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第一編「人生、最良の日」
今日はいい天気だ。
そよそよと、柔らかな風が頬をくすぐり、髪をそよがせる。
男は大木の根元に腰を下ろし、それを見上げていた。
青々とした葉を、生い茂らせた樹木。
そこから、優しいこもれびが男に降り注いでいる。
──ああ。本当にいい日だ。
男には親兄弟もなく、成人してからはある組織に入り、小悪党として生きてきた。
生きるためには、大抵のことをやった。その結果が。
「……ま、こんなとこだろうさ」
ナイフが刺さったままの脇腹を押さえながら、ひとり、ごちる。
男はある筋から、敵対組織がでかい金を動かそうとしてるとの情報を仕入れた。
それを横取りしようとして単独で動き、失敗した。それだけだ。
ろくでもない人生だったが、最期は悪くない。
こんな、こもれびの中で逝けるのならば。
「ああ……本当に、今日は……」
男はナイフを引き抜き、投げ捨てる。
そして、
「人生、最良の日だ──……」
と、消え入りそうな声で呟いた。