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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第6部 富士の霊峰
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7 さらなる古文献

 帰り着くと、婆様はにこにこ笑って迎えてくれた。

 婆様の部屋で、さっそくエーデルは話し込んだ。


「どうでした? 宮内さんから話は聞けましたか?」


「はい、ありがとうござます。この国の歴史が『古事記』よりもかなり古いということを知りました」


「そうでしょう。ところが今の学校で教える歴史は、その『古事記』の神話すらもカットして、三世紀くらいから始まっています。それ以前の悠久の歴史から見たら、今の学校で教えている歴史なんて『近代史』ですよ」


「お婆様はあの古文献を知っていたのですか?」


「高次元エネルギーからのメッセージで、いくつかある古文献を研究せよという志治がありましてね。あの文献もその一つですよ」


「え? ほかにもあるのですか?」


「一番重要なのが、あります。それはあの古文献ではありません。今はその古文献に関しては孫の拓也が詳しく調べています」


「その文献にすべての真実が書かれているのですか?」


「いえ、高次元エネルギー体からのメッセージでは、研究はする必要があるけれど、そこに書いてあることが百パーセント真実というわけではないから気をつけよとのことでしたけどね」


 エーデルは、軽く何度もうなずいた。そして婆様を見た。


「その高次元のエネルギー体とは、富士山の女神様ですか?」


「どうしてそう思いますか?」


「富士山の女神様が婆様の守護神だって」


 婆様は声を挙げて笑った。


「誰がそんなことを言ったのですかね。まあ、勝手にいろいろと言ってくれるのはかまわないですけどね。私ゃそんなことひとことも言ってないんですがね」


 それからまたエーデルを見た。


「そんなことよりも、例のもう一つの古文献は活字で出版されたのが拓也の部屋にあるから、それも見てみるといい」


 婆様がそんなことを言っているうちに、夕食の支度が出来たと婆様の息子の嫁さんが呼びに来た。

 夕食後、さっそく婆様の息子に立ち会ってもらって、エーデルは婆様の孫・拓也の部屋の書棚を探した。そして、息子さんの助言もあってやっと探し出せたのがやはり分厚いハードカバー入りの書籍『神代の世界史』という本だった。

 中を開けると今度は古文書の写真版ではなく、活字に直されていた。だから読みやすい。文体も普通に漢字と仮名だが、仮名はひらがなではなくカタカナだった。

 これならエーデルでも読める。読めるが、その内容を理解するとは別問題だった。ただ、ずっと文章が書いてあるのではなく、文は短めで文と文の間には図や表、写真、そして系図などが多く、その分だけ取りかかりやすかった。

 そして目についたのは、最初の数ページが「天神七代」で始まっていることだ。

 これは『古事記』や『日本書紀』のただ神名の羅列でも、今日見てきた宮内家の古文献のよくわからない記述ともだいぶ違って整然と、そしてある程度詳細に内容は記されていた。

 こちらの方ははっきりと『トーラー』に符合する――それがエーデルが受けた直勘だった。

 エーデルはさっそくその本を手に、婆様の部屋に戻った。


「この本ですか?」


「うん、そうそう」


 婆様は車いすのに座って、その本を手に取って目を細めた。


「高次元エネルギー体からのメッセージは、この文献を調べよとのことでした。ただ、さっきも言ったように、このすべてが真実だというわけではないと」


「でもかなり、真実に近いのですね」


 高次元からのメッセージというと、そういうことになる。そのメッセージを信じるか信じないかの次元ではなく、エーデルの中ではっきりと共鳴する部分があったのだ。


「この神代七代のところを詳しく知りたいのです」


 その神代七代からすぐに天皇の世が始まるが、『古事記』で読んだ神武天皇ではなく、むしろ『古事記』の神話の部分に登場した神々の何名かの名がそこに「天皇」として記されていた。

 神武天皇はずっと後、だがその一代前の「ウガヤフキアエズ天皇」が数十代続いた一つの王朝だったという記述は、あの宮内家の古文献と同じである。

 エーデルはざっと見てこれくらいは分かったが、詳しい話の内容はちょっと見ただけでは理解できなかった。


「そうだなあ。私が解説してもいいのですけれど、孫の拓也の方が話はうまい。学校の先生ですから」


「でも、理科の先生でしょう?」


「あの子は私がちょっと話すとすぐに研究にとりかかって、今は私よりも詳しい。息子はそっちの方は全然疎いけど」


 そう言って婆様は上品に笑った。


「でも、次にいつ帰ってきますか?」


「正月かなあ?」


「え、それまで待てません。私の方から行きます。迷惑ですか?」


「いや喜ぶと思うよ」


「ここにあまり長いこといたら、こちらの方が迷惑ですね?」


「いやいやいや、ちっともそんなことはないよ。いつまでもいてくれてもいいよ。話し相手ができてかえってうれしい」


「では、お願いです。まずはこの本、貸してください。そして私が何とか私の国の言葉に直し終わってそれが終わったら、お孫さんのところに行きたいのです。それまでもう少しここにいさせてください」


「いいよ、いいよ。焦らなくてゆっくりとね」


「ありがとうございます」


 婆様もエーデルも最高のニコニコ顔でうなずき合っていた。


(「第7部 彩実祭」につづく)

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