22話 もう一つの出会い
今回は祐希ちゃん回です〜
──南見 祐希──
現在、時はいくらか流れ、詩織がウチに泣きついてきた日の昼下がり。
授業も終わり、いくらかがやがやと騒がしくなった廊下でところどころ聞こえる固有名詞に苦笑しながら一人歩いていた。
毎日毎日早起きして弁当を作ってきている詩織とは違い、ウチは購買で買ったパンをもそもそと咀嚼する日々だ。
そんな弁当のために早起きする時間があるなら、惰眠を貪る時間に充てたいと考えるのはウチだけではない……だろうと思いたい。
「一年の真宮ってやつが……」
「真宮ってさ……」
「ああ、真宮? あれな……」
周囲の会話の合間合間に聞こえるそんな名前。
かつて、入学から一月弱程度でここまで話題になる人物がいただろうか。
(どこへ行けども真宮真宮って……詩織もとんでもないのに惚れちゃったもんだなぁ)
ま、その背中を押しちゃったりしたのはウチだったりするわけだけど。
でも、ここまで話題になるとは思わないじゃんか。
それに加えて、先週には公衆の目の前で女の子4人に囲まれて告白されたっていうことで余計にこの話題に火がついてしまったようだし。
「あ、祐希ちゃーん!」
「わー、彩恵ちゃん久しぶり~!」
そう声をかけてきたのはゆるくウェーブのかかった黒い長髪を揺らしてこちらへ小走りで近づいてくる女の子である。
この子の名前は彩恵。
……え? ほかに何かないのかって?
うーん、あとは女の子ってことくらい……正直、あんまりよく知らない。
こういった友達のような子はそこそこ多い。
ただ、最近はこういう子にも話しかけられることがやたら多くなった。
理由はお察しの通りである。
「祐希ちゃんってさ、真宮くんって知ってる?」
端的に言えば、そういうことだ。
真宮くんの噂の渦中にいる詩織の友達であるウチにそういう話を聞きに来る子は後を絶たない。
ただ、ウチも真宮くんのことをよく知らなければ会ったこともないので、なにも教えることはない。
……ま、知ってても教えないけど。
今ただでさえ強すぎるライバルの存在で自信なさげな笑顔を浮かべている詩織に、また新たなライバルとなりえる存在をちらつかせるのもよくないだろうから。
ウチは実に友達思いなのだ。
「あー、ごめんっ。よくそれ聞かれるんだけどさぁ、実は会ったことすらないんだよねぇ」
「えっそうなの意外ー。そっかぁ、ごめんね急に聞いちゃって!」
「ううーん大丈夫! 力になれなくてごめんね~」
そんな会話を交わし、互いに手を振りあって別れる。
思えば、こんなことはもう慣れてきた気さえする。
その当の本人である詩織はといえば、今も弁当を携えてその真宮くんとやらのところへ行っているのだろう。
この影の功労者たる南見 祐希ちゃんに感謝してほしいものね。
「あーしまった……まだ余ってるかな……」
ふとスマホで時間を確認してみれば、先ほどの会話で思ったより時間を食っていたらしい。
いつもならもう人でごった返し、売り物がほぼ無くなっているような時間だ。
いつもは確実に買えるように早めに教室を出ているのだが、今日は運悪く4限が少し昼の時間にもつれ込んでしまった。
時間配分はきっちりしてほしい。
そこが生命線の生徒もいるというのに。
「まだ間に合うかな~」
ひとまず、なかったらその時考えよう。
今から頭を悩ませるのは性に合わないというものだ。
窓から差し込む昼の日光に当てられ、半ば条件反射気味に出てきたあくびを噛み殺しつつ、ひとまずは購買へと向かうその足を早めることにした。
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「はは……ホント、ツイてないなぁ……」
手に持った一つの菓子パンをうっすらと涙の滲んだ瞳で眺める。
購買についたはいいものの、やはりもうほとんど売れ残りしかないような時間であり、なんとか買えたのはこの菓子パン一つだけという次第である。
いつもアテにしている詩織はもうアテにできない。
今日はおとなしくこのパンをちまちまと齧るしかないのか……。
「うう……なんか悲しいなぁ……」
「……どうしたんすか?」
……?
あ、ウチか。
あまりに自然に返事が返ってきたからちょっと放心してしまった。
……っていうか、誰?
顔を上げたウチの視界には、なぜか牛乳パックを右手にもち、そこからでたストローからちうちうと中身を吸っている、細身かつ長身の男の子がいた。
なぜこんなところで? とも思ったが、まあどこで飲もうとウチには関係ないかと思い直す。
それより、恐らく今のウチをみて声をかけてくれたのだろう。
なのに、ここで無視するのはよくない。
「あ、あー、いや、大丈夫……です? 気にしないでください」
そういえばこの人、先輩なのかな。
背が高いせいでイマイチ判別がつかない。
「……飯、それだけなんすか?」
その男の子は、そう言いながらゆったりとした動作であるものを指さした。
その指の指すほうを目でたどっていくと、「それ」の表すものはこのなけなしの菓子パンのことであるようだ。
つまり、それ一つで大丈夫なのか? ということらしい。
「あ、う、うーん……まぁ、今日だけだし、大丈夫じゃないかなあと……」
「……そすか」
「え……うん」
「「……」」
え、それだけ?
いや、別に何言ってほしいとか、してほしいとかはとくにないんだけどさ。
……え、でもそれだけ!?
「……えと、じゃあ、ウチはこれで……」
「んあ、ちょっと待ってください」
ずごごごっという無駄に豪快な音をかき鳴らして牛乳を飲み切ったその男の子は、ストローから口を離しながらウチの肩を軽い力ではあるが、掴んで引き留めてきた。
急に女の子の肩を掴むなんてどういう了見なの? と一瞬牙を剥きそうになったが、次の彼の行動でウチのその牙はポロリと抜け落ちてしまった。
「これ、良かったら」
「……え」
そう言って彼はポケットからおもむろにあるものを取り出し、ウチの手を取って半ば強制的にポンと乗せた。
その手に渡されたものをまじまじと見つめる。
正直、なんでこれを渡されたのかわからないことからくる、驚愕と困惑の意味合いが強い。
「それじゃ、俺呼ばれてるんで行きますね~」
「え……? あ、はい……」
一向に状況が呑み込めないウチをあっさりとその場に残して、その男の子はすたすたと歩いて行ってしまった。
しばらくその場に呆然と立ち尽くした後、ようやく我を取り戻した私は来る時よりもだいぶん遅い足取りで教室へと帰った。
ようやく自席に腰を落ち着けると、早速菓子パンの包装を開けて小さめに齧りつく。
相変わらず安っぽい食感と味だが、ウチはこれが嫌いじゃない。
そのパンを口の中でもぐもぐと咀嚼しながらも、ウチはさっきの男の子からもらったものを手の上でころころと転がし、物思いに耽っていた。
考えていたことは、「これ、どうしよう」ということだったわけだが、なぜこんなにそのことを思い悩んでいたか正直全くわからない。
食べたらいいのだが、なんとなくそういう気にもならないし、捨てればいいのだと言われたらそれも違う気がしてしまう。
結局、どうしたらいいのか分からず仕舞いなのだ。
そんな思いを巡らせていると、いつの間にか菓子パンは最後の一口までなくなっており、その一口分のかけらを見て思った。
後で考えよう、と。
考えることは、やっぱり苦手だ。
そんな自分の考えに満足し、パンのかけらをポイと口に放り込む。
そうして、ウチはそのレモン味の小さな飴玉を、スクールバッグのポケットにそっと忍ばせたのだった。
これで祐希ちゃんも本編に絡みやすく……!
見れば見るほど少女漫画だこれ!!!
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