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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第四章 母になる

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想定外のバトル!?

「そこで何をしている。まさか掃除メイドに変装をし、部屋を荒らそうなどと考えていないな?」

「いえいえ、そんなわけありません!」

「ではなぜ、そのような格好でここにいる?」

「えーー、それはーー、そのーー」


 困った。本当に困った。大ピンチである。

 以前、エリスが義弟は朝から晩まで国家魔法師の仕事をしているので家にいないと聞いていたので、会わないだろうと安心しきっていた部分があった。

 まさかドンピシャで遭遇してしまうなんて。


 わかりやすいほどにうろたえる私の腕を義弟は強く握り、高く掲げながら叫んだ。


「この、盗人め!!」

「まだ、何も盗んでおりません~~!!」


 今、騎士隊に通報されたら家主と盗人の様子にしか見られないだろう。

 誤解だ。誤解である。私はヴェルノワ公爵家の金品を盗みにきたわけではない。

 慌てて弁解する。


「ち、違います、私は盗みを働きにここへやってきたわけではありません!」

「だったら何をしにきたというのか?」


 石版の欠片を探しにここへやってきた、などと言えるわけがない。


「言え! 何をしにきたのかを!」

「い、痛っ!!」


 義弟が腕を握る手に力を込めたので、思わず大きな声を出してしまった。

 もう謝って、いっそのこと楽になってしまおうか。なんて考えていたそのとき、私が持っていたかごから丸い物体が飛びだしてきた。

 それは義弟の顎めがけて一直線、そして激突する。


「がっ!!」

『黙ってきいておれば、大きな口を叩きおってゲロ!!』


 義弟の言動を聞いたケロ様がお怒りになった!

 あまりの勢いに義弟は私から手を離し背後に倒れる。

 そして、信じがたいという視線をケロ様に向けていた。


「な、なんなのだ、その翼の生えたカエルは!?」

『我のどこがカエルゲロ!? 失礼ゲロ!!』


 今回に限ってはケロ様を庇うことはできない。見た目や喋りなど、何もかもがカエルそのものだから。


「もしや魔物か? お前は、魔物を従えているのか?」

「魔物、ですか?」

「なんて女なんだ! 一度、異端諮問機関に調べてもらったほうがいいだろう」


 一瞬、何を言っているのかわからなかった。けれどもケロ様が怒る様子を見て、私はようやく気づく。


『だ、誰が魔物ゲロか!』


 あろうことか、義弟はケロ様を魔物扱いしたのだ。

 この金色に輝くワガママボディを見て、ご先祖様だと気づかないなんて。

 そもそも、魔物が人語を話すなんて聞いたことがない。もしもいたとしたら、とてつもなく高位の魔物だろう。

 高位の魔物にケンカをふっかけたらどうなるのか、考える頭さえないようだ。


『許さんゲロ! お前だけは絶対に許さんゲロ!』


 ケロ様は息を大きく吸い込む。

 はっ、あのモーションはまさか、ブレス攻撃!?

 魔法陣が浮かび上がり、光の粒が浮かんでケロ様の周囲に集まる。

 ついにケロ様はブレス攻撃をする力を取り戻したのか。


 ――我をカエルどころか、魔物呼ばわりしたことを、後悔せよゲロ!!


 メッセージを直接脳内に!?

 ブレス攻撃を発動中で喋ることができないからか、ケロ様は特殊な方法で語りかけてくれた。私にまで聞こえるようにしてくれるなんて親切である。


 そしてついに、ケロ様のブレス攻撃は放たれる。

 眩い光線が義弟に伸びていく。


「あれは、紛れもなく本物のブレス攻撃!!」


 義弟は驚き、身動きも取れないでいた。

 全治三日くらいの怪我を負ったら、さすがの義弟も反省するだろう。

 そう思っていたが――義弟へ直撃したのは、光るだけの長い舌だった。

 義弟の胸元に舌先が当たり、素早く収納されていく。

 ダメージはまったくないように見えた。

 今のはブレス攻撃ではなく、ただエフェクトが派手なだけの舌の出し入れだった。


「ば、ばかげたことをして!!」


 義弟はそう叫ぶと、目の前を飛んでいたケロ様を張り手で叩き落とそうとした。


「ケロ様!!」


 私は床に向かって飛び込み、スライディングをしながらケロ様の御身をキャッチする。

 床への激突は回避できたものの、張り手によるダメージは避けられなかった。


「ケロ様! ケロ様!」


 私の手の中にいるケロ様はぐったりしていた。意識もないようで、荒い呼吸を見せるばかりである。


「どうしてこんな酷いことをするのですか?」

「羽虫のように目の前を飛んでいたからだ」


 義弟のことは無視してしばしケロ様を見守っていたら、だんだんと呼吸が落ち着いてきた。安静にしていたら目覚めるだろう。

 ホッとしたのもつかの間のこと。

 義弟はずんずんと大股でやってきて、私の頭をむんずと掴んで問いかけた。


「もう一度聞いてやる。ここへ何をしにきたのだ?」

「そ、それは――フレデ様に、聞きたいことが、ございまして」

「ほう、なんだ?」


 もうどうにでもなれ! と思いつつ、義弟に質問をぶつけた。


「行方不明になっているという、ご当主様のご子息について、お話を聞きたくって」

「なぜ、気にする?」

「私の息子になるお方のことですので」


 義弟は何を思ったのか、頭から手を離してついてくるように言う。

 背後にいた従僕が部屋の鍵を開いてくれた。


「こい。お前が気にしていたことについて、説明しようと思っていたところだった」

「そうだったのですね!」


 中で説明してくれるらしい。私はケロ様を胸に抱きながら、義弟の部屋へ入らせていただく。

 そこは重厚な家具で統一された、立派な執務室だった。

 入ってすぐに目についたのは、黄金竜の大きな絵画である。あれはケロ様の姿を描いたものなのだろうか? 壺や絵皿などの調度品なども品よく置かれていて、義弟が揃えたとは思えないくらい趣味のよさだった。

 おそらくだが、ヴェルノワ公爵家のご当主様の部屋を義弟が乗っ取っているのだろう。

 勧められる前に勝手に長椅子に腰掛ける。義弟は斜め前に座った。


「行方不明だった甥を発見した」

「なっ、ご子息が見つかったのですか!?」

「そうだと言っている」


 なんでも騎士隊に保護され、現在は事情を調査している最中だという。

 義弟自身も本人確認をしたようで、間違いないという。


「数日以内にはここへ戻ってくるだろう」

「そうだったのですね。よかった……!」


 ご子息が帰ってきたら、何か事情について聞き出せるかもしれない。

 謎の解明が早まることは間違いないだろう。


「ただ――」

「ただ?」

「記憶を失っているようだ」

「なんですって!?」


 せっかく話を聞こうと思っていたのに、ご子息の記憶までないなんて。


「甥が戻ってきたら、お前もここに住め」

「え、どうしてですか?」

「離れで暮らしていたら、甥が不審がるだろうが」


 結婚式当日から義弟に対して不審がっていたが、私の気持ちはどうでもいいのだろう。


「ご当主様はどうなさるのですか?」

「兄上は引き続き、離れで暮らしてもらう」

「そんな! 私だけお屋敷に住むわけにはいきません!」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様が離れにいるのならば、私もそこで暮らす。そう強く訴える。


「屋敷のほうがいい暮らしができるというのに、頑固な娘だ」

「私はいい暮らしをしたくて結婚したわけではなく、ご当主様の妻になるために結婚しましたので」

「食事は三食用意する、着る物もまともな物を与える。侍女やメイドも侍らせてやろう。必要な品があればなんでも買え。これでも受け入れないのか?」

「ええ。私は夫であるご当主様がもたらしてくれた物のみ、受け入れるつもりです」


 清貧を第一に暮らしてきた元シスターを舐めるな! と言いたくなる。

 物欲がないわけではないが、それらを義弟に与えられるというのも気に食わなかったのだ。


「わかった。兄上については考えておくから、屋敷で暮らせ」


 返事をしていないのに、義弟は勝手に話を進める。

 

「階段を上がってすぐにある部屋が、ヴェルノワ公爵夫人の部屋だ。そこを使え」

「あーー、なるほど!」


 義妹が慌てた様子で公爵夫人の部屋にあった私物を持ち出していたのは、私がその部屋を使うことになるからだったのだ。

 犯行を報告しようかと思ったものの、この情報は義妹の弱みとして握っておくことにした。


「ちなみにご子息はおいくつくらいなのですか?」

「十歳だ」

「十歳!?」


 若くても三十は超えているだろう、と思っていたが、思いのほか若かった。

 そういえばヴェルノワ公爵家のご当主様に嫁いだ女性は若くして亡くなったという話を聞いていた。おそらくだが、歴代のヴェルノワ公爵夫人は子どもを産む前に亡くなっていたのだろう。

 ご子息は十年前に不審死したという先代公爵夫人の子どもで間違いないだろう。


「お名前はなんと言うのですか?」

「ロマンだ」

「ロマン君……」


 まさか夫であるヴェルノワ公爵家のご当主様より先にご子息の名前を知るなんて。

 記憶を失っているというので、さぞかし不安だろう。

 母として彼、ロマンを支えなければと思ったのだった。

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