冬の足跡
気鬱になる灰色の空からゆっくりと大粒の白い結晶の塊が降り注ぐ。それはやがて地上を覆い尽くし、朝に舞う希望の太陽光を閉ざし続け、この世界で命あるもの全てを、まるで怯えるかのように小刻みに震えさせた。
空を仰ぎ、私はゆっくりと歩を進める。首が据わってから地を這い、やがては足で地を踏みしめることができていたはずの私は、覚束無い足取りになり、白に引きずり込まれないよう少し高く上げて雪を踏みつけた。
風の鼓動が激しさを増し、風という友達と一緒に戯れる氷は情け容赦なく私を覆い尽くしていく。手に持っていたはずの傘は意味を成さず、白く重く鬱々とした私の心のように壊れた。
猛り狂っていた吹雪は憐みのように小休止し、これから先の望みを垣間見せたが、再び遊び始めた氷と風は、それまで歩んできた私の足跡を容赦なく埋もれさせ、氷の世界と一体化させてしまった。
世界の耳障りな長い吐息は、遠い彼の許まで歩く私を眩いほどの白さで眩暈を起こさせた。草木やコンクリートでできた道も、叡智を集めた建物も、誰かのための帰るべき場所も、動物たちの住処さえも、逃げるように、屈服したように雪に身を委ね白くなった。
それでも私は歩を進める。倒れそうになっても、あなたに会うために。寒さに赤く悴み、感覚を失った私の手を、重ねたあなたの手で温めてもらうために。
だから私は朧気に頭の中で、ただそれだけを想いながら、雪を踏みつけて跡を残した。
でも、私が歩いてきた冬の足跡は降り積もる数え切れない雪が覆い被さり、消えた。