6話
犯人が【王国兵団】によって討伐されたことは次の日には国中に知れ渡っていた。
犯人は殺されても当然だという声が大きく、【王国兵団】の評価は更に高くなっていたのだった。
それに対して俺はいつもの【不要な見張り】にへと逆戻り。オルキスが死んだ日から、キアカもイタリカも俺の場所に姿を見せることはなかった。
「あら、最近は森に行かないの? あ、ごめんなさい。やる気出して犯人捜ししたのに、役にすら立たなかったから何もする気は起きないわよね」
「……別に。もともと僕は誘われて行っていただけだよ」
「そう言うことにしといて上げる」
ベルは相も変わらず眠る。
確かに初めて身近に感じた事件は――僕とは関係ない所で終わっていった。そして、キアカもイタリカもいない。
世界は自分とは関係なく回る。
そんなのは分かりきっていたことだ。
だから、見張りになったのに。
キアカに出会ってから楽しくて、なにか勘違いしていた。
『ソウ、ソウ!!』
目を瞑れば今もあの少年の声がはっきりと聞こえてくる。
生意気だと思っていた少年がここまで僕の心を動かすのか――。ならば、少しでも勘違いして楽しい日々を過ごせたことに礼を伝えよう。
本人に届かないことが残念だが。
『ありがとう』
『なにがありがとうだ。聞こえてるなら、頼む、助けてくれ……』
『って、キアカ!?』
俺が回想だと思っていた声は、キアカが俺を呼ぶ声だった。
念話で頭に響く声は、明らかに焦燥していた。
『どうした、何があったの!』
『俺、攫われて――。多分、ここは【竜の森】だとは思うんだけど、うっ! おい! 辞めろ、辞めてくれ!!』
その言葉と共に念話が切れたようだ。
何者かに攫われ、念話していることがバレたということか。そして暴力を振るわれた。
ならば、急がねばキアカの身が危ない。
竜の森にいると言っていた。
なら、助けに行かないと!!
|オルキスに続いてキアカまで失ってたまるか《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》――!
そこまで考えた所で――僕の頭に衝撃が走る。
高ぶっていた心が一気に冷めていくのが分かる。
心が冷たく痛む。
鼓動に合わせて引きちぎられるようだ。
「何もなかった日常が、ここまで一気に崩れるのか?」
知り合った人間が死に、もう一人が攫われる。
こんな偶然が世界にはあるのだろうか?
一度、疑問に思った僕の脳内には、この2週間で出会った表情が浮かんでは消えていく。
壁の上に話しかけるキアカ。
念話で呼び止められた3人の狩人。
そしてパーティーを組むようになったイタリカとオルキス。
オルキスを殺した男とローマンに兵士。
浮かんでいく表情は徐々に減っていき、最後に残ったのは4人の顔だった。
イタリカとオルキスと共にいた狩人の男。
森に行くようになった今なら分かる。
無装備で行く愚かさを。
そしてオルキスを殺した男とその男を殺した兵士。
「したくてしたんじゃない」「身体が勝手に動いた」
そう言った2人の表情はどこか近しいモノがあった。まるで、自分の意志とは反するモノに操られていたかのようだ。
「まさか――!」
僕は壁の上に設置されている念話鉱石を叩く。キアカがくれたモノよりも一回り大きい鉱石だ。これは【王国兵団】の待機所に通じているらしい。
だが、それを叩くのはこの5年間で初めてだった。
『はい、どうした? 【不要な見張り】が連絡なんて珍しい』
『あの、例えばなんですけど、ここ最近で狩人が行方不明になってるとかってありませんか?』
『そんなの珍しくないからなぁ。なんだ、敵襲じゃないなら連絡してくるな!』
『ですけど、友が危険なんです!!』
『はいはい。依頼ならちゃんと【ギルド】を通してくださいね~』
救いを求める声は【王国兵団】には届かなかった。
くそ。
これはキアカだけの問題じゃないのに――!
友達すら助けられない自分に苛立ち何度も壁を叩く。何もしてこなかった僕は、何も出来ることがなかった。無力にただ、壁に手を打ち付けるしかない。
くそ。
くそ。
何度拳を壁に叩きつけただろう。
最後に思い切り壁を殴ると、爆音とともに壁が揺れた。
ここにきて、僕の異能が覚醒した――というわけではなく、
「どうした、ソウちゃん? 連絡するなんて余程のことだよね?」
壁の上に巨大な人間が着地した衝撃だった。
壁の上に着地出来る人間なんて一人しかいない。
ローマンだった。
どうやら、先ほどの通信を聞いてここに来たようだ。最高のヒーローの登場に僕は顔を上げて言う。
「説明は後だ。取り敢えず、キアカを探したい。方法はある?」
「あることはあるんだけど時間が掛かっちゃうと思うんだ」
「それじゃあ、駄目だ。今すぐに見つけたいんだ」
僕はポケットから念話鉱石を取り出し握る。
何度念じても声は届かない。
時間が掛かってもローマンに任せた方がいいのか。そう考えた時、隣で眠っていたベルが起き上がった。
「もう、ピーチクパーチクうるさいわね! そんな巨体がいたら集中して寝れないじゃない!」
「ごめん。でも、今はそれどころじゃなくて」
「だからってうるさいのよ! いいから、それかして!」
ベルは引っ手繰るようにして念話鉱石を奪うと空に向かって放り投げた。
すると一直線に宙を進んでいく。
「これ辿れば出会えるわよ。はい、ここでの話はお終い! 私は寝て、あんたたちは消える、以上!!」
再び横になるベルに僕とローマンは呆然とする。
「なあ、あの子、何者なんだ?」
「いや、僕にもさっぱり」
ベルはまさか【異能】を使えるのか?
なら、なんでこんな仕事を?
いや、今は考えるのは後だ。まずは、キアカを助けに行かねばならない。
「よし、じゃあ、ソウちゃん。僕に掴まって! 全力で行くよ!!」
ローマンは両足に力を込めると、一息に跳躍を行う。【王家街】から壁まで軽々と飛べる筋力があれば――目的地まで辿り着くことは簡単だった。