第二編「ヒトの模造品」
人間の世界は終わった。
残ったのは私たち、人間に似せて作られた『アバター』と呼ばれる、ヒトの模造品だけだ。
姿形、思考回路などもヒトと同じ。
違うのは、人間の三大欲求──食欲・性欲・睡眠欲がないことだ。
最初の二つは、そのための器官がないから当然だが。
ただし、可動のためには充電エネルギーが必要だ。
それは、睡眠と言い換えてもいいのかも知れない。
我々は人間と似ている。
だから滅びたあとも、人間と酷似した社会構造を有している。
労働や生活インフラの構築、他のアバターと家庭を築くなど。
我々は、平穏な社会を作ってきた……そのはずだ。
だが最近、何かがおかしい。
家へ帰る途中、アバター同士が喧嘩をしていた。
最近、よく見る光景だ。
海外では、戦争も始まったらしい。
そんなことを考えながら歩いていると、誰かがぶつかってきた。
謝らず、立ち去ろうとするアバター。
何故だか言い様もない苛立ちが湧き起こってきて、思わず、そいつを殴り倒してしまった。
──ああ。そうか。
地べたに転がったままのアバターを見下ろしながら、ここ最近感じていた、違和感の正体に思い到った。
我々は模造品だ。
互いに憎しみあい、争いあった末、滅びたヒトという種族の。
模造品は、コピー元と同じ思考回路を持っている。
なれば、我々も同じ末路を辿るのだろう。
足元には、完全に機能停止したアバター。
いずれ、私もこうなるのだ。
何しろ我らは、愚かな『人間』の模造品──『アバター』なのだから