5 古文献講義(1)
翌日、朝食後には早速拓也の部屋のテーブルで講義が始まった、
テーブルには拓也とエーデルのほかに、婆様も同席していた。
テーブルの上には、これから講義を受ける古文献『神代の世界史』が置かれている。
まずはエーデルがこの古文献に関して理解した程度を話した。
「いや、この古文献の文章をそこまで理解できるとは、たいしたものです」
拓也は舌を巻いていた。
「いいえ、辞書を引いたりネットで言葉を調べたりで、三か月もかかりました」
「それでも大したものです」
「まずはこの最初の部分、『天神七代』のところですけれど、前の宮内さんのところの古文献について宮内さんの話を聞きましたけれど、あの古文献とはかなり違いますね」
「根本的な違いがあります」
話は主にエーデルと拓也の問答で進み、同席している婆様は今のところ黙って聞いているという形だった。
「宮内さんの所の古文献では、まず神々の御名が違う。そしてその神々は肉体を持った古代の人間の英雄として描かれ、その場所も中央アジアあたりに否定されます。でも、この文献の「天神七代」は「神代七代」ともいわれ、れっきとした高次元の世界、神界の出来事です」
高次元と聞いて、その高次元エネルギー体をコンタクトをしていると聞いている婆様の方を、エーデルは見た。そして尋ねた。
「神界とは、天国ですか? 空の上にある?」
その時、婆様は初めて穏やかに口を開いた。
「神界とは高次元エネルギーの世界ですから、どこか別の場所にあるのではなく、今私たちがいるこの世界と重なって存在しています。ただ、次元が違うというだけのことなのですよ」
エーデルはまだよくわからないという顔をした。婆様はにっこりと微笑んでした。とりあえずエーデルは続けた。
「もう一つ、私たちの『トーラー』、これはキリスト教の『旧約聖書』とほぼ同じものですから、拓也さんもご存じだと思いますけれど、その『トーラー』の一番最初の書物である『ベレシート』にも、神は七日でこの世界を創造されたとあります。そこが『天神七代』にも通じますので宮内さんにも聞きましたけれど、宮内さんのところの富士山古文献の記載はあまりにも人間の歴史という感じで、『ベレシート』との共通点は見出せませんでした」
「『ベレシート』ととは、つまり我われの言葉でいう『創世記』ですね。私も読んだことはあります。それでは『創世記』の七日と、この古文献の『天神七代』の一代ごとについて見ていきましょう」
拓也はテーブルの上の『神代の世界史』を開いた。
「最初は『宇宙剖判』について書かれています。剖判とは天地が分かれること、開闢と辞書にはあります。神が天と地を分けられたこと、つまり宇宙の始まりです」
エーデルは目を輝かせた。
「『ベレシート』では、二日目に天と地は分けられています。一日目は『神』が『光あれ』と仰せになって、光と闇が分けられたって」
「その一日目にあたる『天神七代』の第一代は?」
「ムトフ…ミクライ…ミヌシ…オウオオカミ」
自分のメモのノートを見ながら、エーデルはたどたどしく言った。
「よくできました。元無極体主王大神様」
「なんだか、舌を噛みそうです」
エーデルの言葉み、拓也は笑った。そこで婆様も笑いながら言った。
「神様のお名前はどうでもいいのです」
「え?」
意外なこと聞いたというような顔をエーデルは見せた。
「この神霊界の神様方の本当のお名前は、一切人間界には明かされていません。ただ、知らないからといってお呼びできないと困るので、人間界の方で名前を付けてよろしいということになったのです。要はその方にご自分が呼ばれているということがお分かりいただければいいわけで、ほかにも
『天地根本大祖神』とか
『大根元神』、
『天地真一神』、
『宇宙大元霊』、『宇宙創造の主神』とかいろいろなお名前があります」
拓也がそのあとの言葉を引き継いだ。
「そうなのですよ。その神様は光の神様です。この神様はお姿がないのです。だから隠身神といいまして、気力、意力のみの御存在、つまり意志だけ、魂力だけの神様です。この神様の意力で宇宙は創造された。宇宙創造の光といえば?」
「ビッグ・バン?」
「そう。二百億年前といわれていますね」
エーデルは何度もうなずいていた。
「それによって神の世界と物質の世界は分けられたのです」
「それが光と闇を分けられたということですね」
「はい。この神様は八次元におられて、そうして七次元カクレミ神界を創造あそばされたのです」
「次元…とはどういうことでしょう?」
「今私たちが暮らすこの物質の世界、ここが三次元界です。昨日か一昨日に言いました相反するものを十字に組んで物質が生成された、でもそれだけでは平面なので縦と横に高さが加わった立体の世界です」
「はい」
「我われの三次元の一つ高次元に、四次元界があります。人が死んだら魂が行く世界、その世界は目では見えません。見えないけれど厳として実在する。でも、ここじゃないどこかにあるのではなく、この世界と表裏一体に重なっています。つまり霊界ですね。それが四次元で、そのさらに上の次元が五次元、そして六次元、七次元と次元が上がって行きます。五次元より上は神霊界、そして七次元は神界になります」
「そんな上の『神様』なんですね」
「先ほど神様の御名についての話が婆様からありましたけど、あなた方はその『神様』を『ヤハエ』の神とお呼びしている」
「はい。モーセが『神様』の御名を尋ねた時に、『エイーエ・アシエル・エイーエ』とお答えになりました。そこから来ている御名です」
「それはこの国の言葉では『在りて有るもの』となります。つまり『厳としてお在します有力光』ということで、とにかく厳として実在しておられる。そして実在しているだけでなく力を有している、そういう意味ですね」
「はい」
「次に行きますよ。その大根元の『神様』は、宇宙構成の四大原理である時間・空間・火の精霊・水の精霊を六次元界に創造あそばされました。その世界は仮凝身神界で、つまりそこに時間を司る
『中末分主大神』様、空間を司る
『天地分主大神』様を創造されたのです。この方々が『天神第二代』と『天神第三代』です」
「待ってください。『ベレシート』では二日目に天と地を分けられ、三日目に海と陸地を『神』は分けられたとありますけど」
「それは実際には次の天神第四代
『天地分大底大神』様と
『天地分大底女大神』様、このお二方は男女一体神で、
『天地分大底大神』様は霊質を、
『天地分大底女大神』様は物質を創造されました。この四神の御力を具備し、仮凝身神界を統率されている主宰神が『天神第五代』の
『天一天柱主大神』様です」
「皆さん、お茶でもいかがですか」
その時、拓也の母が三人分のお茶を入れて部屋に持ってきた。




