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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第三章 謎を追え!

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仕事をしよう!

 今日はケロ様が眠ってしまったため石版の欠片探しはできない。

 そのため別の作業を行う。

 夕食用の二枚貝のスープを仕込んだあと、汚れてもいいワンピースに着替える。

 麦わら帽子でもあればよかったのだが、ないのでハンカチを三角形に折って被り、後頭部の辺りで結んだ。

 先日、王都の市場で購入した鍬を担いで外に出る。

 これからする作業は畑の位置探しだ。

 なるべく義弟の目に付かず、水はけがよくて太陽光がたっぷり当たる場所がいい。

 大地を足で踏みしめ、ほどよくふかふかな場所の土を掘り起こして確かめる。

 野菜作りに向いているいい土とは、ぎゅっと手の平で握ったときに固まり、押すとほろほろ崩れるような状態である。

 五カ所ほど土を掘り返し、もっとも良質な土があった場所に決めた。

 まずは鍬で雑草ごと土を掘り返す。根が深く伸びているものは抜いて回った。

 脅威は雑草だけではない。土に埋まった幼虫なども要注意である。春先になってひょっこり顔を覗かせたときに、畑の作物を食べられたら大変だから。

 掘り起こしてしまった幼虫は桶に入れ、野鳥に食べてもらうようにその辺に放置しておく。おそらく数時間と経たずに完食してくれるだろう。

 続けて鍬で畑を叩いて土を細かくしていく。

 空気を土に入れ込むことによって、畑の働きが活発になるのだ。肥料もよく行き渡るようにもなるので、大事な作業なのだ。土の中に混ざった雑草や大きな石を取り除くのも忘れずに。

 かなり畑らしくなってきた。次の工程に移ろう。

 土に粉末にした貝の殻を撒く。ちなみに貝は夕食のスープ用にだしを取ったあとの物だ。

 これにも大きな意味がある。畑はこのままだと野菜の栄養が欠乏してしまうので、貝の粉末を入れて必要な成分を土から補給させる目的があるのだ。

 通常であれば栄養分を馴染ませるために半月から一ヶ月放置しなければならないが、今回使った貝は魔力を含んでいるらしく、すぐに土に吸収されるらしい。

 そのため、続けて肥料を撒くことができるのだ。

 貝は料理用である以前に、畑に使うために買ったものである。効率的な畑作りに必要なのだ。

 いい感じの畑が仕上がったので、さっそく種を撒く。

 エンドウにホウレンソウ、カブにタマネギ、ジャガイモ――上手くいけば一ヶ月後に収穫できる野菜もある。

 今後、調理中に出たゴミは肥料として発酵させておいて、追肥をするさいに使わせていただこう。

 馬糞や鶏糞などもあればいいのだが、屋敷内に動物用の小屋は見つからなかった。

 ただ、馬糞であれば御者のジェイクさんにお願いしたら貰える可能性がある。今度、声をかけてみよう。


 本日もシスター達から習ったことが活かされる一日だった。

 最後に野菜作りが成功しますように、と祈りを捧げる。


 畑作りで汚れてしまったため、今日は先にお風呂に入らせていただいた。

 思いっきり鍬を振るったので腕が筋肉痛を訴えていた。こういう日ほどゆっくりお風呂のお湯に浸かるに限る。

 乾燥させたローズマリーの束を浴槽に放り込んだ。

 ローズマリーには血行促進効果があり、疲れた筋肉を癒やしてくれるのだ。

 浴室にローズマリーの若葉を思わせる、すっきりとした香りが漂う。

 先にヴェルノワ公爵家のご当主様の分の薬湯を木桶に確保したあと、ゆっくり浸からせていただいた。


「は~~~~~~~」


 修道院にいた頃は浴槽になんて浸かれなかった。三日に一度くらいの頻度で大きめの桶にお湯を一杯貰えたらいいほうである。

 まだ教会での入浴はましなほうだった。戦場ではお風呂に入るなんて余裕はない。飲む水でさえ貴重という環境なのだ。お湯を焚くことの贅沢さを、身をもって知ることとなる。そんな戦場では体を拭いてなんとか凌ぐ生活を続けていた。


 義弟はいじわるだし、夫であるヴェルノワ公爵家のご当主様は呪われているし、大変な家に嫁いできたと思った。けれどもよくよく考えたら、贅沢な暮らしをさせてもらっている。今の暮らしに感謝しよう、と思ったのだった。


 入浴後は薬湯を寝室に持っていった。私の物音を聞いてケロ様が身じろぐ。


『ううん……オデット、ゲロ?』

「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」

『いいや、起きていたゲロ。何をしにきたゲロか?』

「ご当主様の清拭をしようと思いまして」

『お主は、なんと健気な娘ゲロか!』

「これくらいしかできることがありませんので」


 ケロ様は薬湯に興味津々だった。


『なんぞこれは。なんだかよい香りがするゲロ!』

「ローズマリーの薬湯です。疲労回復効果があるんですよ。入ってみますか?」

『いいゲロか?』

「ええ、どうぞ」


 そこまで湯は熱くないので、茹でガエル……ではなく茹で黄金竜にはならないだろう。

 桶の中にケロ様をゆっくり入れてあげると、気持ちよさそうに目を細めていた。


「湯加減はいかがですか?」

『ちょうどいいゲロ! ふむ、薬湯というのはいいものゲロな!』


 お気に召していただけたようである。その後、ヴェルノワ公爵家のご当主様には新しい薬湯を作り、体を拭いてあげた。


『お主、なんだか慣れた手つきゲロな』

「戦場で兵士相手にやっていたんですよ」

『貴族の娘が戦場ゲロか?』

「私は元々孤児で、シスターとして教会で働いていたんです」

『還俗したゲロか』

「はい」

『大変だったゲロ。これまで一人でよく頑張った、偉いゲロ』


 その声色は慈愛に満ちていて、なんだか母と話しているような気持ちになってしまった。

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