第6話 窮地
「なんですか……アレ。カンネルさん! なんですかアレ!」
「ゾンビ……アンデッド族のゾンビだ! 逃げるぞアリシア!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!! モンスターに遭遇するなんてッ! それもゾンビって本当にマズイ!
とにかく逃げてギルドに報告しないと! アンデッドが普通に湧くことは本来無いはずなんだ! それが居るってことは、召喚されたか……今回生成されたダンジョンがアンデッドダンジョンの可能性がある。
前者ならテロ行為で国から指名手配をかけなくてはならない、後者でも国から直接依頼が出されるレベルの危険度を誇る。
アンデッドダンジョンの場合、聖職者や聖騎士、聖騎士じゃないにしろ騎士系のアンデット特攻持ちは必須となる。
しかも普通のダンジョン以上に死傷率が高く、何よりもそのダンジョン内で死亡すれば、アンデッドとして蘇る。それは聖職者にとって最も恐れられる禁忌とされることだ。
しかし、攻略が可能なのはその聖職者達でしかない。それがアンデッドダンジョンの脅威だ。
アンデッドにも様々いるが、その中でもゾンビは突出してヤバい。個々の能力も悪くなく、集団になれば高ランク冒険者ですら為す術なくやられることがある。
ゾンビに噛まれた冒険者は通常の変異よりも早い速度で変異する。それもゾンビのヤバさだ。そして今そんなヤバいやつが目の前にいる。兵士を喰って。
「アリシア! とにかく走れ! 俺は騎士職の恩恵でアンデッドには耐性もある。それに今のアリシアの装備は軽装すぎる。
噛まれたら1発だぞ! 良いか!とにかく走って逃げろ! 入口の兵士に伝えてくれ!」
「カンネルさんは!? どうするつもりなのですか!」
「俺もちゃんと逃げるさ!」
そう言ってアリシアの方を見た時、背筋が凍った。
こっちを向いているアリシアの後ろにもう一体のゾンビが居たのだ
「アリシアッ! 後ろだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ?」
咄嗟には動けないアリシア。その場で立ち尽くす事しか出来ない。恐らく状況の認識すらままならないだろう。
クソッ! 間に合えッ! スキル盾役ノ意地
このスキルは使用者と対象者の位置を入れ替えるスキルだ。本来なら使用者の防御スキル範囲内に対象者を転移させるスキルだが、俺のスキルでは入れ替えるのが限界だった。
俺の数少ない悪影響の少ないスキルだ。ただ、発動プロセスを省略したり、発動中に何らかの外部要因を受けると対象者の体が分離してしまったりする。最初に試した相手がモンスターで本当に良かった。
そしてスキルの発動は上手くいった。俺の使えるスキルなのだ。練習はしていた。結果アリシアは元の俺がいた場所へ、俺はゾンビの目の前に。アリシアもゾンビから離れられた訳でもないが。
「カンネルさん……」
「……まだだ、まだ何か」
何かあるはずなのだ……しかし周りには王国騎士の格好をしたゾンビが増えてきている。このままでは俺も、アリシアも……死ぬ!
「神ノ贈リ物! 何もないよりはマシでしょう……カンネルさん、逃げてください。バフスキルをかけました。アンデッド耐性も僅かながら上がっているはずです。
私なんかに声をかけてくれて、ありがとうございました……私、嬉しかったです」
馬鹿野郎……何言ってんだよ。嬉しかったのは俺の方だ! また夢を追いかけられるかもしれないと思えた希望だったんだ……簡単に手放してたまるかよ!
ただ、そんな事を思っていても現実は非情だ。目の前には口から唾液を垂らしながらユラユラと歩くゾンビ。
「このまま殺られるぐらいなら、せめて足掻いてみせる! 出てこい! 剣召喚! どうせ効かねぇんだろうけど、せめて騎士らしく仲間を守って散ってやるよぉぉぉぉぉぉぉ!!! 漁夢人のリーダーをナメるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どうせ効かない。分かってはいる。だが、何もせずに死ぬぐらいならと剣を振り抜く。きっと俺はここで終わりなんだろう。
あぁ、幼馴染達ともっと冒険がしたかったなぁ……もっと強いスキルがあったら出来たのかなぁ……きっともっと強いスキルがあったら、今の状況もカッコよく突破出来たんだろうか……あぁ、そもそも冒険者になんてならなかったら良かったのだろうか
後悔をしながらも多分今までの人生で一番の剣筋だったと思う。全ての力を正確に剣に伝えられていた。今までで最も早く、重い剣だった。だが、これも俺の呪縛によってきっと相手に都合の良い結果に書き換えられてしまうのだろう。
そう思っていた。しかし、与えられた結果は異なった
「ガァァァァァ……アァァ」
「は?」
首から上を俺の剣が切り飛ばしていた。剣からは血が滴り落ち、俺の半身は返り血で赤く染っていた。
「は?」
ゾンビだったものは俺の目の前で崩れ落ちる。そしてピクリとも動かなくなった。
「は?」
意味がわからない。俺の攻撃が……ゾンビを倒したのか?
しかし、一体倒した程度では状況は好転しない。周囲にはあと3体は居る。しかし、
「なんだかよく分からねぇけど……今ならやれる!」
そこからは早かった。俺の刃は敵の首を的確に刎ねる。その度に吹き出す血飛沫。そして動かなくなる死体。
30秒もしないうちに三体を撃破した。初めてだった。自分の手でモンスターを殺したのは。しかし、忌避感はなかった。それどころか喜びすら感じていた。俺の力で敵を倒したんだ。嬉しくないはずがない。
「アリシア……大丈夫だったか?」
「え……あっ……はい。大丈夫です。 それより……なんで、カンネルさんが、攻撃出来たんですか? 呪縛の効果で」
「分からない。分からないが、もしかしたらバフスキルのお陰かもな。ありがとう」
「いや……私なんて何もしてないです。カンネルさんのお陰ですよ」
まぁなんにせよ、俺達は窮地を脱することが出来たのだ。
「とりあえず、ギルドに報告しに行こう。今日はそれで終わろう。疲れたしな」
「そうですね……私も……ちょっと……疲れました」
そうして俺達はギルドに戻ることとした。
お久しぶりです。前回はしっかり寝過ごしてしまってました。今週からはまた投稿再開します