第10話 緊急クエスト
即席パーティー。珍しいことでは無い。大規模なダンジョン攻略などでは壊滅したパーティー同士でその場限りのパーティーを組むことは冒険者の間ではよくある話だ。
だが……パーティー内でのランク格差が大きくなるのは避けるべきなのだ。実力差のある人間でパーティーを組む、お互いに動きが読めなくなる可能性が高い。パーティーメンバー同士の連携も疎かになりがちである。
パーティーは連携が命である。だからこそ
「パイルさん! 長く説明している時間は無いが、俺はゾンビ以外には攻撃ができない! それだけは伝えておきます!」
「了解! だったらカンネル、お前は周囲の警戒と近付くゾンビの討伐を! 無理はするな!
アリシア! お前はサポートに徹しろ! こんな近くで魔法なんか使われちゃたまったもんじゃないからな!」
「はいっ! 元より攻撃なんか出来ませんから!」
正直パイルさんには申し訳ないパーティーだが……だからこそ自分の出来ることは精一杯こなすしかない
「アリシア! スキルを!」
「了解です!」
俺はもう、攻撃のできないお荷物じゃない!
さぁ……反撃の時間だ!
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ひたすらに走る。ギルドに伝えるために、パイルの、そして共に残ってくれたあの二人の為にも!
走ること数分、森の入り口が見えてくる。王国騎士が見えてきた。向こうもこっちに気がついたようだ。
「身分証を」
「それどころじゃねぇんだ! 早くギルドに」
「身分証を」
「分かってください! 緊急なんです!」
「身分証を」
コイツら……
「お前ら王国騎士だろ! 王国民の冒険者が……」
そこまで言って気が付いた。王国騎士の様子がおかしいことに
「レイティア! 下がれ!」
レイティアを押し退けて前に出る。瞬間背中に激痛が走った
「ルディオさん!」
俺の背中には王国騎士制式採用の長剣が突き刺さっているのが見える
「レイティア、行け! ギルドに伝えてこい」
「そんな! ルディオさん!」
「いいから行けェェェ!!!」
「ッ! 必ず! 必ず助けを呼んで戻ってきますから!」
走り去るレイティア。任せたぞ……レイティア。
「はぁぁぁぁぁ!!! 南土騎士流、圧壁ノ守護! ここから先は通さねぇぞぉ!」
それから数分、獣の唸り声と何かを引っ掻くような音だけが響き渡る。人の声は聞こえなかった。
〜〜〜〜〜〜
パイルさんも、ルディオさんも居なくなってしまった。それでも私は足を止めることは許されない。一刻も早くギルドに情報を伝えなければ。
でも、もしギルドも化け物で溢れていたら……そう思うと足取りも重くなる。
あれからどれだけ走っただろうか。もう、休んでもいいのでは無いか? 何度も頭をよぎった。もう誰も生きていないと、ここで急いでも無駄だと。
それでも足を止め無かったのは、私を信じて送り出してくれたパイルさんとルディオさんを裏切らない為だった。
そうしてやっと街が見えてきた。街の外は普段通り、商人たちが列を成している。良かった。街は無事みたい。
「通してください! クラン、地護者のメンバーです。近隣の森の調査報告をしに来ました! 緊急です!」
「緊急だな?身分証だけは見せてもらおう」
冒険者カードを差し出す。緊急時ならこれで通れるはず
「確認した。クエストも確認済みだ。ギルドまで護衛をつけよう」
「ありがとうございます!」
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「確認しました。環境適応ですね。昼間でも活動可能で、周囲への影響も出すと。今回のダンジョンから現れた個体の可能性が高そうですね。ご報告ありがとうございます」
「あのっ! それで私のパーティーメンバーと、そこで出会ったパーティーがまだ現地に残っています……救援派遣はいつ頃に」
「すみません。ただいま各地でダンジョンが同時に発生しており、騎士団が出払ってしまっていて……いつになるかは」
そんな……
「直ぐに緊急クエストとして、冒険者は募集致しますが、確実な日程はお伝えできません。申し訳ございません」
私は、私はどうしたら。そんな事なら私も残れば……でもそれじゃあ誰も助けに
「緊急クエストが発令されるって? だったら俺達は今日出発しよう。話は聞いていた。うちのパーティーならアンデット対策も可能だ。助けが居るんだろ?」
後ろから声をかけてきたのは、最近ギルド内で話題の尽きないクランだった。彼らならきっと
「お願いします! パイルさんを、ルディオさんを助けてください!」
「任せな嬢ちゃん。お前ら! 準備してこい! 夕刻には出るぞ!」
「ちょっと待ってください! ギルドとしては日が暮れてからの出発は反対です。
相手はレイスです。それに昼間でも活動しているとの報告があります! そんな特殊個体、夜になればどうなるか分かりません」
「それでも、助けを求めてる冒険者が居るんだろ? だったら助けてやらねぇと。今の時点で苦戦しているなら夜間になれば全滅するぞ」
「しかし!」
「いや、それなら俺達は調査に出かけるだけにしよう。それならばギルドもなんの不都合もないだろ?」
「……分かりました。本来であれば規約違反ではありますが、駐在の騎士団も居ないのはこちらの落ち度ですから黙認します。
なので全員無事で帰ってきてくださいね? 私始末書書きたくないので」
そうして地護者及び、漁夢人のパーティー救出が決定した。その日の内に緊急クエストも発令され、次の日には30名ほどの冒険者が集うこととなった。




