでやらなければならないことがある。

 それは石版の欠片探しだ。

 ケロ様が体を張ってくれたのに、私が何もしないわけにはいかない。

 どうにかして、私だけこの部屋に残れないものか。

 残念なことに私は盗人予備軍だと義弟から認識されている。

 それにここは義弟の執務室だ。二人で仲良くここに残っても意味はない。

 義弟だけが退室し、私だけが残るような状況などないものか。

 頭脳を最大限まで働かせた結果、お腹がぐ~~~~~と鳴った。

 義弟は恥ずかしい奴め、という眼差しを私に向けている。


「も、もうすぐ昼食ですねえ」

「そうだな」


 ここでハッと気づく。もしかしたら、そろそろお昼を食べる時間かもしれないのだ。

 すぐさま従僕へ問いかける。


「もうすぐお食事の時間なのでは?」

「ええ、そうですね」


 この状況に最適なアイテムを、私が所持していることに気づいた。すかさず提案してみる。


「ロマン君を発見してくださったお礼に、お部屋の掃除を任せてくれませんか?」

「何が目的だ?」


 嫌な疑い深さを見せてくれる。ここで負ける私ではなかった。


「お礼だと言っているではないですか」

「そんなことを言って、何か盗むつもりではないのか?」


 勘が鋭すぎる。ただ私が盗む――ではなくて探したいのは金品の類いではなく、石版の欠片だ。


「フレデ様がいらっしゃるときに、堂々と盗みを働くほど私もばかではないですよ」

「そのばかに見えるのだが」


 義弟は私に対してこれっぽっちも信用を置いていないらしい。失礼にもほどがある。

 私なんかを疑う暇なんかがあれば、自分の妻をもっと監視しておいてほしいと思った。


「でしたら~~、この部屋にある価値のある品はすべて持ち出してください。フレデ様が安心できる状況で、お掃除いたしますので」


 義弟の疑いの眼差しがぐさぐさと突き刺さる。

 こうなったら、と最終手段を口にした。


「私は教養がなく、フレデ様を喜ばせる方法も存じません。まともにできることといえば掃除くらいで……」


 目を見開いて乾燥させていた状態から素早く瞬きをすると、涙がぽろりと零れた。眼球に乾きは大敵だが、泣き真似したいときにはこの方法が役立つのだ。


「そもそも本日は、お屋敷の掃除でもしていたら、何か食べ物をお恵みいただけるのではないか、と思い、掃除道具を持って馳せ参じていたのですが」

「まるで物乞いだな」

「はい、物乞いです。そして掃除をすることでしか、感謝の気持ちを示す手段を知らないのです」


 義弟は呆れた様子で立ち上がると、従僕に部屋に飾ってある調度品を持ち出すように命じていた。


「好きにしろ」

「ああ、ありがとうございます!!」


 どうやら泣き落とし作戦は成功したようだ。

 義弟がいなくなると、従僕達が高そうな品々を部屋から持ち出していく。

 そして誰もいなくなった部屋で私は、箒の柄を握り立ち上がった。


 ケロ様はまだ目覚めそうにない。しばらく安静にしていたほうがいいのだろう。

 義弟が昼食を食べている間に、なんとか探し出さなければ。

 掃除をしている振りをしつつ捜索を開始した。

 長椅子のクッションの下やテーブルの裏、窓枠の隙間に絵画の裏など、怪しいと思われる場所を探るも見つからない。

 あとは執務机の引き出しの中か。そう思って確認しようとしたが、鍵がかかっていた。

 こういう机の鍵は扉に比べたらシンプルである。ヘアピンで解錠できるはずだ。

 さっそく鍵開けに挑む。あっさりと開くことができた。

 一段目には便せんや封筒、インク壺にペン先などの新品の文房具が入っていた。

 別に鍵をかけて保管するような物は入っていない。

 二段目には未開封の手紙がどっさり出てきた。上質な紙質から察するに、おそらく夜会などの招待状なのだろう。下のほうにあった手紙の消印は一年前の日付だ。

 義弟が当主代理になってから、他家の招待などを無視しているのだろう。

 それでいいのか、ヴェルノワ公爵代理よ……。

 最後、三段目には領地からの嘆願書らしい書類の束がぎゅうぎゅうに入っている。

 ヴェルノワ公爵家は北方にある雪深い土地が本拠地だそうだ。

 嘆願書には魔物が出るから騎士を派遣してほしいとか、農作物が育たなくて小麦が足りないとか、切実な願いが書かれていた。

 義弟はこれらの要望を一年間、無視し続けているのだろう。

 呆れたものだと思いつつ書類の束を置いたところ、何か違和感を覚える。

 書類を置いたときの音が、少しおかしかったのだ。

 もしや、と思って引き出し内を探ってみる。すると、底が蓋のようになっていて、空間があったのだ。中には石版の欠片が隠されていた。


「――!!」


 喜びの声を上げたかったが、ぐっと我慢する。

 数は一つだが、けっこう大きな欠片だ。これを填め込んだら欠けているスペースの大半を占めるだろう。

 素早く石版の欠片を回収し、代わりに私が適当な文字を刻んだ平たい石を入れておいた。

 屋敷の中を探すとわかった時点で、持ち出したとバレないようダミーの石を用意していたのだ。


 引き出しを閉めてしっかり鍵をかける。残りの時間は一生懸命義弟の部屋を掃除した。

 おかげで、戻ってきた義弟に「真面目に掃除をしていたようだな」とお褒めの言葉をいただいたのだった。

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