石版の欠片を探そう!
さっそくケロ様と庭に出て石版の欠片探しを行った。
『こっちの方向ゲロ!』
美しい冬薔薇が咲く庭を通り抜け、行き着いた先は池だった。
大きさは庶民の家にある浴槽二つ分くらいか。そこまで大きなものではないだろう。
「えーーーっと、まさかここに?」
『そのようだゲロ』
水中に三個の石盤の欠片が投げ込まれているらしい。
池の表面はうっすら凍っていて、水中に入っての調査が極寒を伴うことは目に見えていた。
「まず、氷を割ってみましょうか」
『そうゲロな』
何かの役に立つかもしれない、と鍬を持ってきていたのだ。
氷を叩くとヒビが入って割れる。そこまで厚く凍っているわけではないようで、ホッと胸をなで下ろした。
鍬でなんとか探せないかと掬ってみるも、石すら拾えない。
ひとまず氷を撤去してから水深を測ってみる。鍬を池に沈め、どの程度深さがあるか調べてみた。
「おっと……けっこう深いですね」
私の膝くらいの深さがありそうだ。そうだとわかれば、次にすることはわかっている。
スカートの裾を捲り上げ、腰の部分で結んでいるとケロ様が慌て始める。
『ちょっ、オデットよ、何をしているゲロ!?』
「池に直接入って探すんですよ」
『冬の池に入ったら、風邪を引いてしまうゲロ!』
「大丈夫です! 体は頑丈ですので」
元気なのが取り柄だ。雪が深く積もっていた戦場でも、一度も風邪を引いていないのが自慢である。
「冷たい程度の池なんて、私にとって脅威ではありません」
靴と靴下を脱いで、気合いを入れて池の中へ入る。
「えいや!!」
ドボン、と勢いよく体を浸けると、キンと冷たい水に悲鳴をあげてしまう。
「ひい!!」
『ほら! やはり冷たいゲロ!』
「平気です! ブランケットすらなかった結婚初日の晩のほうが寒かったので、たぶん!」
もう濡れることを躊躇ってはいけない。しゃがみ込んで石版の欠片らしき石を探す。
「う~~~~ん」
『オデットよ、我も一緒に探すゲロ!』
ケロ様はそう言って池に飛び込む。ジタバタと手足を動かしたものの、まんまるの体は潜ることができなかったようだ。
脱力した様子で池にぷかぷか浮かんでいた。
『なにゆえ、この体は沈まないゲロか』
「ど、どうしてでしょうねえ」
私が頑張るしかないようだ。
中腰で探し続けるのもきついので、完全に座り込んで手探りで探す。
けれども掴む石掴む石、ただの石であった。
見たところ、この池では魚など飼育していないようだった。
ダメ元で提案してみる。
「あの、石版の欠片の修繕を行ったさい、石自体が熱くなっていたんです。そういうのをケロ様の指示でできないですか?」
『できるゲロ!』
石版の欠片が動いたり、熱くなっていたりしたのはケロ様の無意識中の行動だったらしい。現在散らばっている石版の欠片も同じように熱くできるというので、すぐにやってもらった。
『石版の欠片よ、熱を持つゲロ!』
するとキンキンに冷たかった池が、沸騰したお湯みたいにぐつぐつと煮立ったようになった。
「あ、熱ッ!!」
我慢できず、慌てて池から出てしまう。
『ん、どうしたゲロか?』
「その、熱すぎました」
『すまないゲロ。加減がわからなかったゲロ』
ケロ様は竜だ。人間がどれくらいの温度が心地よくて逆に熱いと感じるのか、理解するのは難しいのかもしれない。
「えーっと、人肌くらい、というのはわかりますか?」
『オデットの手のひらの上に感じるくらいの温度ゲロ?』
「そうです!」
『わかった。試してみるゲロ』
逆に石版の欠片を冷やすこともできるようで、池はあっという間に冷やすことができたようだ。
『池はこれでいいゲロか?』
「はい、ばっちりです」
『では、石版の欠片を人肌にするゲロ』
「お願いします」
できたというので、再度池の中へと入る。
先ほどよりも冷たい気がしたが、私の体温が下がっているのでそう感じてしまうのかもしれない。
これ以上時間をかけたら、さすがの私も風邪を引いてしまうだろう。
集中し、なるべく短い時間で石版の欠片を三つ発見しなければ。
「よーーし!」
気合いを入れ、息を大きく吸い込む。
石版の欠片には呪文が刻まれているので、見た目でもわかるだろう。
そう思って池に潜ってみた。
幸いと言うべきか、池の中はきれいで澄んでいた。水底にある石に触れるも、温もりは感じない。
簡単には見つけられないか、と考えているところに突然、目の前に丸い生き物が飛び込んできた。
ケロ様である。私が潜ったのであとに続いたのだろう。
ただすぐに浮上しそうになったので、捕まえてあげた。
ケロ様は尻尾を使い、石版の欠片があるほうこうへと誘導してくれる。
水草をかき分けた先に、呪文が刻まれた石版の欠片を発見した。
「――!!」
すぐさま掴んで浮上する。
「み、見つけました~~~~!!」
『でかしたゲロ!!』
息を整えたあと、再度ケロ様と一緒に潜って残りの石版の欠片を発見した。
今回、ヴェルノワ公爵家のご当主様が握っていた物と池に沈んでいた物の計四つ、発見することができた。




