第1話 見放されし者
「カンネル、悪いんだけど……パーティーを抜けてくれないか?」
抜けてくれないか……抜けてくれないか……抜けてくれないか……
そうか……俺は……パーティーを追放されるんだな
〜〜〜数時間前〜〜〜
俺はカンネル。この星光七色のパーティーメンバーの一人。ジョブは騎士しかし俺には決定的な弱点があった。
「騎士! そっちに一体向かった! 商隊に向かわせるな!」
そう言われて俺は目の前のスパイクアリゲーターの前にたちはだかる。そして
「仇なす者に制裁を。守護ノ剣!」
光り出す俺の剣。そしてその剣はスパイクアリゲーターに……
当たらなかった。
瞬間商隊から悲鳴が上がる。俺の逃がしたスパイクアリゲーターに噛まれる商人。腕からは血が流れている
「おい! そこのお前! 早く助けてやってくれ!」
言われるがままに走る。そしてもう一度剣を振るうが
当たらない。
「お前ェェェェ!!! ふざけてんのか! 早く助けてくれ!」
その一言を放った直後、商人の頭にスパイクアリゲーターが噛み付く。俺の剣は当たらない所か、商人に当たる可能性すらある。
「クソっ! カンネル下がれ! 回復魔法行くぞ! お前ら合わせろ!」
「「了解!」」
「数分の猶予!」
商人の体に光の膜が現れる。どんな攻撃を受けても2分は耐えることができるようになるスキルの効果だ。
そして
「オォラァ!」
重戦士の破壊の一撃の効果を乗せた攻撃でスパイクアリゲーターの首が飛ぶ。しかし
「数が多すぎる……陣形も乱れてしまった。これ以上商隊を守りながらの戦闘は不可能だぞ!」
リーダーの言う通りだ。ここまで陣形が乱れてしまえば乱戦となる。冒険者だけなら何とか切り抜けられるかもしれないが、今の俺達には守らなければならない商隊がある。
「リーダー! さっき負傷した商人が!」
スパイクアリゲーターは毒を持っている。フォロータイムがあるとはいえ、効果が切れれば死んでしまうだろう
「ヒーラー! 俺達の回復はいい! 商人の回復を!」
「了解!」
「騎士! 前に出てヘイトを稼げ! 重戦士は騎士に集まったスパイクアリゲーターを狩れ! 」
俺はヘイト買い……つまり囮になる。本来なら重戦士が行う役割だ。ただ、このパーティーでは違う。
〜〜〜数分後〜〜〜
「何とか……撃退できたな……」
「あぁ。リーダーの采配がなかったら厳しかった。ヒーラーも助かったぞ」
商隊の荷物にも被害はなく、襲われていた人もフォロータイムとヒーラーの回復でとりあえずは無事だった。
「皆様のお陰でとりあえず荷物は無事でしたが……あの方は……商人の私が言うのもおかしな話かもしれませんが」
「いや、分かっている。すまなかった」
「そうですか……」
そこからの道中は居心地が悪いなんてものでは無かった。もちろん俺が悪いんだが……
「なんで……よりにもよって与えられし栄誉が……『呪縛』なんてものだったんだよ」
そう独り言を言うものの何か変わる訳でもない。誰かに聞いて欲しいものでもない。ただ、口から零れてしまうのだ。
〜〜〜ギルドにて〜〜〜
「はい。それでは任務完了とします。しかし、商隊の方から魔物に襲われたと報告を受けております。荷物にも多少の被害が出たと」
あの時は言っていなかった……あとから吹っ掛けてきたのか、それとも気が付かなかったのかは分からないが……俺のせいであることは間違いない。
それにこれが初めてではなかった。
「その為違反点が、以前の二回分と合わせて8点となります。そのためパーティーランクの格下げが」
「分かってます。手続きをお願いします」
「はい。それでは、パーティー星光七色のランクを銀から銅へ格下げ致します」
ランクの格下げ。依頼の完遂ができなかった場合や、そもそも失敗した場合、その他の要因で違反点が付くことがある。
一定数貯まるとランクの格下げによって受けられる依頼が変わる仕組みの為、パーティーはランクを上げることに必死になるものだ。
「カンネル……悪いんだが後でパーティールームに来てくれ」
「あぁ。分かった」
そう言ってリーダーは先に戻って行った。
〜〜〜現在〜〜〜
「カンネル、悪いんだが……パーティーを抜けてくれないか?」
リーダーにそう告げられた俺。まぁ仕方ないと思う。今まで迷惑をかけっぱなしだったしな
「そうか……分かった」
「助かる。パーティー都合での脱退で手続きをしてくれて構わない。そうすれば次のパーティーが見つかるまではギルドが面倒を見てくれるはずだ。力になれず……本当に済まない」
そこまで言われてしまえば何も言えないじゃないか……
そもそもこのパーティーは幼馴染たちが集まって世界一の冒険者になるという夢物語を現実にすべく結成したパーティーだった。
リーダーはギフテッドスキルで司令官を
重戦士は怪力を
ヒーラーは神官のスキルを得た。
それぞれスキルに沿った、ジョブを選択して今に至る。正直この3人だけなら今頃は王都でも知らない人は居ないレベルの冒険者になれていただろう。だが俺は
スキル 呪縛。
ギフトを与える神官ですら困惑していた。ギフトと呼ばれるぐらいだからめでたいものなのだ。しかし俺のスキルは、呪縛。困惑するのも無理は無い。祝福されるべき日に忌み嫌われる言葉が出てくるのだから。
さらにタチが悪いのが、スキル呪縛は常時発動な上、敵への行動は全て回復に、味方への行動は全てにおいて攻撃へと転じる厄介すぎるものであった。
それを知った幼馴染3人は何とか俺と冒険ができないかと模索してくれていた。しかし、依頼はこなせばランクが上がってしまう。ランクが上がれば荷物を抱えておく余裕が無くなる。挙句、ランクが何度も下がるとギルド側に規制をかけられる可能性がある。
俺がいるだけで迷惑になっていた。過去何度か自分から脱退を申請はした。しかしその時は断られた。それでもやはりどうにも出来なかったのだ。これ以上、ランクの上下を繰り返せばギルドのブラックリストに乗りかねない。仕方の無い事だろう。
あぁ、俺も強いスキルが良かったなぁ……