第8話 背伸び
「すみません! カンネルさん……私勝手にベッドで寝ちゃって」
「あぁ、いや良いんだ。流石に女の子を床で寝かせる訳にはいかないから」
「それに私……起きた時にカンネルさん踏みつけちゃって」
「あぁ、いや良いんだ。あんなところで寝てた俺も悪いから」
朝から災難だったぜ。まぁ……どこかの世界では踏まれて喜ぶ男もいるとか聞くが、俺には理解できない世界だな。
「それより、今日のクエストを探しに行くぞ」
俺達じゃ討伐クエストは受けられないからな……報酬のそこそこ美味い採取クエスト無いものかなぁ。
〜〜〜ギルド〜〜〜
「先日のダンジョンはアンデッドダンジョン、それも、より危険度の高いゾンビダンジョンである事が判明いたしました! ダンジョンの見張り員であった兵士の行方が分からなくなっております。情報のある方はギルド職員へお伝えください。
また、引き続きダンジョン攻略の受け付けもしております。臨時受付カウンターにて必要事項を記入の上、身分証をお持ちになって受け付けを行ってください」
結局あれはゾンビダンジョンだったか……まぁダンジョンの外までゾンビが出てくるってことは、そういう事だよなって感じではあったが。
「カンネルさん。昨日のゾンビについて報告してきた方がいいのでは? 王国兵の格好をしたゾンビ倒してましたよね?」
そういえばそうだったな。
「あの、すみません」
「はい! おはようございます。どうなさいましたか?」
「あー、ゾンビダンジョンについてなんですけど、王国兵士の方の情報を」
「はい! 少々お待ちくださいね!」
そう言って受付の人は何かの準備を始めた。恐らく情報のメモの為の準備だろう。何やら書類を沢山取りだし始めた。
「お待たせしました! ではこちらに冒険者カードをかざしてください。……はい! ありがとうございます。それで、王国兵士の方を最後に見た場所と状況の方、お願いします」
「最後に見たのはダンジョン付近の小さな広場です」
「そうですか……何人ほど見かけましたか?」
「王国兵士は3人、そのうち2人は既にアンデッド化しておりました。それと純粋なゾンビが一体です」
「ありがとうございます。それでは既にアンデッド化していた2人の他、1名は死亡、転化は未確認で、もう一体が徘徊中ですね」
「いえ、一応亡くなられていた方以外は討伐済みです」
昨日の時点で報告してなかったな。報告しておくべきだったかもしれん
「え? すみません、えーっと……カンネルさんは灰色クラスですよね?」
「はい」
「相方の方も……灰色でしたよね?」
「まぁそうですね」
「一応ゾンビの推奨ランクはパーティーなら銅、ソロなら銀となっているのですが……」
「そうみたいですね」
「職業も聖職者がパーティーに居る訳では無いのですよね?」
「はい、騎士とウィザードですね」
見つめ合う俺と受付嬢さん。
「虚偽申告では無いのですよね?」
「嘘つくメリットないですから」
「はぁ、そうですよね。分かりました。一応ギルドからの調査も出します。虚偽申告が発覚した場合は冒険者資格の剥奪も有り得ますが……大丈夫そうですね」
まぁ疑われるのはしゃあない。普通に戦える人たちでそのランクって言われてんだから。俺は普通に戦えなくて、ランク以下。まぁ現場に行けば分かるだろうし良いんだけどね
「それで、ついでにクエストの受注もしたいんだが」
「あっそれなら隣のカウンターまでお願いします。コチラではダンジョン関連の業務しか行えないので。すみません」
そうだったのか……ちょっと恥ずかしい思いをした。
〜〜〜クエストカウンター〜〜〜
「おはようございます! 本日はどのようなご要件で?」
「採取系のクエストを受注したいんだが」
「あー……ゴメンなさい。今は討伐及び調査系のクエストしか取り扱いがないですね。付近に発生したダンジョンのせいで需要が偏ってしまっていて」
なんだと? 困るなぁ。
「因みに討伐系はどんなものが?」
「えーっと、双頭黒狼の討伐や死霊人なんかが主になってますね。ゾンビダンジョンから発せられる瘴気によって突然変異を引き起こされた魔物が増えておりますので」
無理だなぁ……
「あの、カンネルさん? 私思ったんですけど、もしかしたらワイズレイスなら私たちどうにか出来るのでは? 昨日の戦術ならカンネルさんも攻撃が通るかも知れませんし」
うーん、今まで討伐系なんて行こうと思わなかったし、どうせ攻撃できないって思ってたけど……そうだな。攻撃が通る相手がいるのなら討伐系もアリかもしれん。
「分かった。試しに行ってみよう。俺もいつまでも弱いままでいる訳にはいかないからな!」
「はいっ!」
「それじゃお姉さん、ワイズレイスの討伐をお願いします!」
「えっ、いや……オススメはできませんよ? ワイズレイスはパーティーランクが金以上推奨のモンスターですよ?」
「大丈夫です! 俺達には、秘策がありますから」
「そうですか……一応適正ランク外のクエストとなりますので、ギルドからの保証はありません。何があっても自己責任でお願いします。それでは、お気を付けて!」
本来であれば受けるべきでないクエスト。ただ、俺もアリシアも少し調子に乗っていたのかもしれない。
勝てるわけが無いと思っていたゾンビに勝ってしまったが故の慢心。しかしこの時の俺達はあんな事になるなんて思いもしなかった。