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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 彩実祭
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5 妙案奇案思案

 その日のうちに、杉本君からメールは来た。


「先日はどうも。なんか貴君が僕と連絡を取りたがっていると優樹菜から聞きましたけど」


 短いメールだ。優樹菜ゆきなとは鷲尾さんの下の名前だ。

 俺はすぐに、例のバッジの件で話があるので会いたい旨を返信した。


「うちの大学の学祭がありますから、来ませんか? その時にでも」


 それはいい機会だ。そこで、その日付を聞いた。すると、十一月の半ば。


「ああ、その土日をはさんでその前後が、第三タームの期末試験なんですよ」


「え? タームって何ですか? 変な時に試験やるんですね」


 俺は相手が分かるように、それでごくごく簡単に説明しておいた。たしかに、ほかの大学ではタームなんて言葉は使わないのかもしれえない。俺もこの大学に入って初めて聞いた言葉だ。

 試験も私立大学では前期試験と後期試験の年二回。後期試験はたいてい一月だが、前期試験は夏休み前の大学と夏休み後の大学とがあるようだ。

 いずれにせよ、杉本君の大学学祭に行くのは厳しいし、そこに例のメンバーを集めるというのも不自然だ。

 結局、またあらためてということになった。


 次は先に、あの信州の二人にということで、谷口大翔(はると)君の方へLINEでメッセージを送ってみた。IDはすでにあの農場で交換している。


 ――[久しぶりですが、元気ですか?]


[はい。受験勉強大変だけど、なんとかやってます]


 返事はすぐに来た。

 進学かどうかまず聞こうと思っていたけれど、このメッセージで進学であることは分かった。そうなるとこれから受験本番を迎えるわけで、そんな人たちを遠くに呼び寄せるのは気が引ける。


 ――[たしかに大変だけど、がんばれ! ところで、そんな君たちにいきなりこんなことあれだけど、東京の方へ来る予定はない?]


 あるわけないとは思うけど、一応聞いてみた。


[もしかして、例の、バッジのことを知っている人から話が聞けるんですか?]


 そういえばこの二人には、天使ケルブがバッジのことを知っていそうなこと、時が来たら話してくれると言っていたことなど、全部話してあるんだった。そして、その「時が来たら」の時にはぜひ呼んでほしいともいわれていた。


 ――[一応、そういうことなんだけど]


[行きます、行きます]


 驚くほどの即レス。


[実は十一月の下旬に志望大学のオープンキャンパスがあるんで、東京に行くんですけど]


 日付も書いてあった。ちょうど第三タームの期末試験が終わったあとだ。

 ちょうどよかった……そう思った俺は、ふとあることを思い出した。先ほどの杉本君のメールでは、彼の大学の学生に誘ってくれたけどそれが一週間前で、試験前だからって断った。ところが試験が終わったちょうどその次の週末、自分の大学の学祭なのだ。

 俺はサークルとかやってないし、初めての学祭なのでその存在をあまり気にしていなかったけれど、たしかその期日だった。

 つまり、大翔君が東京に来るスケジュールとぴったり一緒だったので驚いた。


 ――[一人で?]


[いえ、佐藤新司も一緒です]


 ――[ちょうどよかった]


 俺はその同じ週末が自分の大学の学祭であることを告げた。そして、先ほどは杉本君の大学の学祭を断ったときになぜ思いつかなかったのだろうという感じだけど、自分の大学の学祭に来てもらって集まるというのがいちばんの妙案じゃないかとひらめいたのだ。


[ぜひ行きます。どうせ泊まるつもりですし、土曜日にオープンキャンパスへ行けば日曜日には山下さんの大学に行けます。オープンキャンパスだけじゃなく、東京の大学の学祭も見ておいた方が受験勉強の励みにもなりますから」


 厳密には東京じゃないんだけど、あっちから見たら同じようなものかと思う。


 これで一つ話がついたので、もう一度杉本君に連絡した。


「先ほどはせっかくのお誘いをお断りしてごめんなさい。断っておいてあれなんですけど、考えてみたら試験が終わった次の週はこちらの大学の学祭なんです。その時に来ていただいて会えませんか?」


「了解です。優樹菜にも聞いてみます」


「ごめんなさい。あのバッジのことが話題だけに、一人で来てくれますか?」


「了解です」


 これで話はついた。

 あとは栃木の二人の女の子だけど、大翔君のようにケルブのこと話していないし、バッジのことで話があるから遠路はるばる来てくれというわけにもいかない。こちらは夏に予備校の夏期講習に通うために俺と電車に乗り合わせたのだったから、受験生であることは間違いない。

 大翔君のようにオープンキャンパスで東京に来る予定があればいいけど、二回もそううまくは行かないだろう。しかもわざわざこちらからそういう予定はありませんかなんて聞けるはずもない。

 とにかく俺は、ここまでのっきさつをチャコと美貴にLINEを送って説明した。


[そうそう、彩実さいみ祭だよね。初めてだからどんな雰囲気かわからないけど、たしかにあるよね。高校の文化祭とは違うのかなあ?]


 ――[俺もわかんねえ。でもまあ、でもそれをきっかけに集まるっていうのはいいね」


 彩実祭とは、俺たちの大学の学祭の名称だ。そこでみんなを集めるというのには、チャコも賛成してくれた。

 だが問題は女子高校生二人……。


[もしその子たち、私が知ってる子ならば私が声かけてもいいのだけど、知らないからなあ]


 たしかにそれがいちばんだけど、でもチャコはその子たちと会ったことも話したこともないし、向こうからすればチャコは見ず知らずの人だ。


 ところがチャコとそんなLINEメッセージのやり取りをしている最中に、割り込む形で電話の着信が入った。

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