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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第三章 謎を追え!

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とっておきの朝食を

 朝――気持ちよく目覚める。

 昨晩、おいしい夕食を食べてゆっくり眠ったからか、ぐっすり眠れたような気がした。

 夢の中でヴェルノワ公爵家のご当主様と言葉を交わせたのもよかった。

 大きな一歩だったと言えよう。

 着替えを行い、髪を結って顔を洗った。

 今日は早起きできたので、義弟の襲来はまだない。

 昨日、ガラスの破片で怪我をしたので、今日は何か報復されそうな気がする。

 対策を打っておいたほうがいいだろう。

 しばし考えて思いついたのは、とっておきの料理を作っておもてなしをしよう、というものだった。

 プライドが高い義弟なので、私が作った料理は絶対に口にしないはず。

 そのため、見た目はまずそうだが、実はおいしいスープを作ろう。

 まず、外で薬草を摘んでいく。なるべく濃い色合いで煮込んだときに青々しい状態になりそうなものを選ぶ。

 次に摘んだ薬草を煮込む間、昨日のスープを乳鉢ですり潰していく。

 火が通った薬草もすり潰し、スープと合わせる。すると、どろどろした緑色のスープが完成した。

 絶妙においしくなさそうな見た目で、怪しげなどろどろ感があるのもすばらしい。味はおいしかった。思い描いていたイメージ通りのスープである。

 料理を終えたところで玄関のほうから物音が聞こえた。

 予想どおり、義弟が訪問してきたのだろう。

 玄関までお迎えにいくと、昨日怪我をした頬に大げさなくらいのガーゼが当てられていた。あんなの、傷薬を塗るだけでいいようなかすり傷だったのに。

 まあいい。今日は元気よく挨拶してみた。


「おはようございます!」

「お前は、朝からどうしてそのようにヘラヘラしているのか」

「今日はおいしいスープができたんです。召し上がっていかれますか?」

「スープだと!? どこにそんなものを作る材料があったのか!?」

「庭です」

「は?」

「庭で採ったばかりの薬草を使ってどろどろになるまで煮込みました! 待っていてくださいね、お見せしますから!」


 ぼこぼこと怪しく沸騰するスープ鍋を義弟に見せびらかす。

 本当においしいのに、青臭い匂いが漂っていた。


「こちらです!!」

「なっ――」


 義弟は不快そうにハンカチを口元に当てた。


「なんだ、その、家畜の餌のような液体は!?」

「ヴェルノワ公爵家のお庭の薬草を、井戸の水で煮込んだだけの、ごくごくシンプルなスープです」


 どうぞ! と差しだしたものの、義弟は後ずさる。


「ここ数日、食事をいただけなかったので、薬草スープを飲んで暮らしております」


 召し上がっていかれてください! とお誘いしたのに、義弟は舌打ちをして帰って行ってしまった。


「……勝った!」


 初めての完全勝利かもしれない。

 朝の訪問はああやって追い返せばいいのだ、と気づいた。


『何事ゲロか?』


 ぺったん、ぺったんという音と共にケロ様がやってきた。


「おはようございます」

『おはようゲロ』


 義弟がやってきていたことを告げると、ケロ様は不快そうな表情を浮かべる。


『あやつめ……。オデットをいじめるためにやってきたゲロか。暇な奴ゲロ』


 本当にそのとおりだと思う。毎朝私を構う時間を作るなんて、律儀なお方だなと思った。


『して、その手にしている鍋は何ゲロ?』

「フレデ様を追い返すために朝から作った、薬草スープです!」


 ケロ様にスープを見せてあげると、こんなものを食べているのか、と驚かれてしまった。


「このスープ、酷いのは見た目と匂いだけで、味はちゃんとおいしいんですよ。ケロ様もお召し上がりになりますか?」

『ふうむ、まあ、そこまで言うのであればいただくゲロ』

「わかりました!」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様の寝室に花瓶を置くような丸いテーブルを運び、そこに二人分のスープ皿を並べた。


『オデットよ、嬉しそうゲロな』

「はい! ここにやってきてから、誰かと一緒に食事をするのは初めてなんです」

『そうだったゲロか』


 ケロ様のお口に合えばいいのだが。ドキドキしながら食べる様子を見守る。


『では、いただくゲロ』


 ケロ様はカメレオンのような長い舌先をスープに伸ばし、ごくん! と飲み込む。


『こ、これは! たしかにおいしいゲロ!』


 そう言って次々と食べてくれた。あっという間にお皿は空になる。


「まだ食べますか?」

『あるゲロか?』

「たくさんありますよ」

『だったら、いただくゲロ!』


 お口に合ったようでホッと胸をなで下ろす。

 私もスープをいただこう。薬草をこれでもかと入れたスープはシンプルながらも味わい深く、おいしく仕上がっていた。

 朝にぴったりの一品と言えよう。義弟を追い返す目的で作ったものだが、スープを作った翌日のアレンジとして今後も作ろうと思ったのだった。


『目覚めてから力が湧かないと思っていたのだが、具現化するさいは食事を取らなければならないというのを忘れていたゲロ』


 なんでも具現化は久しぶりらしく、食事の概念を失念していたらしい。


「どれくらい具現化していなかったのですか?」

『千年以上はしていないゲロ』

「せ、千年……!」


 それだけ眠っていたら忘れるのも無理はないのだろう。 


『ただ眠っていただけの我とは違い、こやつにかかっている呪いは厄介ゲロな』

「ええ……」


 と、ここで昨晩、夢の中でヴェルノワ公爵家のご当主様と会話ができたという話を思い出す。ケロ様にも報告した。


「あの、昨日の夜に、夢の中にご当主様が出てきてくださったんです」

『この男がゲロか?』

「はい!」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様はこうして眠っているように見える状態でも、意識はあって私達の話は聞いているという。


『なんだと!? ならば文句を言ってやるゲロ!』


 ケロ様はそう言ってヴェルノワ公爵家のご当主様のお腹の上に飛び乗り、何やら叫び始める。


『この! 呪いなんぞ受けよって! まぬけゲロ!』


 その瞬間、ヴェルノワ公爵家のご当主様の眉間にわずかに皺が寄ったような気がした。


『はは! 言い返せないのが、悔しいゲロか?』

「まあまあ、文句はそれくらいにして」


 シーツに魔法陣があるはずだと言うと、ケロ様が探し出してくれた。


『これゲロな』


 魔法陣は細い文字と円で構成されており、目を凝らさないとわからないくらい薄い。

 洗濯をしようとシーツを剥がしたら、魔法陣なんかに気づかずにジャブジャブ洗っていただろう。


『なるほど。こやつの記憶もなくなっていたゲロか』

「はい。おそらく石版が破壊されたことと、呪いは何かしらの関係があるようです」


 今日は庭にあるらしい石版を探そう。なんて会話をしていると、玄関扉が控えめにとんとんとん、と叩かれた。

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