14(完結)
そして、あたしは志望校に合格した。
わが親友、信那ちゃんも帝都大学の文科三類に合格した。
高校の春休みが始まった日、あたしたちの学年、卒業生たちの有志は学校に集まった。
もう既に進学先、就職先に行っている者もいるし、来たくない者もいるから強制ではない。でも、我が学年は他の学年より多くの者が集まったようだ。
先生たちと話し込んでいる者も多い。一際多い卒業生たちに囲まれているのは上泉先生だ。やっぱり、慕われていたんだな……改めてそう思った。
しかし、それより格段に多いのは「受験が終わるまで遠慮していたが、実は……好きだった」だ。
学校中に恋の花が咲き乱れておる。うむ。いいのお。まあ、あたしについちゃ、筋金入りのオタクに加え、翔太を追いかけて北海道に行くことが知れ渡っているから、誰も声をかけてこん。まあ、いいんだけどさ。声かけられても断るだけだし。でも、ちょっとは寂しい。
しかし、ふと思いついたことがある。信那ちゃんはどうなのだろう。
銀縁眼鏡の才女。あたし以上の筋金入りのオタクではあるのだが、実は結構可愛い。
身長は155cm。165cmのあたしより10cmも小さいが、それがいいというのもいる。
眼鏡を取ると目鼻立ちが整っている上に、目はパッチリしている。栗色でショートボブの髪も可愛らしい。
要はモテる要素は存分にあるのだ。それが実効性を持たないのは、ひとえに彼女が完璧超人過ぎるからだろう。
だけど…… 信那ちゃんの方から好きになれば?
あたしは聞いてみた。
「信那ちゃんは好きな人とかいないの?」
答えはすぐに返って来た。
「あれを超える魅力を感じさせてくれる人がいたら、私の方から告ると思う」
信那ちゃんが指差した先には、卒業生たちに囲まれている上泉先生がいた。
◇◇◇
旅立ちの日は来た。
あたしは信那ちゃんを帝都大学の女子寮に送ったところでお別れと考えていたんだ。
でも、信那ちゃんはあたしを羽田空港の搭乗口まで見送りたいと言ってくれた。あたしはその言葉に甘えることにした。
羽田空港の搭乗口。あたしは翔太のスマホを鳴らした。
翔太が新千歳空港で出迎えてくれることになっているから、予定どおりの飛行機に搭乗できそうだという連絡だ。
翔太は「リムジンかベンツかポルシェで出迎えたいところだが、まだまだ安月給なので軽自動車だ。ごめん」と言って来たが、あたしは「仮にもあたしの彼氏なら、一生、あたしのことは軽自動車で出迎えろ」と伝えた。
翔太は大爆笑だ。
信那ちゃんが代わってくれと言って来た。そして、彼女はこう言ってくれた。
「わが友よ。私の大事な親友を託せるのは君しかおらん。任したぞっ!」
「任されたっ!!」
翔太のでかい声はスピーカーを通じて、空港中に響き渡った。うーん。恥ずかしい。
新千歳空港に降り立った時、あたしを一番最初に出迎えてくれたのは、突如吹いた風の中の煌めく雪の結晶だった。
普通に考えてあり得ないことだが、あたしには不思議と故郷の雪の結晶が自分と一緒に北海道に来たと思えてならなかった。
そして、二番目の出迎えは……
「おおーいっ!」
翔太の声だった。
おしまい
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「私の名前は北関明子。この作品の主人公北関彰子のクールビューティな母にして、市内の北関病院の副院長兼整形外科長。息子が一人に娘が二人。え? 齢? 聞くんじゃねぇ! あ、いえいえ、これでもやんちゃな次女には『可愛い』とか『乙女か?』とか言われてますのよ。おほほほ」
「で? なんでしたっけ? 赤神のその後? もう、あいつとは関わり合いになりたくもないんだけど、話は入ってきちゃうのよねー」
「転勤? しましたよ。県内随一のスポーツ名門校にね。もちろんボクシング部もある。知らない人から見ればご栄転ね。え? 何それ汚い? まあ、話は最後まで聞いて」
「何しろ赤神が年中『俺がもっとボクシング部の強い学校に行けば、凄い成果を挙げてやる』って豪語してたからね。校長先生も願いを叶えてやったって訳よ。ぷくくく」
「凄いよー。U-15ジュニアボクシング大会で活躍した子ばっかのボクシング部だからねー。そこの顧問になったんだよ。あははは」
「そこでね、ぷっくく。例によって赤神の必殺技が炸裂したわけよ。そう『俺はインターハイで優勝したんだ』。ぎゃーっはっは」
「ぎゃははは。尊敬なんかされる訳ないでしょうがっ! 将来の有望な高校生ボクサーの集まりよ。あっという間に口だけ番長と見抜かれて、全員に相手にされなくなるまで一か月かからなかったって」
「え? 顧問がそれで大丈夫かって? そこは校長先生も考えてたね。副顧問に本当にオリンピックの日本代表にあと一歩まで行った若い先生つけて。それに名門校だからね。優秀なOBのコーチもいるから大丈夫なんだって」
「すっかり赤神は部活にも顔を出さなくなって、顧問も下りて、気の抜けた状態だそうだわ。え? これからどうなるかって? 知らないよ。私は整形外科医でカウンセラーじゃないんだから。まあ、本人がちゃんと自分と向き合って、自分のことを知らない人に見栄を張るのをやめない限り、救われる日は来ないだろうね」
「彰子? いやもう、いわゆる凄い『リア充』みたいだよ。信那ちゃんが言うんだから間違いないよね。まあ、医者の卵なんだし、避妊はちゃんと…… おっと、口が滑った。今のは聞かなかったことにして」
「信那ちゃん? うん。何でも大学で気になる人が出来たみたいなんだわ。気になるよね~。上泉先生を超える魅力がある人って、どんな人なんだか。で、彰子と翔太君に聞いてみたんだよ。どんな人かって。そしたらさ、信那ちゃんから『恥ずかしいから言わないで』って言われてるからって言って教えてくれないんだよ。友情の固さには感心するけど、余計気になるじゃん。ああもう、学会で帝都大学行った時に信那ちゃんつかまえて、直に聞こうかなあ。あっ、もう診察の時間だわ。また会いに来てね」
©秋の桜子様
お疲れ様でした。
ちょっとおかしな少女北関彰子のおかしな現実世界恋愛の物語はこれでおしまいです。
最後まで読んでいただいた方には厚くお礼申し上げます。




