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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 彩実祭
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6 彩実祭当日

 電話の発信は知らない番号。とりあえず出てみる。


「はい、もしもし」


「山下先輩ですね?」


「あ、はい」


 俺を名指しだから間違い電話ではないし、しかも俺を先輩と呼ぶ。


「鎌田です。鎌田聖香です。さくら川高の」


「ああっ」


 驚いた。ガチでめっちゃ驚いた。こんなことって……。


「え? どうしたの?」


「ごめんなさい。突然。裕香から番号聞いて。メールにしようかとも思いましたけど、手っ取り早いかなって。今、だいじょうぶですか?」


「うん、いいけど。びっくりしたよ」


「ごめんなさい。実は夏に先輩が帰省した時に、私の中学時代の友達と会ったでしょ」


「うん」


「あの二人が今度東京に行くんですって」


「え?」


「なんかね、オープンキャンパスにいろいろ行くんだけど、でもそれだけじゃなくて東京のいろいろな大学の学祭も見てみたいって。オープンキャンパスじゃ、今いる学生さんたちの雰囲気が分からないからって」


「俺の大学は東京じゃないけど」


「同じようなものです。で、先輩の大学の学祭っていつですか?」


 俺は日付を教えた。


「あ、連休の時ですよね。ずばり、そのころなんです。で、オープンキャンパスは自分たちだけで行ってだいじょうぶだけど、学祭となるとやっぱその大学に知り合いがいて案内してくれないとちょっと行く勇気がないとか」


「そっか。うちのオープンキャンパスは八月に終わっちゃったからなあ」


「学祭の時は忙しいですか?」


「とんでもない、俺、サークル入っていないから暇だし、大歓迎」


「よかった。東京の大学に行ったほかの先輩たちにも聞いたんですけど、みんな学祭はもう終わったとか、月始めに集中していてなかなかあの子たちと日程が合わなかったんですよ。じゃあ、どういうふうにしましょうか?」


「じゃ、俺んとこに電話くれるように言って。番号、教えていいから」


 さすがにこっちから番号を聞くのは抵抗があった。


「ところで、先輩、お元気ですか?」


 ここからは普通の雑談に入った。さくら川高校の後輩たちの様子も聞いた。


「鎌田さんは?」


「私は地元の大学志望です。私立ですけど」


 地元といってもあの田舎町には大学なんかないから、おそらく県庁所在地の大学だろう。私立は四大学ほどあり、そのどれかだろうと思うが深くは追及しなかった。


 そんな感じでとりあえず鎌田さんとの通話は終わった。

 俺はすぐにチャコにそのことを伝えた。


[返事が遅いと思ったら、すごいじゃない]


 チャコも興奮している様子が、その文字からも見えた。

 すぐに鎌田さんの友人の竹本ひろみから電話が来た。たしかピアノちゃんと呼ばれていた子だ。そして話はすぐに決まり、もう一人の筒井美穂とともに彩実さいみ祭に来ることが決まった。俺は先にほかのバッジを持つ人々も集まること、そしてそのバッジについて何か知っていそうな人も来ることも伝えると、二重に喜んでいた。

 最後に、天使ケルブにLINEした。そして俺の大学の学祭の彩実祭に、俺が出会ったバッジを持つ人が全員終結する旨を伝えた。


[本当ですか! やったじゃないですか! 念ずればその念は必ず物質化するんです。言った通りだったでしょ。素晴らしいことです]


 集合時間や場所は、チャコや美貴とも相談の上追って連絡することになった。


 当日は正門脇の壁の大学名が書いてある下にこじんまりとした「彩実祭」の文字とイラストが描かれた立て看板が置いてあるだけのエントランスで、高校の文化祭とかによくある派手なアーチなどはなかった。

 でも、その正門をくぐって十時になると大勢の人々がどっと入って、普段は閑静なキャンパスから聴こえる楽曲だの歓声だのでいかにもお祭りという気分だった。

 グラウンドまで続くメイン通路や校舎と校舎の間の広場にはずらっと白いテントが並び、それがすべてサークルや有志による出店で、たこ焼き屋、牛丼屋、クレープ屋、餃子屋、また地元も名物である油そば屋など高校の文化祭よりもどれも本格的だ。出店元は体育会系サークルが多いが、○○県人会とか○○国留学生会とかあるのも大学の学祭ならではだ。フリーマーケットもある。

 行列ができている出店もあり、ほかにビンゴやスタンプラリー、お笑いのど自慢とかもあってキャンパスは人で埋め尽くされていた。

 普段は学生と職員しかいないキャンパスに今日溢れているのは一般の人々で、もちろん圧倒的に学生が多いけれど、高校生、そして大人の人たちや子供の姿も多い。

 そんな人ごみの中では、大学の公式マスコットキャラクターであるメロンちゃんの着ぐるみがあちこちで見かけられる。

 広場の中央では本学女子学生によるにわか仕立てのアイドルグループの口パクライブも行われてたりして、その楽曲や見ている人たちのだみ声のコールなども喧騒の一つとなって響いていた。体育館では本格的なバンドによるライブやミスコンテストなどもあるようだ。

 俺自身、大学の学祭がここまで盛り上がるものだとは知らなかった。もちろん校舎の中は美術部や写真部、書道部、華道部などの作品展示、考古学研究会やロボット研究会、鐡道研究会などの研究発表、漫画同好会による同人誌の販売など落ち着いた催しも多い。それでも人はたくさん入っている。

 お化け屋敷やメイド喫茶などはなく、やはり盛り上がってお祭り騒ぎしている中にも知性が感じられた。


 待ち合わせは十一時、場所は正門内のバスの発着所で、俺とチャコが先に来ていてあたりを見回していた。

 バスが付くたびに大勢の乗客が排出されるし、正門から歩いて入ってくる人も多い。そんな中での待ち合わせだが、特に俺が周囲に目を光らせていなければならない。

 なぜなら、今日ここで集まる人たちのすべての顔を見知っているのは俺だけなのだ。そのほかはお互いが初対面という人も多い。

 ところが、約束の十一時になる前に全員が見事に集合した。

 まずは美貴、そして杉本君が到着し、そして天使ケルブが久々に見るその姿を現した。

 さすがに今日はコスプレではなく、それでも白っぽいワンピースの私服で、一応は高校生らしい服装だ。さらにピアノちゃんたち二人、そしてそのすぐ後に大翔君たち二人が到着、これで全員が集結した。それはほとんど不可能と思われたことが実現した瞬間でもあった。

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