21話 私の武器
前回から場面は変わり詩織ちゃんです
主要人物が多いせいで物語の進行がわりかしゆっくりになってしまうのはご容赦くださいまし
――花柳 詩織――
「わぁーん! どうしよーっ!」
「まったく……やれやれだねぇしおりんは」
私は先日の一連の騒動から数日、月曜日となり、ようやく顔を合わせた祐希に泣きついていた。なにをかと言えば、もちろんその騒動に関することである。
なにせ、あの一年のマドンナである、美紅ちゃんと結衣ちゃんという強力すぎるライバルに加えて、あんなにかわいらしい子までライバルとして急遽現れたのだ。制服からして、少し離れたところにある女子高の子だとはすぐに分かったが、まず第一として一体直哉くんはあんな子をどこで引っ掛けてきちゃったのか……。考えても無駄なことだとはわかっているが、ついつい恨み言が漏れてしまう。
もちろん、私も不退転を心に決めたところではあるが、如何せんあの中じゃ私が平凡すぎる。美紅ちゃんみたいに頭もよくないし、結衣ちゃんみたいに可愛くもないし、あの後藤ちゃん? みたいなクールさもない……。
弱気になっちゃいけないとはわかっているけど、劣等感がどうしても拭えないのもまた事実なのだ。
「でもさ、その真宮くんとやらは皆が好きって言ったんでしょ?」
「う、うん……」
「まぁ、それもどうかとは思うけど……この際それはおいておこっか。とりあえず、今のところは他の3人と同じところに立ててるんじゃないの?」
「うぅん……そうなのかなぁ」
確かに、考えようによっては皆まだ「好き」止まりであるといえる。そういう意味ではまだスタート地点に並んで立っているといえるのかもしれないが……私だけ一番外側のレーンに立っている気がする……。
「もう……そんなに弱気にならないの。詩織は笑ってる顔が一番かわいいんだから、そんなくっらーい不細工な顔してたら本当に置いていかれちゃうぞ?」
「そうはいってもさぁ……」
「じゃあわかった、しおりんのいいところをウチがいっぱい教えてあげる」
「えっ!? ちょ、ちょっとそれは恥ずかし……」
「まずはもちろん可愛いところでしょ! あとは、お世話好きだよね。そういうところは男子たちからウケがいいみたいよ。尽くしてくれる女の子は皆好きなんだね~。あ、それから~」
「ちょ、ちょ、ちょ!! ストップストップ! そ、それ以上言わないで!」
慌てて祐希の口を手でふさぐ。これ以上そんなことを言われたら羞恥心で私の細胞一つ一つが壊死してしまう。ていうか、私そんな風に見られてたの!? お世話好きって……なんとなくやりたくなる性分なだけなんだけど……。
「むぐぐ……。ま、とりあえず、詩織はそれくらいいいところがあるってことよ。どーせしおりんは知らないんだろうけど、真宮くんの噂が流れてから落ち込んでる男子、結構いるんだよ?」
「う、うそ……なにそれ知らないよ?」
「……まぁ、しおりんは鈍感だからね。それくらいがちょうどいいんじゃないかな」
「……ねえ、またからかってる?」
むすりと頬を膨らませてみせると、祐希はへらりと笑いながら私の頭にぽふぽふと手をのせてきた。急な動作に面食らいつつ、なんだろう? と思っていると、
「いやぁ~しおりんは可愛いなぁ~」
「もう! やっぱりからかってる!」
「ま、これがウチの生きがいだもんね~」
祐希はすぐこれだ。人のことをすぐからかっておもちゃにするのだ。これまでに散々恨み言を言ってきたが、相変わらずのこの態度でまともに相手にされたことがない。
「冗談はともかくとしてさ、そんなに自分を卑下してたら本当に負けちゃうよ?」
「うぐ……それはその……そうなんだけど」
「もっとほら、自分が一番だー! って主張してかないと」
「そ、そんなことできないよ……」
そんなの恥ずかしくてできるわけない。そりゃあ、それくらい自信もあれば結衣ちゃんみたいにもっとガツガツできるのかもしれないけど……うう、やっぱり私にはそんなの無理……。
「しおりんは恥ずかしがり屋だからね〜。仕方ないか」
「な、なんかごめん……」
相談して、挙句泣きついてる立場なのにあれも嫌これも嫌なんて……ああ、軽く自己嫌悪だ。
「ま、初めから出来るだなんて思ってないよ。それより、詩織にはもっと強力な武器があるでしょ?」
「ぶ、武器……?」
武器などと言えるものが果たしてあっただろうか……? 生憎思い当たるものがない。
「ああ……これはやっぱり天然物か。じゃあさしおりん、今真宮くんは詩織以外からお弁当作ってもらってるの?」
「え……ううん、私だけ……かな」
初めてお弁当を彼のもとに持って行ったあの日からずっと持って行っている。いつもお昼は祐希と同じで購買で買ったパンだけだとは聞いていたので、どうせなら、と思い作ることにしたのだが……。
「でも、それがどうかしたの?」
だからといってそれが武器になるかといわれたら……正直、結衣ちゃんや美紅ちゃんのような可愛さや可憐さと比べてしまうと、その程度霞んでしまうような気さえする。しかし、そんな私の思いとは裏腹に、祐希はあきれたように頭に手をやり、「はぁ……」と深くため息を吐いた。
「あのね、分かってないね、詩織」
「……なにがよ」
これ見よがしにやれやれといった仕草をする祐希に、思わずまたむっとしてしまう。
「……じゃあ例えばね、詩織がその真宮くんからなにかプレゼントされたとしよう。……どう思う?」
「どう思うって……」
「いいから」
そ、そんな急に言われてもなぁ……。うーん、直哉くんからなにかをプレゼントされたら、かぁ……。そ、そりゃあ嬉しいなぁ。なにもらえたとしても、直哉くんが私に渡したいと思ってくれたものだもんね……。
「う、嬉しい……かな」
「そうなの、嬉しいのよ」
「う……うん?」
いまいち祐希の言いたいことが伝わってこない。つまりどういうことなんだろう。そんな私の考えを察したように、祐希はぴしりと人差し指を立てて流暢に説明をしはじめた。
「いい? まず、好きな人に何かをもらうっていうのはとっても嬉しいことなの。それは究極的にいえば、何かをされるっていうこと自体が嬉しいの。相手が、自分のために何かをしようとしてくれるその気持ちがその人の気持ちを動かすってこと。詩織はこれまで、真宮くんにお弁当作ったり、練習に付き合ったりしてるでしょ?」
「してる……けど」
「その詩織の尽くしたいって気持ちは、ちゃんと真宮くんに届いてるの。届いてるからこそ、詩織も好きって言われたんだとウチは思うよ」
「つ、尽くしたいなんてそんな……」
「違うの?」
「やぁ……違くはないんだけど……」
「じゃ、そういうことじゃない」
うーん、そうなのかな。でも確かに、直哉くんに何かをしてもらえたら、そのこと自体が嬉しいかも。そういう意味では、合ってる……のかな?
「難しいね……」
ぽつりとそう呟くと、祐希はさっきまでの勢いがなぜか急に消え失せて、また深くため息を吐いてしまった。
「どうしたの?」
思わずそう尋ねる。ここまで落差のある変化を見せられてしまうと、聞くなというほうが無理な話だ。
「……いや、すごい大口叩いたけど、ウチ、彼氏とかできたことないなって……」
「……はは」
ごめん、祐希。私には、それに返す言葉がさっぱり見つからないよ……。
そうして唐突に立場逆転し、なんだか変な笑いを浮かべ始めた祐希を宥めるのに奔走する5分間を過ごすことになったのだった。……薄々知ってはいたけれど、祐希も彼氏とか欲しいんだろうなぁ。
泣き寝入りしていた時に強く背中を押してくれた恩もある。もし祐希に気になるという人が出てきた時は、せめて全力で応援してあげよう。そう心に誓ったのだった。
あ、でも、その気になる人が直哉君とかになったらどうしよう……!?
そんな不安も、心の中に少しだけ残ったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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最近は書く時間がそこそこ取れて嬉しいです
でも、書きたいものも多くて苦しいです
私も、誰かを感動させたりできる物語が書きたいものですね……そう思いながら漫画ドラマアニメを見て泣く日々です
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