モンスターだらけの世界になっちゃったのでストロングゼロでも飲みながらまったり生きます
貧乏学生の俺はバイトからの帰り、相棒のハーレーをドルンドルン唸らせながら走行中、誤って動物を轢いてしまった!
今月も金欠だなぁ~とか、そういやガソリンも入れとかないとな~とかふわふわ考えていたらこれですよ!
「おわっ!? 犬!?」
いや、それにしては妙に大きい。2メートルくらいあるし何より立派な角がついていた。
「赤い雄牛?」
ピロリン!
軽快な音がなって動物の死体が光となって消滅した。
“モンスタ・ハンタ・オンラインの世界へようこそ。あなたはチュートリアルをクリアしました”
謎の音声が俺の頭の中で鳴り響いた。ってか、そのネーミング、ギリギリ過ぎるだろ! ほぼパクリだよ!!
“通行不能だったルートが全て解放されました。冒険者ギルドで依頼を受けることができます。ショップが解禁されました。ステータス強化が解禁されました。スキルスロットが解禁されました。ジョブが解禁されました。武器カスタムが解禁されました。全ステータスがレベル2に上がりました。ストロングゼロ・ナビが解禁されました”
謎のガイド音声が、一気に捲し立てた。ちょっとちょっと、待ってくれよ。意味がわからない。今日はバイクに乗るから当然酒は飲んでいない。シラフだ。酔って頭が変になったわけではない。ならこれは夢か? 運転しながら眠っちまったのか、俺は。
訳がわからないまま帰宅しハーレーの車体を確認するがあれだけ大型の動物とぶつかった割には傷ひとつついていない。
「あっれぇ~? おかしいな、無傷だなんて」
そうか、やはりこれは夢だ。疲れてるんだな、俺。
よし、さっさと寝よう。風呂に入ってさっぱりしてから布団に潜り込んだら
“ステータス及び状態異常が全回復しました”
という音声が聞こえた気がするが無視する。夢だ夢だ。明日目が覚めたら何事もなかったかのようにバイトして、その翌日もバイトして……あぁ~就職してえなぁ。なんて思いながら眠りについた。
翌朝
“ジョブを選択しますか?”
の音声で飛び起きた。
「……は?」
ジョブ? ていうかこの音声、一体何?
“私はナビゲーターのストロングゼロです”
あ、返事が来た。
「あー、どうなってんだよもう! 俺の頭はおかしくなってしまったのか!? いや、夢だ、まだ夢を見ているに違いない!」
“ところがどっこい夢じゃありません。現実、これは現実です。カーテンを開けますか?”
「え? カーテン? あぁ、そうだな、開けてくれよ」
投げやりに応える俺。しゃーっとカーテンが勝手に全開になった。窓から見える景色は俺が予想した通りいつもの、日常の……
GYOEEEE!!
BOGYAAA!!
OEEEEEE!!
巨大な翼竜が空を飛んでいた。火球を吐き出してビルを爆発している。
アスファルトを砕いて謎の植物が至るところに伸びている。
緑色の体をした醜い巨人が……あ、あれゴブリンか!
どうやら俺の住む世界はマジでどうにかなってしまったらしい。いつの間にかMONSTERが溢れる世界になったみたいだ。窓一枚隔てた先にあるあまりにも非日常な光景に開いた口が塞がらない。
“ジョブを選択しますか?”
「いや、そもそもジョブって何だよ?」
“昨夜、マスターは私に「あぁ~、就職してえなぁ」とおっしゃいました”
あ、だからジョブ選択ね。なるほど、納得。しゃあねぇ、とりあえず今選べるジョブを確認しておくか。
「オッケーストロングゼロ、ジョブ一覧をオープンして」
“こちらが現在選択可能なジョブ一覧です。ジョブセットしますか?”
ピロリン!
例の軽快な音ともに俺の脳内にジョブのビジュアルイメージと名称が並んだ。
“冴羽獠。デューク東郷。空条承太郎。ケンシロウ。ボボボーボ・ボーボボ”
凄い!雄のにおい!おかしくなりそう!
けどボーボボだけ毛色が違いすぎるだろ! 毛だけに、ってやかましいわ!
ジョブってそういう奴なのね。てっきり勇者とか遊び人とかかと思ってたよ。
“各ジョブについて詳しい解説をしますか?”
「いや、遠慮しとくよ。チクショウ、まぁとりあえずどれを選んでもそれなりには強そうだから良しとするか」
“このモンスターが溢れて徐々に奇妙になってくる世界でどのジョブを選択しますか?”
ナビが露骨過ぎる。
「あーもう、空条承太郎で」
ピロリン!
“ジョブセットされました。ショップに新商品が入荷しました。固有スキル【スタンド使い】がセットされました”
なんか色々起こったみたい。そっか、ジョブによって固有スキルが違ったり、使えるアイテムも違うんだね。ちょっと面白そうじゃん。
でもショップってどこにあるんだ? 近所のイ○ンが変化してたりするのだろうか。
「オッケーストロングゼロ、マップを開いて」
“わかりました、マスター”
マップを確認したところ、ショップは……あれ、今、俺がいる場所?
「おーい、タキジ! ショップで買い物して行くのかーい!?」
一階から母ちゃんの声がした。嘘だろ!?
一階へ降りてみると、リビングが改造されていて武器屋になっていた。アマゾネス風のやたらとセクシーな衣装を着た母ちゃんがカウンターに立っている。腹の贅肉がぷるんと揺れた。キャラクリ失敗だよ……母ちゃん。
「タキジ! 外は危険がいっぱいだよ! ここで武器や回復アイテムを買っていきな!」
俺は一応、その言葉を無視して外へ出ようとした。
“ショップで初期装備を購入しましょう”
脳内にメッセージが流れて、ドアが開かない。やはり、そうか。何か買って装備するまで出られないんだな。
「タキジ! 何にするんだい!?」
母ちゃん……NPCになっちまったのかよ……。
「うーむ、ジョブ空条承太郎だったらどんな武器がいいんだろう。ってか俺、今いくら持ってるんだ?」
“現在のタキジの所持金額は3万7千円です”
俺の手持ちと貯金額を合わせた金額だよ……。そこはリアルなのね。
「タキジ! 何にするんだい!?」
ピロリン!
目の前にショップの品物リストが展開した。えーっと、とりあえず……安い武器は……。
木刀、2万円。
段ボール製の胴当て、700円。
これくらいしか買えねぇ! クレイモア、2億円とかどうやって買えって言うんだよ!
“お金はモンスターを倒すとドロップされることがあります。強いモンスターを倒した方が高額の報酬やレアドロップが発生しやすくなります”
「ふむふむ……じゃあスライムとかをちまちま倒していくよりドラゴンあたりを倒した方がいいんだな」
よく見るとリストの下の方に無料のアイテムがあった。
学ラン、0円。
……そうか、これが今のジョブの特典か。とりあえずこれを装備してみるか。
ついでに回復アイテムも少しは買っておくか。
ポーション(小)、体力25%回復、4万円。
買えねぇ!
ストロングゼロ、酔いが回って陽気になる、300円。
これを買うしかねぇのか……。回復、しないよねこれ?
“状態異常:泥酔はかかると敏捷のステータスが低下する代わりに日頃のストレスが軽減されます”
「あの、HPやMPの回復は無いんでしょうか?」
“逆に減ります”
「タキジ! 回復アイテムは冒険者に必須だよ! 買って使ってみな!」
あーこれ、やらないと先へ進めないやつか。諦めてストロングゼロを一本購入して飲んでみる。
ピロリン!
“状態異常:泥酔、深度1になりました。敏捷のステータスが10%低下、モンスターエンカウント率30%上昇”
おいおい、エンカウント率上がっちゃったよ。
「さぁタキジ! 母ちゃんはいつでもここにいるからね! 何かあったら帰ってくるんだよ!」
アマゾネス風の母ちゃんが勇ましく送り出してくれた。
やれやれ、まさかいきなり現実世界がファンタジー(っていうかゲーム?)世界に変わってしまうとは。
ドアを開けるとそこかしこで街がメチャクチャに破壊されている。エンカウント率がどうとかいうレベルじゃないよな、これ。
「えっと、俺はどうしたらいいの?」
“この世界は最強のモンスター【キリン・ザ・ストロング】によって襲撃されています。世界を救いましょう”
ということらしい。じゃあそいつがラスボスってことか。
ドシンドシン。
地響きのような足音が聞こえてきた。緑色の巨人、ゴブリンが俺を発見して近付いてきた。
“ゴブリン、レベル30とエンカウントしました。戦闘に入りますか?”
「いきなりかよ! 逃げるよ、普通に!」
“敏捷のステータスが低下中につき、逃げられません”
強制戦闘かよ!
負けイベントじゃねぇだろうな!?
凶悪そうな面相のゴブリンが棍棒を振り上げて駆けてくる。意外と速いよアイツ!
「で、俺の固有スキルには一体どんな効果があるんだ? ええっと……【スタンド使い】だっけ?」
“MPを消費することでスタンドをいつでも召喚することが出来ます”
よし、さすがは空条承太郎のジョブ! だったらもっとゴブリンを接近させてから……。
ドルン! ドルルン!
その時!
「おっ、お前は……!」
俺はその耳に馴染んだ重低音に誘われるがまま背後を振り向く。
「俺のハーレー!」
ドルルーン!!
自動運転機能がついたのか!? しかもマッドマックスみたいに動物の骨や羽でデコレーションされている! クール!!
俺は、真っ直ぐ突っ込んできたハーレーに飛び乗るとそのままゴブリンを轢き殺そうとした!
ドル……ドルルン……プスッ。
しかし、俺の愛機ハーレーは気の抜けた音を上げて停まってしまった。そうそう、昨日は色々あったから給油するのをすっかり忘れていた。ガス欠だ。
「俺の愛機無しでどうやって倒せばいいんだよ!?」
さすがに生身で立ち向かうのは無謀……いや、待てよ。俺は何か忘れていないか。
「ジョブ【空条承太郎】の固有スキルは【スタンド使い】なんだよな?」
“はい”
「だったら、使えるんだよな? スタンドを!」
“使用可能です”
なるほど、俺は勘違いをしていたのかもしれない。何故、母ちゃんが俺に改造ハーレーを寄越したのか。この崩壊した世界で、こんな燃費の悪いマシンをどうやって扱えと言うのか。
ガソリンを、一体どこから俺は調達すればいいのかッッ!!
そう、俺の固有スキルは……【スタンド使い】だッッッ!!!
「出ろ、俺のガソリンスタンド!!!」
ドオォォン!!
かくしてスタンドは出現した。素早く給油を済ませ、発進!
ドルドルドルドルドルドルルン!!
ゴブリンは死んだ。
俺は地平線の彼方へとハーレーを飛ばす。天気も気分も晴れ、なんつって!
ストロングゼロが旨い。
「よっしゃあっ! モンスターがあふれる世界で好きに生きるぜ!」
こうして俺の冒険は始まった。
完ッッッ!!!!
凄ぇ!ストロングゼロ要素がほとんど無ぇ!
あと、終わり方が雑ぅ!