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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第10部 すれ違い
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4 全国宗教者連合

 東京タワーが見下ろす高台の上の白亜の外観のホールでは、今日はあるレセプションが開かれていた。

 ホテルのシェフが腕を振るった料理がバイキング形式でテーブルに並べられ、多くの参加者がそれを囲んでいる。

 ざっと二百人ほどの参加者の服装は一様ではなく、羽織袴や呉服の和装、僧侶の法衣、白い着物に紫の袴の神職スタイル、そしてキリスト教の牧師や神父、シスターと思われる人も多数だ。ただ、そのような独特のスタイルばかりではなく、普通のスーツの人も多数いる。

 年に一度全国宗教者連合の協議会が今日の昼間、この同じ建物の大ホールで開催され、今はそのあとの懇親会だ。

 昼間の連合の協議会はそれなりに厳粛な雰囲気だっただろうが、今の懇親会の会場では神社本庁や独自の宗教法人の神社、仏教各宗派、そしてキリスト教もカトリックやプロテスタント各宗派の人々が混然と混ざり合って、グラスや料理の皿を手に和やかに談笑をしている。同じ所属の人たちだけで固まっているのではなく、本当に混ざり合っているのだ。

 連合にはかなりの数の宗教団体が加盟しているようだ。いかがわしいカルト教団は別としても、いわゆる新宗教といわれる教団もまた名簿に名を連ねている。宗門宗派の垣根を超えて、ともに世界の平和とよりよい社会の実現を祈念しようという趣旨の連合だ。

 その中でいろいろと事務方でこき使われた青年たちも、この懇親会ばかりは思う存分飲み食いしていいことになっており、各教団の幹部たちに混ざって料理に舌鼓を打っていた。


 その一角で、とあるカトリックの司祭が神学生の一人を連れて、かなり位階が高そうな法衣の年配の僧侶の元へ行った。神学生たちは他の宗教団体の青年会などと一緒に昼間の協議会では裏方として奉仕していたけれど、ここでは教団幹部も奉仕者の青年たちも同等の扱いを受けている。給仕等はホールのスタッフがしてくれる。


「お住職、お久しぶりです」


 二人は旧知の仲のようだ。


「おお、どうもどうも。お元気ですかな」


 はたから見ると、合わせが長くボタンが縦にいくつも並び首元は首輪のようなローマンカラーとなっている黒いスータンを着たカトリックの神父と黒い法衣の上に黄土色の袈裟を肩から着けた僧侶が酌をし合い、談笑しているのは異様かもしれない。でも、この協議会では珍しくない光景だ。


「そうそう、こちらが私の修道会の神学校の学生なんですが」


 神父に紹介された若い神学生は、年配の僧侶に頭を下げた。神学生は普通のスーツにネクタイ姿だった。その神学生は挨拶もそこそこに、いきなり寺の所在地とか宗派とかを聞いてきた。

 その時、その神学生を連れてきた司祭に、ビール瓶を手に横から話しかけた別の宗教団体の上層部らしき人がいた。


「あ、ちょっと失礼します」


 神父は僧侶に一礼すると、手に持ったグラスに話しかけてきた人の酌をもらって笑いながら話し込み始めた。

 残された神学生は、立ち去ろうとした僧侶を呼び止めた。


「今度、お寺にお伺いしてもよろしいですか?」


 突然申し出に僧侶も少し戸惑っていたけれど、すぐに笑顔を取り戻した。


「もちろん、もちろん」


「私はカトリックの聖職者を目指して学んでいますけれど、ほかのいろいろな宗教のことも知っておきたいのです」


「それはいい心がけです。戦国時代にキリスト教が初めて日本に来た時も、浄土真宗さんや日蓮宗さんはかなり目の敵にして火花を散らしたようですけれど、我が曹洞宗だけはイエズス会の宣教師の方々とも懇意にしていたと聞いています。いつでもいらしてください。で、お名前は?」


「あ、名前も名乗らず失礼しました。島村と申します」


「ちょうどうちの息子が大学受験で、今は田舎の寺に預けてますけど、そろそろ戻ってくるころです、うちの息子と同世代ではないですかな? 息子は一浪して今年受験ですが」


「私の方が一個上ですね。ぜひお会いしたいです」


 細身で眼鏡の島村神学生は、穏やかに微笑んだ。



  《「空の巻」おわり》



(「天の巻」へつづく)

 ※まだ執筆中なので公開までしばらくかかりますが、楽しみにお待ちください。

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