英雄のジレンマ
ガバメントマスターは一年に渡る激闘の末、世界統一委員会を壊滅させ、ボスを追い詰めた。防衛省フォームでロケットランチャーの銃口をボスに向ける。
「とうとう追い詰めたぞ。何か言い残すことはあるか?」
「……貴様は、なぜ委員会を滅ぼした?」
八十歳のボスは、掠れた声で問いかけた。
「地球の平和を守るためだ」
ボスは、ふっ、と嗤った。
「この世は最初から平和だったのか? 平和とは、守るものではない。創り出すものだ。攻めていかなければならないのだ」
「世界統一委員会のやり方が合っていたというのか? お前たちのテロで、いったいどれだけの人の命が、失われたと思ってるんだ!」
ボスのアジトがあった六本木ヒルズは、今や瓦礫の山と化している。
「乱世の英雄は、みな殺人者だ」
「ふざけるな! お前らは、俺の兄まで……」
ガバメントマスター・本田基旗の兄は世界統一委員会によってテロリストに洗脳された。基旗は世界の平和のために、兄へ銃弾を撃ちこんだ。兄の目が覚めることは永遠になくなった。
「世界とは、必ず敵味方に分かれるものだ。敵がひとつだけなら、味方もひとつになる。その証拠に、今日は世界のどこかで、戦争が起きているかね?」
世界統一委員会の存在が世界に知れ渡ると、各国は対世界統一委員会で一致した。ガバメントマスターの活動も、世界中からの支援なしには続けられなかっただろう。
「……明日からは、また戦争が繰り返されるのだろうなあ」
ボスは空を見上げた。ボスの生まれ故郷である沖縄も、気象庁の予報通りなら、あと少しで綺麗な夕焼けが見えてくるはずだ。
「人殺しのない世の中にして、死にたかった」
ボスが言った。
「俺もそうだ。だから、人殺しのない世の中を実現させるために、俺はお前を殺す」
ロケットランチャーの引き金を引いた。最後の爆発が起きる。ボスと、その周りの瓦礫が吹き飛ばされる。ボスは何も叫ばなかった。恐らく、放っておいても長くなかっただろう。ボスの顔は絶望に満ちていた。首相官邸に帰還した基旗を、多くの人々が祝福して迎えた。