泣いちゃいけない
「お父さんの前で泣いちゃだめだよ。
泣きたいのは、泣いていいのは、お父さんだけだ。」
父が入院して初めて病院へ行くときに、主人が私に言った。
日頃の私の様子から、絶対に泣くなと釘を刺す言葉だった。
わかってる。
わかってるけど。
父が今どんな気持ちでいるだろうと思うと、泣かないで過ごす自信はなかった。
それでも、父の前で泣いてはいけない。
母も主人も、父が悪性リンパ腫だとわかってから、とても気丈に過ごしていた。
反対に私は父と一緒に弱くなってしまっていた。
父の気持ちを考えると涙がでてきて、泣いては主人を困らせていた。
後にわかったのだが、
「絶対に!死なない!死んでたまるか!」
と、父は固く思っていたそうで、
情けないことに、この時、一番弱くなっていたのは私だけだった。
ここで、
2.悪性リンパ腫の発生機序とはなんぞや
簡単に言うと、悪性リンパ腫にはどんな原因でなるの?ということです。
原因は多種多様であり、遺伝子変異、ウィルス、
この頃ではピロリ菌との関連もわかってきています。
そして、悪性リンパ腫は、免疫不全の方に多く見られるそうです。
つい最近、悪性リンパ腫を患った方のお話を伺うことができました。
その方は持病に、自己免疫性疾患であるリウマチをお持ちです。
自己免疫性疾患とは、自分の免疫システムが
自分の正常な細胞を攻撃してしまうことにより起こります。
これを抑えるのに、免疫抑制剤を服用します。
これによって、自己免疫システムの働きを抑え、
自己の正常細胞を攻撃するのを抑える、というわけです。
ただ、外から入ってきた細菌、ウィルスなどへの攻撃も弱まるため、
感染症にかかりやすくなると思います。
この方は、悪性リンパ腫を患った後、免疫抑制剤を服用していないそうです。
原因その1 遺伝子異常が何故起こるか
遺伝子というのは、DNAの中の遺伝情報を持っている部分で、
大まかに言うと、
その個体の機能なり特徴なり事細かなことを書いてある原本です。
もう少し厳密に言うと、
生きていくのに必要不可欠なタンパク質を合成するための設計図、です。
またまたおおざっぱに言うと、人間の体はタンパク質でできています。
タンパク質と一口に言っても、人体は膨大な種類なタンパク質で構成されております。
その膨大な種類の一つ一つにおいて、
「これをこうやってこんな風に作るのよ。」
と、逐一ちまちまこまごまと書いてあるわけです。
DNAの中には、この遺伝情報をもった遺伝子部分と、
持ってないジャンクDNAあるいはサテライトDNAと呼ばれる部分があります。
このサテライトDNAはDNAの相当部分をしめており、
明確な役割というものはわかっていないようですが、
全くの役立たず、というわけではなく、
ちゃんと何かの役割を果たしているようです。
さてここで、
設計図は、複製型ポリメラーゼという職人さんが『転写』して、
メッセンジャーRNA(mRNA)というコピーを作り上げます。
職人さんは、前の設計図と違っていると、
「間違ってるよ!」
と直す事ができるそうですが、色々な書物や文献を読んだ結果、
全てを修復することはできないようです。
見逃す、ということでしょうかね?
それとも、勘違い、ですか。
その場合、書いてある通りの、
前とは違う設計図のコピー(メッセンジャーRNA)を作り上げ、
作り上げられたmRNA(メッセンジャーRNA)は、
監査を受けた後、タンパク質製造工場に送られ、
間違ったタンパク質が造られる、ということになります。
何もしなければ、設計図が修復されることはまずないので、
間違ったタンパク質は、どんどん製造されて、
その結果、体内の組織、機能に何かしらの異常が起こってくるわけです。
また、複製型ポリメラーゼさんは、設計図に損傷部分があると、
「なんだ?こりゃ?うーんうーん、わからん。こりゃだめだ。」
と、複製を止めてしまいます。そこへ、、
「どれどれ?見せてごらん。」
と、第二の職人、損傷乗り越え型DNAポリメラーゼ(TLSポリメラーゼ)さんがやってきて、設計図の損傷部分を
「こんな感じかしら。」
と修復します。後は、再び複製型ポリメラーゼさんが、
「おぅ!ありがとよっ!」
と引き継ぎ、転写を開始します。
転写し終わった後、TLSポリメラーゼさんが修復したところは、
適切に修復されます。
めでたしめでたし。
本当に「めでたしめでたし。」なんでしょうか。
もし、TLSポリメラーゼさんが、間違った修復をしていた場合、
転写後、適切に修復されるはずが、実は間違って修復してしまっていた場合、
間違った設計図のコピーができあがったことになります。
そして、間違ったタンパク質を作り始め・・・
最後の仕上げに。
DNA上に設計図はまとまって置いてあるのではなく、
あっちこっちに置いてあるので、
職人さんは、関係ない所もmRNAとして転写します。
そこで、できあがったmRNAは監査を受け、
「まあ、タンパク質作るのに、ここはなくても大丈夫だろ。」
とか、
「タンパク質関係ないでしょう、ここは。」
などという所を除去することによって、完璧なコピーを作り上げます。
例を挙げると、
お買い物メモを書いたのはいいけれど、
いざ大型ショッピングセンターに行ってみたら、
メモ通りに置いてはなく、ばらばらで、
仕方なく、通路を端から端まで歩いて
必要な物をカゴに入れる、ということですかね。
除去された所は、全く無駄なものではなく、
それがあることによって、色々な過程に関わっているそうです。
この行程にもなんらかの異常が出てしまった場合、
遺伝病を発症することになるそうです。
DNAに傷のできる原因は、放射線、紫外線、薬品などがあります。
そして、単に息をするだけでも、傷はできるそうです。
父がなぜ悪性リンパ腫を患うことになったのかは不明だ。
持病に喘息があったので、それも関係しているのかもしれない。
当時は退職していたが、長い間、自家用運転手をしていた。
朝6時には出て行き、帰りも夜の8時、9時だったろうか。
勿論、夜中のときもあった。
土日は乗せていたお偉いさんがゴルフだといって、
朝4時や5時という時間に出て行く。
「力仕事とかじゃないから、体にはきつくはなかったけど、
52日休みが無かったことがあるよ。」
と、父は言った。
そのストレスや、疲労、
スモッグなどの化学物質をずっと吸っていたせいかもしれない。
一つだけの原因ではないのだろう。
「お父さんの前で泣いちゃだめだよ。
泣きたいのは、泣いていいのは、お父さんだけだ。」
心に染みた言葉だった。