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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第1部 世界スメル協会
4/66

4 最大の神殿

 とにかく何から始めていいかわからなかったエーデル姫は、自分のひらめきだけが頼りだった。ひらめいたらその通りに、やるべきことをすぐに決断しすぐに実行する、その断行と遂行を即受即行する、これだけが杖だった。

 そしてそのひらめきにしたがって、彼女は首都から西へ向かう高速鉄道に乗っていた。TGVやICE、ユーロスターなどに負けないくらいのスピードだし、歴史もそれらより古い。

 その高速鉄道に乗って約二時間、彼女は割と大きなターミナル駅に着いた。まだここが終点ではないがエーデル姫はここで降りた。

 この日は朝からどんよりと曇っていたが、首都を出てから五十分くらいたったころに一度だけ進行方向右側の空の雲が晴れた。

 ちょうどエーデル姫が座っている二人掛けシートの側だ。

 その時、実に神々しい景色を見た。あの飛行機の中で見えたこの国最高峰の円錐形の霊峰が、飛行機の窓からよりもはるかに近く雲の隙間からその姿を現したのである。

 思わず背筋がぞくっとし、手を合わせたくなる衝動に駆られるくらいの荘厳さに、エーデル姫は息をのんだ。

 円錐形といっても平べったく、裾野は広大な面積を占めて横に広がっている。それでもかなりの高さであることはわかる。

 この山がこの国のシンボルでもあるから、これまでも画像を見たことは何度もあるが、こんなに大きな山だとは思わなかった。ただ、画像では頂上付近に冠雪しているものが多いが今は雪はなく、全体的に青茶色い三角形の山だ。

 だが霊峰が見えていたのはほんの十分くらいで、列車はすぐにものすごいスピードでトンネルに入り、霊峰はもう姿を見せることはなかった。

 それからいくつもの駅を通過して最初に停車したのが、彼女が下車したターミナル駅だった。一度外に出てすぐそばの駅からプライベートラインの特急列車に乗り換えて終点までまた約二時間、ようやく目的の駅に着いた。

 落ち着いた感じの町だが決して都会ではない。かといって田舎かというとまたそうでもない。

 行きかう人々は同じこの国の国民の観光客が多いが、白人などの外国人もまた多数見受けられた。

 さすがに今日はエーデル姫もスーツではなくパンツ姿の、ある程度カジュアルな服装だ。だが、行く目的地が目的地なだけにあまり崩してもいない。

 目的地は神殿なのだ。

 最初に泊まったホテルで見たパソコンのWEBサイトで、いくつか霊的なパワースポットを彼女は調べてみた。どこも同じような場所が二十カ所ほど英語で紹介されていたが、「TOP POWER SPOT」という言葉にひかれてアクセスしてページでこの国でいちばん大きな神殿として紹介されていたその神殿に、今向かっている。歴史も古く創建二千年というが、イェルシャラインの最後の神殿のホウドース王の第二神殿よりかははるかに新しい。

 エーデル姫は駅からバスに乗り、巡礼参拝者か観光客が判断がつかないような人々に交じって神殿に向かった。さすがにこの国ではミツライムの言葉は通じないが、ホテルや案内所では英語が通じる。

 だが、エーデル姫はこの国の言葉に堪能なので、知りたいことは誰にでも聞くことができた。象形文字のジャングルのようなこの国の文字も、少しは読める。

 この国の言語は、世界でも一番難しい言葉だと思う。文字列は英語と同様に左から書くが、時には縦に書くこともできるようだ。


 やがてバスが終着に着いて降りると、エーデル姫は思わず目を見開いた。

 人々が吸い込まれていくのは川にかかった木の橋で、その上に不思議な形の門があった。

 その門が限りなくイェフディの古代の幕屋の神殿の門なのだ。

 その門の間際まで背の低い木造の建造物がひしめき合う町だけれど、橋を渡った向こうは別世界のようで、こんもりとした森が茂る広大な土地のようだ。

 まさしく神域という感じで、感覚的にそう感じるだけでなく実際にものすごい霊圧をエーデル姫は感じた。限りなく神聖なオーラに森全体が包まれていた。


 エーデル姫は長い橋を渡った。橋の下は実に清らかな、澄んだ水が流れる川だった。

 渡りきったところは果たして、空気がまるで違っていた。静寂な中に荘厳さと威厳に満ちたそんな森が広がっている。

 森の中に右に折れる形で広い道がある。橋の向こうは道はすべてアスファルトで固められていたが、ここは細かい白い石が一面に敷かれた道だ。そんな道が森の奥へと続き、多くの人が同じ方向へと歩き、また向こうから来る人たちとすれ違う形になった。

 おそらく参拝を終えた人たちだろう。

 人は多かったけれど、それほど道全体が埋まるほどの密の状態ではなく、三々五々という感じで人々は歩いている。

 途中、あの橋の渡口にあった不思議な形の門と同じ形でミニサイズの門がいくつかあり、左右の森の中には建物もあった。すべて木造で、傾斜する屋根がついている。

 屋根は一見すると板のように見えるけれど、実は木の皮でできていることを彼女はすでに知っていた。事前に調べて得た情報だ。

 そのうち道は左に折れた。少しだけ幅が狭くなったけれど、それでも十分広い。左右はこんもりとした森だ。

 結構堂々としたやはり木造の建物をいくつか左に見て歩くうちに、道は行き止まりとなった。


 橋を渡ってからここまで普通に歩けば十分くらいの距離だけど、エーデル姫はかなりあちこちを見ながらゆっくり散策したので十五分以上はかかっていた。

 例えば多くの観光客が参道から逸れて足を向けていたのは、道が川に接する地点だ。昔はここで神殿参拝前に人々が川の水で身を清めていたところだと聞き、洗者ヨハナンが洗礼を授けていたヨルデーン川を彼女は想起した。

 ヨルデーン川のヨナハン洗礼の地はエーデル姫も過去に何度か足を運んだこともあるが、そこは今はファラスティーニートゥの管轄区域にある。だが、ミツライムのパスポートを持つエーデル姫は外国の観光客に混ざって容易にその地に行くことができた。

 そこと雰囲気は似ている。ただ、ここの川はヨルデーン川よりも川幅は広く、そして何よりも水が澄んでいた。

 そんな寄り道をしながら参拝客らが到達した地点は、参道の終点の左手に平らできれいな石でできた階段状の短くて幅が広い緩やかなスロープだ。

 その上にメインの神殿があるようで、多くの人々がそこで礼拝していた。

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