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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第5部 農業バイト
32/66

7 早朝の畑

 俺はおじさんが昼間言っていた言葉を、布団の中で思い出していた。

 実はここ最近、どうも気になっていたことがあった。

 朝は毎日五時起床だけれど、ここに来たばかりの頃は毎日が疲れ果てて、朝五時の目覚ましが鳴るまでずっと爆睡だった。

 だが、最近は心にも余裕が出てきたのか、起床の三十分前には何となく目が覚めるようになった。するとちょうどその時間に、大翔君と佐藤君はベッドから起きだして、二人して外に出かけるのだ。

 それまでも俺が五時に 俺はおじさんが昼間言っていた言葉を、布団の中で思い出していた。

 実はここ最近、どうも気になっていたことがあった。

 朝は毎日五時起床だけれど、ここに来たばかりの頃は毎日が疲れ果てて、朝五時の目覚ましが鳴るまでずっと爆睡だった。

 だが、最近は心にも余裕が出てきたのか、起床の三十分前には何となく目が覚めるようになった。するとちょうどその時間に、大翔君と佐藤君はベッドから起きだして、二人して外に出かけるのだ。

 それまでも俺が五時に起きた時点で二人はすでに起きていて庭にいたりしたけれど、たいして気にしていなかった。だけれども、二人そろって起床時間よりも三十分も早く起きて外に行く、しかも毎日だ。

 俺はおじさんの話を聞いた翌朝、二人がやはり四時半には起きてそっと外に行くのに気づくと、俺も起きだした。

 そっと庭に出てみたけれど、二人の姿はない。

 そこで、俺は木々の間の小道を抜けて、そっと畑の方へ行ってみた。

 果たして二人は畑にいた。ただ、作業をしているというわけではなく、畑の、今日収穫予定のキュウリ畑のところで畑の方を向いてずっと立ち続けている。

 そばまで来て分かったけれど、二人はただ畑の方を向いて突っ立っていたわけではなく、両手を畑の方へ伸ばし、その手のひらを畑へと向けていたのだ。


 ――何をやっているのだろう?


 不思議に思って俺は、ゆっくり二人に近づいた。

 二人は俺を見て、バツが悪そうに手を下ろした。


「昨日おじさんが言っていたおまじない?」


「まあ、そんなところです」


 明らかに焦っている。


「別に悪いことしてたわけじゃないでしょうから、気にしないで続けて」


 俺がそう言ったので、二人はまた畑の方へと腕を伸ばした。まるで手のひらから目に見えない光線が出ていて、それを畑の作物にまんべんなく放射しているという感じだ。ここで手のひらから光の束が出ていて畑を包んでいたりしたら、異世界物のアニメによくある空間魔法のようだ。もちろん、手のひらから先には、俺には何も見えない。

 その時、手のひらからのエネルギーってことで、俺には閃いたことがあった。


「それって、宇宙のエネルギーを放射して、キュウリさんパワーを与えているってこと?」


「まあ、そんなところですかね」


 俺は一瞬ためらった後、静かに言った。


「実は手のひらからのエネルギーなら、俺にだってあるんだ」


 俺は思わず言ってしまった。年下の大翔君たちに変な目で見られるとその時は一瞬覚悟した。

 でも大翔君は、驚いたような顔をした。


「え?」


「俺の場合は研究所のバイオ・フォトンの測定の機械で計ってもらって、けっこう高い数値が出てA級ヒーラーとしてすぐにでもヒーリングの店を出せるレベルだった」


 二人とも、きょとんとした顔をしている。俺は続けた。


「君たちのパワーと俺のパワー、同じかなあ?」


 大翔君は両手を下ろして俺の方を見た。


「どういうことですか?」


「詳しくは今日の休憩時間にでも、話せば長くなるから君たちはそのおまじないを続けて」


「そのパワーを今まで試したことは?」


「ないんだ」


 俺は大翔君たちの隣に立ち、畑に向かった両方の手の手のひらを向けてみた。

 はっきり言って、そうしたところで俺の手からあの実験の時と同じパワーが出ているのかどうかは分からなかった。ただ、手のひらが熱くなって、むずむずする感じだけはあった。

 二人もまた、同じ動作を再開した。


 そしてその日の昼休み、昼食の後俺は自分たちの部屋に戻った。普通はあまり自室には戻らず、食堂か庭で思い思いに休憩するのが日常だった。

 俺が自室に戻ると、当然大翔君や佐藤君もついてきた。もともとこの二人と話をするために、三人で自室に戻ったのだ。

 部屋では俺は、例の国際生体科学研究所のことやそこで行われたバイオ・フォトンの実験の話を、さらに詳しく二人に話した。そしてその実験で、驚くべき能力が俺にはあるらしいという結果が出たことも付け加えた。


「機械による測定で数値として出たのなら、本当かもしれませんね」


 大翔君はうなずく。


「でも、それ以外に実際に体験として得られた証拠はないんですよね。あ。ごめんなさい。生意気なこと言って」


 隣の佐藤君が遠慮がちに口をはさんだ。


「いや、その通りなんだよ。そのあといろいろ忙しくてバタバタしてたし」


 たしかに、俺の関心事はそのような数値が出たということよりも、俺とチャコだけがほかの仲間と違う数値が出たこと、さらにはそこで幸野さんというもう一人の女性が同じような力があることを知り、知り合いになったこと、それらのことの方が関心事だった。

 そして不意に思い出した。チャコや幸野さんと俺との不思議な共通点。それはあのバッジだった。

 三人が三人ともどうやってそのバッジを手に入れたかについての明確な記憶がない。いつの間にか持っていたという感じなのが不思議だ。

 俺はまた閃くものがあって、Tシャツの下のインナーからそのバッジを外して彼らに見せた。


「「ああっ!」」


 二人の反応は、驚くほど予想通りだった。

 そして二人とももぞもぞと、俺と同じように自分のTシャツの下をまさぐり、そして取り出したのは……

 俺が彼らに見せたのと同じ、あの楯の形をした太陽のデザインのバッジだった。


「山下さんはどうしてそのバッジを?」


 俺はチャコたちに言ったのと同じように彼らにも告げ、そして、同じようにこのバッジを持つ二人の女性が同じ実験で同じ結果を得たことも語った。

 大翔君たちも顔を見合わせていた。


「同じです。僕らもいつの間にか知らない間に、このバッジを持っていたんです。それでこのバッジを付けるとなんだかパワーがみなぎったような気がして、アニメのようにその力を手から放射してみたら、目には見えないけれど実際に何かエネルギーが放出されているのを感じて、そしていろんな出来事が起こったんです。なあ」


 一気にそこまで言ってから、大翔君は佐藤君に同意を求めた。佐藤君もうなずいた。


「けがして血を流している人の血が立ちどころに止まったり、熱湯に指突っ込んでやけどしている人のやけどを跡形もなく治したりとか」


 そう言われても、俺はそのような体験はしていないのでわからないけれど、でもそうなんだろうと思う。なぜなら俺たちはまたここで同じバッジを持っている。

 そういえばあの同人誌即売会で知り合ったケルブというレイヤーさんとはこんなパワーの話はしていないけれど、やはり同じバッジを持っていた。

 これは何かあると、俺は思った。


「とりあえずここでは何か試してみることもできないから、明日から早朝の畑でこのパワーを野菜さんに放射するのを手伝ってもいいかな?」


 それについては大翔君は異論がないどころか、むしろ喜んでいた。起きた時点で二人はすでに起きていて庭にいたりしたけれど、たいして気にしていなかった。だけれども、二人そろって起床時間よりも三十分も早く起きて外に行く、しかも毎日だ。

 俺はおじさんの話を聞いた翌朝、二人がやはり四時半には起きてそっと外に行くのに気づくと、俺も起きだした。

 そっと庭に出てみたけれど、二人の姿はない。

 そこで、俺は木々の間の小道を抜けて、そっと畑の方へ行ってみた。

 果たして二人は畑にいた。ただ、作業をしているというわけではなく、畑の、今日収穫予定のキュウリ畑のところで畑の方を向いてずっと立ち続けている。

 そばまで来て分かったけれど、二人はただ畑の方を向いて突っ立っていたわけではなく、両手を畑の方へ伸ばし、その手のひらを畑へと向けていたのだ。


 ――何をやっているのだろう?


 不思議に思って俺は、ゆっくり二人に近づいた。

 二人は俺を見て、バツが悪そうに手を下ろした。


「昨日おじさんが言っていたおまじない?」


「まあ、そんなところです」


 明らかに焦っている。


「別に悪いことしてたわけじゃないでしょうから、気にしないで続けて」


 俺がそう言ったので、二人はまた畑の方へと腕を伸ばした。まるで手のひらから目に見えない光線が出ていて、それを畑の作物にまんべんなく放射しているという感じだ。ここで手のひらから光の束が出ていて畑を包んでいたりしたら、異世界物のアニメによくある空間魔法のようだ。もちろん、手のひらから先には、俺には何も見えない。

 その時、手のひらからのエネルギーってことで、俺には閃いたことがあった。


「それって、宇宙のエネルギーを放射して、キュウリさんパワーを与えているってこと?」


「まあ、そんなところですかね」


 俺は一瞬ためらった後、静かに言った。


「実は手のひらからのエネルギーなら、俺にだってあるんだ」


 俺は思わず言ってしまった。年下の大翔君たちに変な目で見られるとその時は一瞬覚悟した。

 でも大翔君は、驚いたような顔をした。


「え?」


「俺の場合は研究所のバイオ・フォトンの測定の機械で計ってもらって、けっこう高い数値が出てA級ヒーラーとしてすぐにでもヒーリングの店を出せるレベルだった」


 二人とも、きょとんとした顔をしている。俺は続けた。


「君たちのパワーと俺のパワー、同じかなあ?」


 大翔君は両手を下ろして俺の方を見た。


「どういうことですか?」


「詳しくは今日の休憩時間にでも、話せば長くなるから君たちはそのおまじないを続けて」


「そのパワーを今まで試したことは?」


「ないんだ」


 俺は大翔君たちの隣に立ち、畑に向かった両方の手の手のひらを向けてみた。

 はっきり言って、そうしたところで俺の手からあの実験の時と同じパワーが出ているのかどうかは分からなかった。ただ、手のひらが熱くなって、むずむずする感じだけはあった。

 二人もまた、同じ動作を再開した。


 そしてその日の昼休み、昼食の後俺は自分たちの部屋に戻った。普通はあまり自室には戻らず、食堂か庭で思い思いに休憩するのが日常だった。

 俺が自室に戻ると、当然大翔君や佐藤君もついてきた。もともとこの二人と話をするために、三人で自室に戻ったのだ。

 部屋では俺は、例の国際生体科学研究所のことやそこで行われたバイオ・フォトンの実験の話を、さらに詳しく二人に話した。そしてその実験で、驚くべき能力が俺にはあるらしいという結果が出たことも付け加えた。


「機械による測定で数値として出たのなら、本当かもしれませんね」


 大翔君はうなずく。


「でも、それ以外に実際に体験として得られた証拠はないんですよね。あ。ごめんなさい。生意気なこと言って」


 隣の佐藤君が遠慮がちに口をはさんだ。


「いや、その通りなんだよ。そのあといろいろ忙しくてバタバタしてたし」


 たしかに、俺の関心事はそのような数値が出たということよりも、俺とチャコだけがほかの仲間と違う数値が出たこと、さらにはそこで幸野さんというもう一人の女性が同じような力があることを知り、知り合いになったこと、それらのことの方が関心事だった。

 そして不意に思い出した。チャコや幸野さんと俺との不思議な共通点。それはあのバッジだった。

 三人が三人ともどうやってそのバッジを手に入れたかについての明確な記憶がない。いつの間にか持っていたという感じなのが不思議だ。

 俺はまた閃くものがあって、Tシャツの下のインナーからそのバッジを外して彼らに見せた。


「「ああっ!」」


 二人の反応は、驚くほど予想通りだった。

 そして二人とももぞもぞと、俺と同じように自分のTシャツの下をまさぐり、そして取り出したのは……

 俺が彼らに見せたのと同じ、あの楯の形をした太陽のデザインのバッジだった。


「山下さんはどうしてそのバッジを?」


 俺はチャコたちに言ったのと同じように彼らにも告げ、そして、同じようにこのバッジを持つ二人の女性が同じ実験で同じ結果を得たことも語った。

 大翔君たちも顔を見合わせていた。


「同じです。僕らもいつの間にか知らない間に、このバッジを持っていたんです。それでこのバッジを付けるとなんだかパワーがみなぎったような気がして、アニメのようにその力を手から放射してみたら、目には見えないけれど実際に何かエネルギーが放出されているのを感じて、そしていろんな出来事が起こったんです。なあ」


 一気にそこまで言ってから、大翔君は佐藤君に同意を求めた。佐藤君もうなずいた。


「けがして血を流している人の血が立ちどころに止まったり、熱湯に指突っ込んでやけどしている人のやけどを跡形もなく治したりとか」


 そう言われても、俺はそのような体験はしていないのでわからないけれど、でもそうなんだろうと思う。なぜなら俺たちはまたここで同じバッジを持っている。

 そういえばあの同人誌即売会で知り合ったケルブというレイヤーさんとはこんなパワーの話はしていないけれど、やはり同じバッジを持っていた。

 これは何かあると、俺は思った。


「とりあえずここでは何か試してみることもできないから、明日から早朝の畑でこのパワーを野菜さんに放射するのを手伝ってもいいかな?」


 それについては大翔君は異論がないどころか、むしろ喜んでいた。

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