19話 華短し恋せよ乙女達
数ヶ月ぶりの更新ですね(๑°ㅁ°๑)
まだ読んでくれている方がいるかは分かりませんが、更新もぽつぽつとしていくのでよろしくお願いします✧◝(*´꒳`*)◜✧˖
――真宮 直哉――
俺は今四人で廊下を歩いている。そう、四人でだ。なんて大所帯なのか。しかもこれが男女比1:3。非常に肩身が狭い、物理的にも、精神的にも。これが、俺が端っこに追いやられているとかならまだ気持ちは楽なんだがなぁ……
「直哉、どっか寄り道してかないか?」
「だめよ結衣、来週テストなんだから勉強しないとって言ってるでしょ」
「ああ……テストかぁ……あんまり考えたくない……」
結衣が唇を尖らせ、美紅が呆れ、詩織先輩が深刻な表情をしている。各々色々と思うところがあるようだ。
意外とこの三人は気が合うらしく、ずっとなにかを楽しそうに話し込んでいたりする。主に俺を挟んで。好きなものが同じだからなにか通ずるところでもあるのかな、と自分でも恥ずかしくなるようなことをつい考えてしまった。
とそんな時、向かいから歩きながら俺に声をかけてくる男がいた。
「直哉ー」
「ん、徹? 先帰ったんじゃなかったのか」
そう、わざわざ俺に声をかけてくる男なんて徹くらいしかいない。徹は授業が終了したと同時に、俺のところに来る結衣と美紅、あとは少し遅れて詩織先輩にあっという間に囲われた俺に苦笑いしながら、先にとっとと帰っていったはずなのだが、一体どうしたのだろうか。
「いや、帰ってたんだけどな、正門のとこで呼び止められちゃってさ」
「は? 誰に?」
俺はそれを聞いて、一瞬宗教の勧誘かと思った。あの辺では下校する生徒を狙って宗教の勧誘をしてくるおばさま方がたまーにいるのだ。高校生でそんなのに引っかかるのがいるのかと些か疑問ではあるのだが。
ただ、宗教だったとしても戻ってくる理由にはならない。そんな疑問から俺は思わず怪訝な態度を露わにしてしまった。そんな俺の態度もさして気にした様子もなく、「うーん」と顎に手を当てながら唸る徹。
「誰かはよくわかんねえんだけどさ、直哉のこと探してたぞ」
「は? 俺を?」
ふと、俺は視線を感じた。数で言えば三つ。しかも結構近い。な、なんでそんな目で俺を見るんだ……
「……どんな、人だった」
どんな人かを聞けばあったことがあるかないかくらい分かるだろう。すると徹はその人のことを思い出しているのか、また唸りながら目を瞑った。
「んー、そうだなぁ……髪が短くて……」
髪が短い……男でも女でもあるな……
「身長は瑞樹さんより少し小さめで……」
……ま、まぁ……そういう男も……
「あー、あとけっこう可愛い……」
……うん、やっぱり……
「女の子だったな」
ですよね。
途端に俺に突き刺さる三人のジト目。そんな目をされたって、俺にはどうしようもないのだから許してほしい。
ただまぁ……なんとなく予想はつく。だって、勘違いしないように、なんて俺が思っていたのは、結衣と美紅と詩織先輩の他にはあと一人しかいないのだから。
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現在俺は、結衣と美紅と詩織先輩と共に正門に向かっている。本当は俺一人で行きたかったのだが、三人とも徹の「女の子だった」の一言ですっかり目の色が変わり、付いていくという意思を曲げないのはもはや聞くまでもなく分かりきっていたからだ。
憂鬱からつい「はぁ」とため息が出る。三人にここまで想われているのは嬉しいのやら、なんやら、なんとも言えない複雑な思いが胸中を支配していた。
「あ、あの子じゃない……?」
詩織先輩がおずおずといった様子で、ある方向を指差しながら声を上げた。その指を指した方向を見れば、ここらでは見慣れない制服を身に纏った、ショートカットの女の子がカバンを両手で前に持ちながらプラプラと振っていた。
うん、やっぱ後藤さんだわ。なんで? とかもうない。もうここまできたら流石に分かる。
「後藤さん」
俺はとりあえず声をかけてみる。至って普通に。
「あっ……真宮くんっ! ごめんね急に…………って」
ああ、俺の背後や脇を見た後藤さんの目からハイライトが消えていく。神様、俺が一体なにをしたって言うんです?
「だ、誰……? その人達……」
後藤さんの唇が震えている。なんなら少し涙目になっている。俺はそんな後藤さんが直視できず、ぼりぼりと頭をかいた。
「ん、と……この人達はですね……」
なんと言ったものか。俺が困りながら口をもごもごとしていると、不意に結衣が俺の一歩前に出た。
「私達は、『今は』彼のただの友達。そう言うあんたは?」
腕組みをしながら高圧的に見下しつつ後藤さんにそんなことを言う結衣。後藤さんがビクッと身体を硬直させているところを見ると、多分怯えているんだろう。流石に止めに入るか、と思ったところで、意外にも次に口を開いたのは後藤さんの方だった。
「わ、私……は……真宮くんの、ただの、バイト仲間です……」
後藤さんは俯いてぐっと拳を握りしめながら静かに呟く。声は震え、泣いているのかとすら思うような声に俺の心臓は早鐘を打ち始める。
しかし、そんな心配は必要なかった。
「……でも、もう分かりました」
キッと顔を上げた後藤さんは、泣いてはいなかった。そこに見えたものは、固く揺るがぬ決意。
「『今は』……ただのバイト仲間です。それはよく分かっています。そして、その立場に浮かれている場合じゃないってことも、よく分かりました」
後藤さんがずんずんとこちらへ歩いてくる。結衣がそれに驚きながら、高圧的な態度を解いて道を開ける。もうその瞳には結衣も美紅も詩織先輩も映ってはおらず、光の戻った、潤んだ彼女の瞳には、俺だけが映っていた。
「真宮くん、好きです。付き合ってください」
「…………へ?」
いや、待て。そんな展開なのか? えっ、嘘、だろ?
俺は意表を突かれ、完全に固まった。後藤さんの真っ直ぐな視線に射抜かれて全く動けない。
しかし、俺の中では、もう気持ちは決まっていた。
「…………ごめんなさい」
後藤さん以外の三人が息を飲んだ音が聞こえた。後藤さんは変わらず、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「それは……私が嫌いだから? ……それとも」
そこで後藤さんは一度言葉を切り、結衣、美紅、詩織先輩見回してから、俺をまた見つめて言った。
「もう、誰かが好き……だから?」
後藤さんが嫌い? それはありえない。じゃあ、誰かがもう好きなのか? 俺は、ゆっくりと首を横に振る。
「…………俺は今から、最低なことを言います」
一呼吸置いて、俺は静かに告げる。この気持ちを吐露することでどうなるのか。軽蔑されるか、それとも呆れられるか。どちらにしても辛いものがあるが、俺は彼女達を騙すようなことは、どうあってもしたくなかった。だから俺はもう、覚悟を決めた。
四人が固唾を飲んで俺の次の言葉を待っている。手にじんわりとかいた冷たくてじっとりとした汗が俺の緊張を告げる。呼吸が浅くなり、頭がぼーっとする。
でも、言わなくちゃいけない。四人がちゃんと自分の気持ちに向き合って、俺に向き合ったように。俺も自分の気持ちに向き合って、ちゃんと彼女達に伝えなくちゃいけない。
「…………俺は、四人とも、好きなんですよ」
答えは、簡単。俺にとって四人とも大切な存在、理由はたったそれだけ。だから一人なんて選べないし、だからといって四人となんて都合のいい話はない。
「だから、俺は四人の誰とも、付き合えない」
それだけだった。
俺は瞑目する。その言葉に対しての彼女達の反応を見たくないっていう自己防衛だ。我ながらあさましいとは思う。思うが、こればっかりは仕方ない。
さて、くるのは罵倒か、それとも呆れか。
「……なんだ、嫌われてはなかったんだね」
「……はは、でも、直哉らしいかも」
「もう、皆好きなんて……直哉くんは欲張りね」
「……ほんとだよ。まあでも……確かに直哉くんらしいかも。直哉くん優しいから、誰か一人って言えなそう」
俺は思わず目を見開いた。そこにあったのは軽蔑の目線でも、憤怒の表情でもなく、安堵と諦念の滲んだような、でもあたたかくて優しい笑顔だった。
「……は? いや、俺の言った意味、わかってるか?」
動揺そのままに、疑問をぶつける。すると、結衣は顎に手をやり、くいと首を傾げながら言った。
「んー、わかってるよ? つまり、私のこと、好きってことだよね?」
「はっ? え、いや、それはそうなんだが……」
否定しようにも自分の言ったことの手前否定できず困惑していると、その横にいた美紅が小さく頬を膨らませて抗議し始めた。
「ちょっと結衣? 抜け駆けはずるいわよ」
それに、「そうだそうだ」と同調するように声を上げる詩織。
「結衣ちゃんだけじゃないでしょ! わ、私だって……え、わ、私も入ってるよね? 直哉くん!?」
一人でわたわたして涙目になっている詩織に、思わず笑ってしまう。
「そ、そうですね。先輩のことも……その、まあ、はい」
「なんでちょっと歯切れ悪いの? ど、どうして?」
流石に罪悪感があるから、もう一度同じことを言いにくい……というのは、半分建前だ。単純にこの中でそんなことを言えるほど、俺の肝は据わってない。ついでに、神経もそこまで図太くない。
「気にしてるんだよね、真宮くん?」
少ししょぼくれた花柳先輩に、いかにも「私はわかっていますよ」と言わんばかりににこりと微笑みながらそんなことをいう後藤さんに、ひくりと頬が引きつる。
当然と言えば当然か、迫力のない泣き目をいからせた詩織先輩と、いつものクールな眼差しの後藤さんとの間でバチリと火花が散った。比喩表現なんかじゃなく、絶対に散っている。バチバチという幻聴すら聞こえるようだ。
止める手段が見当たらず、呆然とその様子を眺めていると、俺の横にいた美紅がふうと小さく息を吐き、パンパンと手を二回叩きつつ言った。
「そこまで。全員が直哉くんを諦めるつもりがないのは、私もよく分かったわ。でも当然、私もそんなつもりはさらさらない」
そして次は俺を見上げ、言った。
「と、いうことよ。直哉くん」
「えぇと……?」
イマイチ言わんとしていることがわからずそんな声を漏らすと、美紅はしなやかな指でその黒い髪をくるりと弄んだ後、また口を開いた。
「私達は、直哉くんが好き。でも、直哉くんは四人全員とは付き合えない。……そうしたら、もうどうしたらいいか、わかるわよね?」
その言葉の意味は、深く考えなくてもわかる。つまり、誰か一人……ということだろう。
「……そう、だな」
その返事を聞いた美紅はくすりと笑うと、冗談めかした様子で言った。
「ふふ、私を選んでくれてもいいのよ?」
その言葉にいち早く反応したのは結衣だった。
「ちょ、ちょっと美紅! あたしには抜け駆け禁止って言っておいてそれはないよ!」
結衣の猛抗議を、くすくすと笑いながらひらひらと躱す美紅。「冗談よ」なんて言ってはいるが、あれは決して冗談なんかではなかった。
そこから目を移して詩織先輩と後藤さんを見やれば、二人はいがみ合うのをやめて、じっとこちらを見ていた。
ぱちりと目が合うと、二人ともどこか緊張したように口を引き結んだ。二人とも、今の美紅の言葉を意識しているのだろう。俺が誰を選ぶのか、それしか頭にないのがよくわかる。
「……はぁ」
なんとなく空を仰ぎ、重くため息をつきながら頬をかく。もし仮に過去に戻れるなら、モテたいだなんて戯言を言っていたあの頃の自分をぶん殴ってやりたい。
「……それで、直哉くん。どうするの?」
ひょこりと美紅が俺の顔を覗く。その薄い笑顔は、なんとなく、この後の俺の返答を分かっているような気すらした。
「……今は、決められない。だから──」
その後の言葉は、美紅の指にぴとりと堰き止められた。そんな急な行動にむぐっと言葉が詰まる。
「ストップ。……いいわ、その先は言わなくて」
そう言いながら手をそのまま自分の口元にやり、いつものようにくすりと笑う。途中で言葉を遮られた俺は、何も言えずその様子を呆然と見ていた。……いや、見惚れていた。
「でも、これから大変ね? 直哉くん?」
そしてその、悪戯っぽい笑みから紡がれた言葉の意味を、今の俺は、理解できなかった。
コロナ大変ですね
私もてんてこまいです( ˘ω˘ )
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