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【改稿版】コフィン・イン・ザ・フォレスト  作者: 園村マリノ
第一章 図書室の美少女
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06 亜衣の疑問

「今日の麗美ちゃんにはビックリした!」


「ね! 麗美ちゃんて人見知りっぽいけど、仲良くなると結構喋るじゃん? でもまさか、ああやって啖呵切っちゃうとは」


「妖怪厚化粧ババア、だもんね。秋山先生も笑っちゃってたし」


 波乱の五時間目と、何ら問題なく終了した六時間目、そして五時間目の騒動に関する話で大半を占めたSHRが終わり、放課後。

 亜衣と七海は、それぞれが第二校舎内の目的地──前者は四階の映画同好会部室、後者は一階の二次元コンテンツ同好会部室──へ向かうため、第一校舎二階から繋がっている屋外の連絡通路を歩いていた。


「丸崎先生、異常だったよね。病んでるのかな」


「ね~! ていうか、四組全員恨まれたっぽいけど、まさか今度の通知表1とか?」


「えー……そこまでやっちゃうかな? そんな事──」


「そんな事されようモンなら、ネットで実名出して暴露してやんないとね~っ!」


 陽気な男子生徒の声が割って入った。


「亜衣チャン七海チャン、お疲れちゃ~ん! これから部活ぅ?」


「あらお疲れ様、チャラメガネ君」


「おおっと、亜衣チャンまでその名前で呼んじゃう~!? まあ余裕でOKだけどね~っ!」


 二人のすぐ後ろから現れたのは、六組の中津川雷音(なかつがわらいと)、通称〝チャラメガネ〟。赤系のグラデーションに染めた短髪、シルバーピアスをいくつも着けた両耳、紫縁の眼鏡、第二ボタンまで開けたワイシャツ。他の私立高校に比べ、自由な校風である夕凪高校には個性的なスタイルの生徒が多いが、その中でも特に目立っている。


「ねえねえ、聞いたよ? 四組全員と丸崎センセでバトッたんだって?」


「うん、まあね」


「しかも、朝比奈サンが何か凄かったとか」


 亜衣は答えず、七海と共に苦笑した。


「朝比奈サン……下の名前は麗美、だったよね? う~ん、麗美チャンは今までほぼノーマークだったけど、スッゴく気になってきたな~! 今度挨拶してみるかな~っ!」


「ちょっと、麗美ちゃんからかわないでよね!?」七海は慌てたように言った。


「からかうだなんて、人聞き悪いな~! ボクはただ、色んな子と交流持ちたいだけだよ」


「女の子限定でしょ、まったく……」


「あ、バレた?」


 雷音がチャラメガネと呼ばれているのは、派手な見た目が理由ではない。誰に対しても馴れ馴れしく、特に女子生徒相手にはそれが顕著で、すぐに口説こうとするその軽薄さからだ。男女共に呆れられてはいるものの、それ以上に何だかんだで愛されキャラでもあり、チャラメガネというあだ名も、彼と特に仲のいい男子生徒が親しみを込めて付けたものが定着したのだった。


 ──そういえば。


 亜衣はふと、ある疑問を思い出した。そしてその疑問は、今なら解決させられるかもしれなかった。


「ねえ、雷音君て、二年生の女子生徒の名前、全員覚えてたりする?」


「モチ! 特進コースも含めて二年生女子は全員、顔と名前が一致するよん。野郎共は三分の一くらいしか覚えてないけど」


「流石だね」七海は苦笑した。


「じゃあ……望月絵美子ちゃんって知ってる?」


「エミコ? モチヅキ?」雷音は首を傾げた。「いないけど……え、間違いなくこの学校の子?」


「……うん」亜衣は小さな声で答えた。


「だったら、一年か三年じゃない? 残念ながら、ボクは他学年の女の子たちまでは、まだ完全に把握してないんだ。でも、二年生には間違いなくいないよ」


「そう……」


「雷音先輩!」第二校舎側から、小柄な一年生の女子生徒が走ってやって来た。「帰りましょ!」


「あっ、ヒロミチャ~ン! ゴメンお待たせ~っ! じゃあ亜衣チャン七海チャン、また明日~」


 雷音が一年生女子と共に元来た方へ去ってゆくと、亜衣と七海は再び歩き出した。


「ねえ亜衣ちゃん、今の話だけど」


 ドアが全開のまま固定されている出入口を通り抜け、第二校舎内へ入るなり、七海が切り出した。


「モチヅキエミコって? わたしも聞いた事ないんだけど……」


「ああ、えーとね……」


 亜衣は、昼休みに図書室まで麗美を迎えに行った際の出来事を七海に話した。


「姿が見えなかったのは位置的に仕方ないとして、声が全然聞こえなかったのが妙だなって。図書室に入った時、周りが静かだったってのもあって、麗美ちゃんの声は聞こえたんだよ? まあ、何を喋っていたかまでははっきりわからなかったけど」


「ふーん……?」


「望月絵美子……あのチャラメガネが存在を知らないなんてあり得ない。何者?」


「やっぱり、一年か三年なんじゃない?」


「でも、麗美ちゃんは同じ二年生だって」


「そうなんだ」


 七海にはそれ程気にしている様子がなく、亜衣は少々ガッカリした。


「そういえば、麗美ちゃんは第一図書室だっけ? 珍しいよね、いつもならすぐ帰っちゃうのに」


「望月絵美子に会うんじゃないかな……」階段の踊り場まで来ると、亜衣はピタリと足を止めた。「美術室に顔出したら、一回戻って第一図書室まで行こうかな」


「ええっ、何で」


 笑う七海に対して、亜衣の表情は真剣そのものだ。


「何か妙に気になるんだ……望月絵美子の事が」


「まあ確かに、わたしも気になるっちゃ気になるけど……でもさ、麗美ちゃんはその絵美子ちゃんて子と、二人だけで話したい事とかもあるかもしれないじゃん。そこに入り込んじゃうのも、どうなのかなって」


 七海が諭すように言うと、亜衣は小さく唸った。


「明日、麗美ちゃん本人に聞いてみれば? あ、それか[MINE(マイン)]でメッセージ送るとか」


「……それもそっか」亜衣は小さく息を吐くと微笑んだ。「うん、そうだよね。そうしてみる」


「じゃあ、そろそろ行くね」


「うん、また明日」


 互いに小さく手を振り別れの挨拶を交わしても、亜衣はすぐには歩き出さず、他の生徒たちに混ざって階段を下りてゆく七海の背中を見送った。


 ──七海ちゃんの言う通りだってのはわかるんだけどさ……。


 亜衣は振り向き、第一校舎の方をぼんやり見やった。


 ──じゃあ一体何なんだろう……この落ち着かない、モヤモヤした感じは。

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