第12話 目覚め
「おーい! 誰か居ないのか! 誰かー!」
「コッチにはゾンビ共の残骸しか残ってねぇぞ」
「もっと入り口の方探せ!」
謎の騎士が発生してから数時間。救助隊の第1波が到着していた。ギルドに集まった冒険者達の中でも、対アンデット戦闘を得意とする集団、凡そ20名。
冒険者達が到着した頃、既に周辺のゾンビは一体残らず撃破されていた。より強いモンスターが発生したとか、特殊個体レイス(ギルドの命名規則に則りネオレイスと命名された)の仕業だとか、様々な憶測が飛び交ったものの、そのような強力なモンスターも見つからず、レイスの魔核だけが落ちていたことから、探索を続行することが決定された。
救助隊はネオレイスの目撃情報のあった森の深部から徐々に森の入口に向けて探索をしていった
「居たぞ! 3人だ! 3人いるぞ!」
「おい! レイティアさん呼んでこい! 確認してもらうんだ!」
「うぅ……クソ……身体中が痛ぇ」
パイルが目を覚ます
「おい! お前、名前は!? 大丈夫か!?」
「あ? 俺は……ッ!? おい! 俺の他に2人、見なかったか!? ちっこい嬢ちゃんと冴えない顔した冒険者!」
「あぁ、多分そこに居るのがその2人じゃないか? それで、お前はパイルで良いんだよな? レイティアさんが探してるって言う」
「そうだ! 俺はパイルだ。レイティアも無事だったか、ルディオはどうした? レイティアと一緒にギルドへ向かったはずだが……いやそれよりもあのレイスは!? これだけの暗がりならどこから来ても」
「レイスの魔核はもう見付かっている。何者かによって倒されたのだろう。ギルドに駆け込んできたのはレイティアさんだけだぞ」
その言葉に絶望の表情を浮かべるパイル。レイティアと共に送り出したルディオが途中ではぐれたとなれば、道中何者かに襲われたということだろう。それなのにここに来るまでに他の生存者がいたような話はしていない。
「そうか……それで、そこの二人は? 無事なのか?」
「息はある。女の方は魔力切れで意識を失っているらしい。男の方は怪我をしているし、それが原因で意識を失っているんだと思う。今治癒魔法が使える神官を呼んでいる」
「分かった。すまないがもう1人、探して欲しい。ルディオっつう俺のパーティーメンバーなんだ。青いハチマキをしているのが目印なんだが」
「分かった。他の救助隊に情報は伝えておこう。お前も神官が来たら癒してもらえよ」
周囲のゾンビは尽く魔核に変えられている。これだけのゾンビを倒しておきながら魔核を拾うこともしない。モンスター達もゾンビは襲わない。腐肉を食うモンスターですら、リスクが大きい故ゾンビは襲わないのだ。
上級冒険者ならこれだけのゾンビを倒すことは出来るだろうが、魔核を拾わないってことは無いはずだ。ゾンビの魔核は高値で取引される訳では無いものの、需要がある為である。
そんなことを考えていた時、アリシアが目を覚ました
「嫌ッ! 来ないで! ヤダ……助けて……来ないでッ!」
叫ぶアリシア。周りの冒険者達もどうしていいか分からないでいた。耳を塞ぎ、目を瞑って嫌と連呼するアリシア。まるで何かに怯えているようだった。
「俺達はアンタら助けに」
「近付かないで! やめて! ゴメンなさい……ゴメンなさい」
その時レイティアが到着する。
「パイルさん! あとお2人も! リーダーさんは……大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ。身体中痛ぇけどな。よく、助けを呼んできてくれた」
「リーダーの方よりも嬢ちゃんの方がな……」
「え?」
アリシアの方を見るレイティア。目に映るのは酷く怯えて会話もできないアリシアの姿だった。
「あの……一体何が?」
「分からねぇ。ただ、ここにネオレイスの魔核があったのは事実だ。恐らく追い詰められていたんだろう」
「そんな……でもそれならこの3人のうち誰かが?」
「俺ではねぇな。もう目も見えなくなっていたし、気が付いたらこのザマよ」
「となると……そこの2人のうちどちらか?」
とはいえ2人ともそこまで強そうには見えない。ハッキリ言えばうちのリーダー、パイルの方がよっぽど強いだろう。でも実際、リーダーはやっていない。2人に助けられたようなものだ。それなのに、彼女はこれ程怯えている。このパッとしない顔つきの男がネオ種を?
普段なら嘘だと鼻で笑うところだが……周囲にモンスターの気配は無く、リーダーが倒した訳では無いとなれば、やったのはこの男であるのは確実。とにかく話を聞かないことにはよく分からないけど。
「神官達が到着したぞ! 怪我人は並べ並べぇ!」
「おい! そこのカンネルっつう冒険者をまずは癒してやってくれ! 隣で蹲ってる嬢ちゃんもどうにかしてやってくれるとありがたい。どうやら相当怯えているようで……」
「分かりました。任せてください」
それからは、ルディオの捜索、負傷者の治療で夜を明かすこととなった。
明け方、カンネルも目を覚ます。
「カンネルさんが目を覚ましました!」
神官が叫ぶ。その声で周りの冒険者達も寄ってくる。
「あー……なんだ、その、久しぶりだな?」
声をかけられて顔を上げる。そこには元パーティーメンバーのハインスの姿があった。
「……あぁ、ハインスか? 久しぶりだな」
「すまなかった。この間は」
今更気にしていると思っているのか? 俺も新しいパーティーを結成したって言うのに。
「気にしてねぇよ。それより、助けに来たってのはお前らが?」
「あぁ」
「そうか……ありがとな。それで、アリシア……俺のパーティーメンバーなんだが、ウィザードを見なかったか?」
「向こうにいる。無事ではあるが……少し錯乱状態でな? 神官たちも手を焼いているんだ」
「そうか、ちょっと行ってくる。ありがとな、ハインス」
「おう。今度一緒に飯でも行こう。お前のパーティー結成記念だ」
「分かった。ありがとう」
俺はハインスに背を向けてアリシアが居ると言われたテントに向かう。無事だったことをまずは喜ぼう。そう思いテントを開ける。
「アリシア、無事でよかった」
「カン……ネルさん?」
「あぁ、俺だ」
ほぼ怪我もなく無事な様子を見て安心した。
「本当に……カンネルさんなんですよね? あの黒いのじゃないんですよね?」
何を言ってるんだ? 黒いの? 残念ながら俺は聖騎士に憧れてるから青っぽい鎧を着ているが。
「黒いのが何なのかはよく分からねぇけど、俺は俺だ。カンネルで間違いない」
「うぅ、良かったです……本当に」
その時入り口から神官が入ってくる。
「あら、アリシアさん、落ち着きましたか?」
「えっと……はい。大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「それは良かった。そうしましたら、ギルド長がお呼びですので、ギルドの方までお願いできますでしょうか?」
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「ギルド長のアズベルダと言う、君たちの生還をとても喜ばしく思う」
ギルドに到着してすぐ、別室に案内された俺たち。ネオレイスとの戦闘に巻き込まれた俺たち。パイル達はルディオが見つかるまで捜索に参加するようだった。
「そして、ネオレイスと戦闘を行った君達には情報を出して欲しい。更には討伐者も不明だ。その辺も知っていることがあれば是非」
と言われてもなぁ。俺はレイスの槍に……いや待てよ? 確かに急所は逸れていたが、それでもかなり深い傷を貰ったはずだ。そのタイミングで意識を失った訳で……アリシアは回復魔法は使えるが治癒魔法は使えないはずだ。傷ぐらいなら残って居そうなものだが……
「先ず、討伐したのは俺じゃない。俺はレイスの攻撃でそのまま気を失ったからな。後から来るだろうパイルも違う、俺よりも先にやられていたから。アリシアは」
「私も違います」
「という訳だ。つまり討伐者は俺たちにもわからん。
それで、レイスの特徴だが、昼間でも活動するってのは大丈夫だよな? あとは……」
「カンネルさん、レイスの通った後がヘドロみたいになったのは?」
あぁ、そうだな。それもあった。
「そうだ、ヤツの通った後はヘドロっていうか生命力を失ったような感じになっていたな。その他に、恐らくだがゾンビの強化もしていたのだろう。
昼間だった故、強化されていてもゾンビはゾンビだったが、普段のゾンビ以上に禍々しい姿に変異していた」
「報告感謝する。討伐者は不明のままだな。ネオ種ではあるのだろうが、その中でも上位の個体の可能性が高い……と。よし、2人とも疲れているだろうに、ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
やっと解放された……もう今日は早く家に帰って寝よう。
「アリシア、帰るぞ。布団で寝たい」
「そうですね……私も疲れました」
いつもご覧いただきありがとうございます!
次回早速次の戦いへ赴くことになる2人。今度はどのような敵が待ち受けているのか、どのように戦うのか、是非お楽しみに!
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