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夜のひととき

 ブランケットが乾いていたので、上着代わりに肩にかける。

 今日は手作りの箒を持って霊廟へ向かった。

 作り方は簡単である。細い枝を集めて束にし、外に数本あった物干し用の棒に結ぶのだ。あっという間に箒を完成させた。

 シスター時代に箒で遊んで壊してしまったときは、こっそり新しい物を作り直していたのである。

 あの当時の私は遊びたい盛りだったのだ。同じ年頃のシスターと一緒に仕事をしていたときは楽しかったな、と振り返ってしまった。

 霊廟の階段を下り、石碑がある空間を目指す。

 ブランケットのおかげか、今日はそこまで寒くなかった。

 一通り掃いて回るがちりや埃が落ちているわけではないので、掃除のしがいというものがまったくない。

 ただこれも毎日霊廟に通い、掃除をすることが大事なのだろう。

 掃き掃除が終わったあとは、石碑を拭く。

 そのさい、石版を填め込む位置を手で触れて確認しておく。


「んん?」


 辺りは薄暗く、しっかり目で見ているわけではないのではっきりわかるわけではないが、石版が崩れ落ちた範囲が思っていたよりも大きい気がする。

 修繕した石版を填め込んでも、スペースが余ってしまいそうだ。

 もしかして、石の欠片はここに落ちていた物だけではない? 辺りを探ってみたものの、新しい石の欠片は発見できず。もっとここを明るく照らせたらいいのだが……。

 まあいい。今日のところは離れに戻ろう。

 そう思って霊廟をあとにした。


 お菓子を食べていささかお腹いっぱいになっていたので、夕食はお昼に作ったスープのみいただいた。

 豆がたっぷり入っているので、スープだけでもお腹いっぱいになるのだ。

 そのあと、モミの葉っぱを煮込んで薬湯を作った。

 モミの葉には血行促進効果が期待できる上に、免疫力を向上してくれるのだ。

 ほんのり甘く優しい香りは眠る前にぴったりだろう。


「ご当主様~、薬湯の時間でーす」


 全身を拭いてあげたあとブランケットを被せてあげる。


「あ、そうだ。ご当主様がこれまでお使いになっていたブランケット、お借りしてもいいでしょうか?」


 布団一式を持っていないため、昨日はワンピースをブランケット代わりにしていたのだ。風邪を引かなかったのは奇跡としか言いようがない。


「今度王都にいったときに、換えのブランケットは買ってまいりますので」


 返事はないが、ブランケットをしばらく貸していただく。

 今日はゆっくりお風呂に入ろう。井戸から水をせっせと運び、薪を使ってお湯を沸かす。

 なんでも今は火の魔石を使ってお風呂を沸かすのが主流のようだが、ここの離れは古き良き薪風呂だった。

 両親と暮らしていた頃は薪風呂だったので、なんら問題はない。

 今日は石臼を運んで腰が悲鳴をあげてしまったので、腰痛に効くスイカズラの葉を布に包んで煮込んだ汁をお風呂に入れた。


「は~~~~~」


 なんとも癒やされる時間である。明日は腰がよくなっていますように。

 そんなことを願いつつ、お風呂でリラックスタイムを過ごしたのだった。

 部屋に戻ると、ブランケットを下に敷くか、かけて眠るか迷う。昨日は木の布団で眠ったので贅沢な悩みとも言えるのだが。

 しばし考えた結果、ブランケットを敷いて、ワンピースを被って眠ることに決めた。

 石版の乾き具合も確認する。いい感じに固まってきているように思えた。

 触れた瞬間、石版がじんわり温かくなる。

 これを抱いて眠ったらポカポカして熟睡できそうだ。なんて思ったが、朝になったら石版が崩壊する未来が待っているだろう。

 石版に向かってまた明日ねと声をかけ、眠りに就く。

 今日はお腹がいっぱいだし、たくさん働いたからかすぐに意識が遠のいていった。


 夢の中で黒い靄に再会する。今日は靄の中にうっすら人影が浮かんでいたような気がした。


「昨日よりも少し鮮明な感じですね」

『ガガガガ、ググググ!』

「あ、発音も明瞭になっている気がします!」


 ただ、依然として何を言っているのか謎である。


『ギギギ、ゲゲゲ』

「えーっと、何か一生懸命私に訴えているのはわかりますよ」


 ただ、残念ながら何を伝えたいのかは感じ取ることができない。


「それにしても、どうして昨日よりわかるようになったんですかねえ」


 昨晩との違いは空腹か否か。それともブランケットの有無なのか。


「うーーん。また明日になれば、状況が変わっているかもしれませんね」


 ひとまず黒い靄に向かって、状況が改善するといいね、と前向きな言葉をかけておいた。


 ◇◇◇


 翌日――気持ちよく目覚めた。

 二日連続でみた夢はいったいなんだったのか。謎でしかない。

 今日も一日頑張ろう! と背伸びをしていたところに、玄関からドタバタという物音が聞こえた。どうやら義弟がやってきたようだ。

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