1/1
プロローグ:黒い羽根
その日は、紅い月が月光で路上を照らしていた。
地面と空の間には何も無く、其の光を遮るモノは無い。
高いビルの上で、私は地上を眺めていた。
見えるのは、自動車と小数の人だけ。
探し物が見つかる筈もない。
「…大切な…ネックレスだったのにな…」
私は小さく呟く。
その声は、男性の様に低くなく、女性の様に高くない。
こんな声に成ったのはあの日からか。
「もう、12年か……」
私は思わずため息を尽く。
時は無情なモノだ。
全てを変える。
全ては不滅だったとしても、不変ではない。
不滅だからこそ変化を恐れる。
「………なんてね」
私は落下防止の柵から飛び降りる。
私が地面に触れる事はない。
私には黒い翼が在るのだから。
翼は私の意思とは別に勝手に動き、私の死を拒絶する。
地面にゆっくりと降りる頃には、翼は消えていた。
毎度の事ながら都合の良い翼だ。「もう行くか…ネックレスには名前が刻まれてるし」
運が良ければ、誰か拾って交番にでも届けるだろう。
私は、紅い月を眺めながら人混みを歩きだした。




