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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第四章 母になる

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続、調査せよ!

 石版の欠片は上層階にあるそうなので、さっさと階段を上がらないといけない。

 けれども再度、他の使用人から声をかけられたら誤魔化せる自信なんてなかった。

 偶然にも、掃除道具を保管する部屋を発見したので箒を借り、頭には三角巾を巻いた。これで掃除メイドに見えるかもしれない。

 変装したことについてケロ様から何か言われるかも、と思ってかごの中を見たところ、すやすやとお眠りのようだった。

 お腹いっぱい朝食を食べて、私がいい感じに揺らしながら移動したので、ゆりかごみたいになっていたのかもしれない。

 大人しいと思っていたらまさか眠っていたとは。

 ひとまず上の階に行けと言われているので、到着できたら起こそう。


 もう誰にも見つかりませんように。そう願いつつ階段を上っていくと、話し声が聞こえた。


「いい? 全部私の部屋に運んでちょうだい! 急いで」


 声の主は義妹ウラリーだった。階段を上った先にある部屋から出てきたので、鉢合わせになってしまう。思わず顔を伏せて会釈した。すると、想定外の声がかかる。


「あなた、ちょうどよかったわ。中で手伝ってちょうだい」

「は、はあ」


 いったい何を手伝わせようと言うのか。部屋に入ったら指示が飛んでくるだろうと思い、義妹からは聞かないでおいた。

 誰の部屋なのだろうか。瀟洒しょうしゃな家具が並んだ洗練された部屋である。

 皆、忙しそうにバタバタ動き回っている。手にはドレスに帽子、宝飾品が入っているであろうアクセサリーケースなどを持ち出しているようだ。

 部屋に戻ってきた男性使用人に声をかける。


「あの、ウラリー様からお手伝いをするように言われたのですが、何をすればいいでしょうか?」

「ああ、ここにある品物をウラリー様の部屋に運ぶんだ」

「わかりました。あの、ここはどなたのお部屋なのですか?」

「亡くなった先代公爵夫人の部屋だよ。ご子息がいたときは立ち入りを禁じていたようだけれど、突然いなくなってしまったから」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様の息子は行方不明らしい。ここで聞くことになるなんて、想像もしていなかった。


「あの、ご子息はどうして行方不明になっていたのですか?」

「誰かの恨みを買っていたとか、女に刺されたんじゃないかとか、いろいろ噂があったけれど、どれもゴシップ誌の記者がでっちあげた話らしいし、よくわからないんだ」


 ご子息はどんな方だったのか、と聞こうとしたら、ウラリー様がやってきて怒られてしまった。


「何をやっているの!? お喋りしないで、さっさと運んでちょうだい!」

「は、は~い」


 運びながら思う。なぜ、先代公爵夫人の私物を義妹が引き取っているのかと。

 まるで物盗りをしているような早さで作業を進めるように言うのだ。

 もしかしなくてもご子息が行方不明なのをいいことに、義妹は黙ってここの品を持ち出しているのだろう。呆れた話である。


 義妹と元公爵夫人の部屋を往復したので疲れてしまった。

 とぼとぼと歩いていたら、「きゃあ!」という叫び声が聞こえた。声の主は義妹である。


「どうかしましたか!?」

「か、か、か、カエルよ!! 気持ち悪い色合いのカエルがいるの!!」


 顔を真っ青にさせた義妹が指をさしているのは、私が先ほどまで持っていたかごである。

 中に入っているのはケロ様だ。


「あ、あ~~~~、これは、その、夕食用のカエルなんです!」

「食用カエルですって!?」


 私がかつて住んでいた村には、食用カエルがたくさん生息していた。

 食用カエルは貴族にも人気で、シーズンになると王都から商人がやってきて買い付けにきていたのだ。一匹捕まえたら銅貨一枚になるので、友達と一緒にカエルを追いかける日々を過ごしていたのである。

 そんなわけで、とっさに食用カエルだという言い訳を思いつけたのだ。


「そんな気持ち悪い生き物、食卓に上げないでちょうだい!」

「わかりました~~。厨房の料理人に伝えておきます」


 かごの中をそっと覗き込むとケロ様は爆睡していた。義妹の暴言は聞いていないようで、ホッと胸をなで下ろす。

 カエルのシーズンは初夏なので、厨房に言いにいかずともしばらく食卓には上がるまい。 食材扱いして申し訳ありません、と心の中で謝罪しておいた。

 そのまま立ち去ろうとしたら義妹から呼び止められる。


「あなた!」

「は、はい?」


 ドキドキしながら振り返る。いったい何の用事なのか。


「これから出かけてくるから、ここを片付けていなさい」

「はい、よろこんでーー!」


 下町の大衆酒場パブの店員みたいな返事をしてしまったが、義妹はそのままいなくなった。おとがめではなかったので心底安堵した。


 義妹から解放されたあと、リネン室に隠れてケロ様に声をかける。


「ケロ様ーー、起きてくださーーい!」

『んんんゲロ?』


 声をかけてすぐに目を覚ましてくれた。上の階にきたことを告げると、案内を再開する。


『石版の欠片は近いゲロ!』

「助かります!」


 ケロ様の誘導に従い、急ぎ足で廊下を駆ける。


『ここの部屋ゲロ!!』


 そこはひときわ大きな扉がある部屋だった。


「こちらは――」


 なんだか嫌な予感がする。そう思いながらドアノブを捻ると、がちゃん、と手応えのない音が響き渡った。どうやら鍵がかかっているようだ。


『ふむ。では我のブレスで扉をぶっ飛ばすゲロか?』

「あの、止めたほうがいいと思います」


 もしもブレス攻撃が成功して扉を破壊できたとしても、私の責任にされてしまうだろう。


「待ってくださいね。ヘアピンか何かでこじ開けられるかもしれません」


 しゃがみ込んで鍵穴を覗き込む。シスター時代、外でお喋りしていたら門限の時間が過ぎてしまい、教会内に入れなかったことが何度かあった。そのたびに、ヘアピンで鍵を開けて入っていたのだ。


「あーこれ、ちょっと複雑ですねえ」

「何が複雑なのだ?」


 背後から問いかけられた声に、飛び上がりそうになるほど驚いてしまう。

 振り返った先にいたのは義弟だった。


「なんだ、掃除メイドかと思えば、義姉上ではないか」

「は、はあ! どうも、お帰りなさいませ!」


 額にぶわっと汗が浮かぶ。

 蛇に睨まれた蛙の気分をこれでもかと味わってしまった。

 どうやらここは義弟の部屋らしい。知らなかったーーーー。

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