石の謎
私がやってきても光は収まらない。それどころか強く光るようになる。
それはまるで何かを訴えているかのように見えてしまった。
石の欠片がまとうのは、眩い黄金の光。
ヴェルノワ公爵家のご当主様の呪いを抑えるさいの赤い光に比べたら、温かみを感じ恐ろしさなどは抱かなかった。
一歩、部屋に足を踏み入れると石の欠片がポップコーンみたいに跳ね上がる。
「えっ、えっ、えええ~~~~!?」
石の欠片は私に何かしてほしいのだろうか? 近づくにつれ動きが激しくなる。
邪悪な気配などはない。きっと触れても大丈夫だろう。
そう思って小さな石の欠片に触れてみる。
嫌がる様子はなく、大人しく私の手のひらに収まっていた。
「あ、温かい……!」
石の欠片は魔石懐炉みたいな、じんわりと温まるようなぬくもりがあった。
私の手のひらの上でも小さく跳ねている。
やはり、何か言いたいように見えてならない。
「ご当主様のもとへ行ってみますか?」
そう問いかけると激しく跳ねる。そうしてくれと言っているように思えたので、エプロンに石の欠片を乗せ、寝室に移動した。
寝室に入ると、石の欠片は沸騰した湯みたいにぽこぽこ勢いよく飛び上がる。
どうやらヴェルノワ公爵家のご当主様に伝えたいことがあるようだ。
寝台の上に下ろしてあげると石の欠片達は大きく跳ね、ヴェルノワ公爵家のご当主様の腹上で激しく飛び上がった。まるで殴打するような動きだったので、慌てて引き留める。
「あの! 落ち着いてください!」
金色の光にわずかに赤みが差しているのに気づいた。
石の欠片達はヴェルノワ公爵家のご当主様に対して怒っている? ここでふと、義弟がこの呪いは先祖の怒りによる呪いだ、と言っていたのを思い出した。
霊廟にあった石の欠片なので、もしかしたら先祖の恨みがこもっている可能性があるのだ。
「わーーーー、だめです!」
ブランケットごと石の欠片達を包みこみ、ヴェルノワ公爵家のご当主様から離す。ブランケットの中でも石の欠片達は暴れ回っているように見えた。
「落ち着いてください!!」
怒りは収まらないようで、だんだんと熱を発しているように思えた。
回れ右をし、急いで部屋に石の欠片達を連れて帰った。
寝台の上にブランケットを広げると、石の欠片達は勢いよく飛びだしてきた。怒ったようにその場で飛び跳ね、なぜ連れ帰ったのかと抗議しているように思えてならない。
「ご当主様にあのようなことをしてはなりません」
石の欠片を一個一個撫でてあげると怒りを抑えてくれた。
「ちょっとそこで待っていてくださいね」
石の欠片達に声をかけ、ブランケットを寝室に戻す。
お腹の上で石の欠片達が大暴れをしたものの、ヴェルノワ公爵家のご当主様はダメージを受けているようには見えなかった。
念のため、寝間着をめくってお腹に痣などが残っていないか確認する。
相変わらずミイラみたいに肌がしわしわであるものの、外傷は見られなかった。
ホッと胸をなで下ろしたのと同時に、ある違和感に気づく。
先ほどの行為が先祖の怒りならば、どうして呪いが発動されなかったのだろうか?
お腹の上で暴れるより、呪いを発動させたほうが苦しませることができるというのに。
石の欠片達の怒り方は子どもの癇癪というか、親しく信用している者への甘えを含んだ怒りに見えた。
「いったいどうして?」
石の欠片達は先祖とは関係ない存在なのだろうか。
わからないことだらけである。
ひとまず部屋に戻って石の欠片達と向き合ってみよう。
石の欠片達のもとへ戻ると、何やらケンカをしているようだった。
ひっついては離れ、体当たりしあう。それを繰り返していた。
「ケンカはだめですよ~~!」
仲裁するも収まりそうにない。いったいなぜ揉めているのか。
じっくり観察していると、石の欠片達が元の状態に戻りたくてくっつこうとしているのだと気づく。
ただ、どこと組み合えばいいのかわからず、ケンカになってしまうのだろう。
「わかりました! 私が直しますので、みなさん大人しくしていてください」
そう訴えると、話が通じたのか石の欠片達はぴたりと大人しくなった。
「いい子ですね」
褒めると石の欠片達が熱くなっていく。しだいに私が持てないほど熱くなったので、温度を下げてくださいとお願いすることとなった。
石の表面には古代文字らしきものが掘られていて、無地ではないのでありがたい。
ただ、普通のパズルと違って文字なので難易度はかなり高いだろう。
古代文字を読むことができないので、形状を見て組み合わせを考えるしかないのだ。
これは間違いない! と思って組み合わせても、石の欠片達は違うとばかりに離れていく。
「うう……なかなか難しいですね」
正解の組み合わせだと、石の欠片は眩い金の光を放つ。
この調子だ、と頑張って作業を続けた。
昼食を食べるのも忘れてやっていたら、五時間も経っていた。やっとのことで完成する。
「やったーーーーー!!」
石の欠片達は一枚の石版となった。
私の喜ぶ様子につられたのか、石の欠片達も飛び上がって喜んだ。
「あ!!」
石の欠片は散り散りとなり――あちこちに転がった。
「嘘ですよね!?」
せっかく直したのに、一瞬でバラバラになってしまった。
作業は振り出しに戻る。絶望から思わず白目を剥いてしまった。