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暁の歌、響け世界に2 《空の巻》  作者: John B. Rabitan
第2部 バイオ・フォトン
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3 ヒーリング実験

 俺たちは配られた資料にざっと目を通したけれど、まだ読み終わっていないうちに篠原さんは話し始めた。


「あらためて皆さんの我われの研究に対するご協力に感謝します。で、今回の実験の目的は人体が発する極微弱生物光、一般にバイオ・フォトンと呼ばれてるんですけど、これを測定することでヒーリング作用の効果量を測定し、評価するってことなんですね」


 話が難しい。


「ハンドパワーによるヒーリングは、全人類がその全歴史過程の中で行われてきたという記録がありましてね。でも、それについての科学的研究は、まだ始まったばかりなんですよ。すでに驚くべき結果は出てますけれれどね、まだまだサンプルが足りていないというのが現状でして。それで、皆さんのご協力が必要だってことなんです」


 一度篠原さんは話を切って、俺たちを見渡した。


「で、実験の方法ですけど、実験物に対して十五分から三十分ほど、ハンドパワーのヒーリングをしてもらいます。実験物とは輪切りにしたキュウリです。そのあと、何もしなかったキュウリとともに極微弱光観測装置でバイオ・フォトンを測定します。実験サンプルと対照サンプルとでの発光強度を比較して、ヒーリングの効果量を調べるんですが、これは十八時間かかるんです。ですから、皆さんはその前にもうおお帰りになって結構です。結果は十二月に学会に報告されますけれど、ご希望があれば非公式結果を皆さんには個別にお知らせします。実際に結果がどうであっても、皆さんが科学的にはまだ証明されていない潜在能力への科学的研究に貢献してくれたことになります。何かご質問はありますか?」


 俺たちはみんな黙って首を小さく横に振った。質問しようにも話がよく見えていないので、質問のしようがない。


「ではお配りした資料によく目を通して、説明を受けたことを表明する同意書に署名してください」


 資料にはこの実験が世界医師会総会による「ヘルシンキ宣言」に基づいて行われ、その宣言によって倫理規範や被験者の人権が守られることが書かれていた。

 さらに実験への参加の可否の自由や、途中でやめることの自由が明記され、そして研究の目的が先ほどの篠原さんの説明よりもさらに難しい言葉で記されていた。

 ほかには、実験には薬物は一切使用しないこと、採血などもないこと、実験の危険性や不便なども一切ないことも保証する旨などが書かれていた。

 そして個人情報の徹底保護や、実験結果の他の研究や研究以外の目的に使用されることも絶対にないことも明記されていた。

 俺たちはそれを一読し、同意書に署名をした。未成年は保護者の署名も必要なようだったが、昔と違って今は大学生で未成年というのはあり得ない。

 署名が終わると、さっそく実験が始まった。

 俺たち五人はテーブルの、それぞれかなり離れた位置に座るよう言われた。テーブルの上には、四つほどの輪切りのキュウリが切り口を上に入っている蓋つきガラス容器が一つずつ置かれていた。容器の側面には番号が書いた札が張られていた。


「このキュウリは今日買ってきて、今切ったばかりです。このキュウリがよく光るように念じて、手のひらからパワーを放射してください」


「片手ですか? 両手でですか?」


 佐久間が聞いた、篠原さんはすぐに答えてくれた。


「どちらでも好きな方でかまいません。ただ、手の体温が伝わったりキュウリが動いてしまうといけないので、この容器には手を直接触れないでください。それと、皆さんはお友達のようですけれど、実験中は一切会話はなしで集中してくださいね。では、始めます」


 俺たちが慣れない手つきでとにかくキュウリに向かって手のひらをかざし始めると、篠原さんは部屋を出て行った。全員両手でキュウリを包み込むように手をかざしている。


 しばらくはそうしていたけれど、やはり手が疲れる。そうして片手ずつしばらく休ませて、また両手で手をかざした。かざしたところで、俺がパワーを放射しているのかどうか、全く実感がわかない。もちろん、目には何も見えない。ただ、異世界アニメなどでよく見る治癒魔法みたいだなと、俺は思っていた。

 それにしても時間がたつのが長く感じた。


「十五分経ちましたが、続けますか?」


 そう言って篠原さんが顔を出すまでかなり長く、まだ半分なのかと気が重くなった。それでもみんな、ここでやめるという人はいなかった。

 そして数時間の体感の三十分が終わった。


「対象サンプルは人数分、隣の部屋に置いてありました。それと一緒に皆さんがパワーをかけたのを今から測定装置に入れます」


 篠原さんはそう言って、容器を部屋の隅に運んだ。そしてそこにあった天井まであるような巨大な金属でできた箱のような測定器の、電子レンジのような、でもそれよりははるかに大きい内部へとそれぞれの対象サンプルと並べて入れていった。そして中が見えるガラスの扉を閉め、いくつかのダイヤルなどを操作してスイッチを入れた。

 それから、表のような紙に、キュウリの容器の番号と自分の名前を書き込んだ。さらに、謝礼の領収書を言われるままに書いた。


「先ほども言いましたけど、結果が出るのは十八時間後ですから、皆さんはこれでお帰りになって結構です」


 そう言って篠原さんは俺たち一人ひとりに封筒に入った謝礼金を渡してくれた。チラシにあったように、きっちりと一万円だった。


 外に出た時はもう六時を過ぎていて、まだ日は沈んではいなかったけれど太陽はもう西の空に傾きかけていた。

 俺たちはとりあえず大学の門まで戻ってきた。


「もう遅いし、飯でも食ってかないか」


 インテリタイプの池田が提案する。皆、賛成だった。だが、チャコだけは済まなさそうに言った。


「ごめんなさい。うち帰ったら夕食できてるし」


「朝倉さんは自宅通学だもんな」


 池田が言うので、俺が補足しておいた。


「それもかなり遠いんだよ」


「うん、みんなごめんね」


 これで、食事は男だけで行くことになった。何度もお辞儀をしながら、正門の中にあるバス停にチャコは向かって行った。

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