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食事を……!

 信じられない。本邸にいったのに、なんの収穫もなかった。

 生ゴミすら、くれないなんて……。衝撃的すぎる。

 これからどう生きていこうか。なんて悲観する前に、まず、屋敷の敷地内で食べられそうな植物を探してみよう。

 庭師のいない庭を通り過ぎ、離れの近くまで戻ってくる。

 この辺りは手つかずの自然が広がっていた。

 さっそく薬草を発見する。

 辺り一帯にわさわさ生えていたのはショウガ草。ショウガに似た風味のあり、スープに入れるとピリッとした辛みがアクセントになる。

 続いて茎バジルという、スパイシーな味わいの薬草を発見した。

 生だと食べられないのだが、よく煮込むと辛みと渋みが際立ち、カリコリとした食感も楽しめるものなのだ。

 それからネギ草に辛子の実、葉ニンニクにコショウ豆など、食べられる植物をいくつも発見した。

 かご代わりのエプロンは瞬く間にいっぱいになったが――。


「もれなく全部薬味っ!!!!!」


 キノコでもあればスープが作れたかもしれないが、毒キノコしか生えていなかった。そもそも離れには鍋すらない。

 仕方がないので、井戸の水で洗い、生で食べられそうなショウガ草だけ食べてみたが……。


「毛虫……毛虫の気分……!」


 草をもっしゃもっしゃと食べる毛虫になったような気持ちをこれでもか、と味わった。


 チチ、と動物の声が樹上から聞こえた。顔を上げてみると、リスが栗みたいな木の実を食べているではないか。


「リ、リス! その木の実と私の薬味、交換しませんか!?」


 気迫がリスに伝わってしまったのか、リスは逃げてしまった。

 リスにすら、相手にされないようだ。

 今の状況を嘆くように、ぐう~~~~~~~~、とお腹が鳴る。

 こういうとき、悲劇の物語のヒロインはかっこいい王子様が颯爽とやってきて助けてくれるのに、私の前にはそんな人なんて現れない。

 この世界が優しさで満ちあふれていないことなんて、戦場にいるときにこれでもかと見てきた。

 けれども今、その戦場にいたときよりもひもじく辛い現実に直面している。

 ふと、加熱しないと食べられないコショウ豆が、どうしてかおいしそうに見えた。

 お腹が膨れるかもしれない。そう思って食べたが――。


「辛っ!!!!!」


 逆に喉が渇き、井戸の水をがぶ飲みしてしまった。

 さんざん飲んだあと、そういえばここの井戸は清潔なのか、と気になってしまった。

 見た目は澄んでいてきれいな水である。

 変な味もしなかった。

 大丈夫、たぶん、きっと!

 お腹が痛くなったらそのときだ。そう思って気にしないでおいた。


「はあ」


 大きなため息を吐いたあと、私は霊廟へと出かける。

 食材探しに思っていたより手間取っていたようで、夕日が差し込む時間帯になってしまった。

 掃除道具などなかったので、片手に角灯ランタン片手に雑巾を持って出かける。

 再度訪れた霊廟は、夕日のライティングで不気味さを増していた。

 昼間の明るい時間でも、その辺の若い娘ならば入りたがらないだろう。

 お墓は教会にいたころに見慣れているし、別に怨霊など恐ろしいとは思わない。

 サッといって、ササッと掃除を済ませてこよう。

 霊廟はワンフロアかと思いきや、入ってすぐの部屋には地下に繋がる階段しかなかった。

 もしかしなくても、地下が広いタイプの霊廟なのかもしれない。

 霊廟内は一段と肌寒く、階段を下るとさらに気温が低下したように思えた。

 こつ、こつ、こつ、と自分が鳴らす足音がいつも以上に大きく聞こえる。

 階段を降りると長い廊下が続いているようだった。

 角灯ではほんの少ししか見えないので、出たとこ勝負みたいな勢いで進んでいく。

 五分ほど歩くと、大きな扉の前に行き着いた。

 角灯で照らしてみると、魔法陣が描かれていることに気づく。

 まさか、一族しか開けない扉なのかと思いきや、近づくとゴゴゴゴ、と音を立てて開いた。こういう自動で扉が開く仕組みは教会でもあったので、慣れっこである。

 扉の向こうはさらにひんやりしていた。

 というか、かなり寒い。ガタガタと震えてしまうくらいに。

 息が白く染まってしまうレベルの気温のようだ。

 ワンピース一枚でやってくるような場所ではない。

 早く掃除をして帰ろう。

 そう思って一歩足を踏み出すと、こつん、と何かを蹴ってしまう。

 何を蹴飛ばしたのかと思って探して手に取ると、何か文字が掘られた石であることに気づいた。


「これは――?」


 石版のような物が割れてしまったのだろうか?

 地面を角灯で照らしてみると、他にも砕けたような石が落ちている。

 そして、壁側に大きな石碑みたいな物があるのに気づいた。これがご先祖様のお墓なのだろう。

 照らしてみると、それは見上げるほどに大きく、手を伸ばしても上まで届かないくらいの規模だった。

 細部に注目してみると、表面の石が崩れ落ちたというか、砕けているように見えた。

 もしかして、落ちていた石がそうなのか。だとしたら、修繕する必要があるだろう。

 ただ、この暗い中でやるのは難しい。一度離れに持ち帰ってから、石の欠片をパズルのように組み合わせたほうがよさそうだ。 

 ひとまず今日はお墓を磨いて、祈りを捧げて離れに戻る。

 霊廟を出たら、すっかり外は真っ暗になっていた。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の名前が結局アンネルなのかマリエルなのかハッキリしない!! しかも滅茶苦茶鈍臭い!!
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