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分断される鉛色

 今日、「ゴミ」と言われた。


 会議の席で、俺がこいつに言われたことをやってこなかったから。


 役立たず。無責任。ゴミ。


 なんでここまで言われなきゃならないんだ、こんな奴に。先輩ならともかく、同期なのに。一緒に組んでやってる仲間なのに。

 俺はこいつが嫌いだ。いつでも偉そうに俺に命令しやがる。自分の事を頭がいいと思ってやがるんだ。外部生だからって。


 どうせ俺は、中学・高校からエスカレーター式の内部だよ。中学受験を勝ち抜いて名門私立大付属中に入ったのに、やっと大学にあがったとたんに、「馬鹿組」認定だ。滑り止め私立として偏差値だけはそこそこ高い一般入試を受けて、国立大落ちて来やがった奴ら「外部生」に比べて、持ち上がり「内部生」は――、と教授連中からして差別し馬鹿にしやがる。受験地獄は可哀想。今頑張れば後から楽だから。親に騙されてここまで来たけど、門をくぐってみれば地獄の最下層だ。



 ***



 なんでここまで使えないのか、ほんと、判らない。


 こいつと組むくらいなら、全て一人でやった方がマシだ。そう思ってやってきたけれど、もう抱えきれない。手いっぱいだ。

 でも、こいつに金を扱わせることと、外部との連携や手続き関係だけはやらせるわけにはいかない。怖すぎる。


 こいつがサークル旅行の手続きをしたときは、最低だった。移動ルートは非効率なバス。それも、座席予約は乗り換え地点まで。そこから先を慌てて予約し直させたけれど、全員分の座席数すら確保できていなかった。僕がその場で最短ルートをスマホで調べて鉄道に変更し、ことなきを得た。ルート変更のキャンセル料、一人頭、数千円。


 何をやらせても駄目な奴。そのシワ寄せが全部僕にかかってくる。単に同期というだけで。なんでこんなデキない奴が、役員になんて立候補したんだ? もうそこからして謎だ。



***



「こんなことも分からないのですかぁ?」


 こいつは幼稚園児にでも話し掛けるようなふざけた言い方で、俺をせせら笑った。皆の前で恥をかかされ、頭が真っ白になった。気がついたら、部室を飛び出していた。

 

 先輩が俺を追い掛けて来てくれた。一生懸命、慰めてくれている。先輩は優しい。あいつと違って。



***



 あいつが飛び出して行ってからも、会議室は静まり返ったままだった。誰もが困惑したまま、互いの顔を見合わせるだけで何も言わない。そんな中で、僕ひとりが立ち上げたパソコンに向かっている。やらなきゃいけないこと、まだまだたくさんあるだろ? ぼやぼやしてる時間なんてないだろ?


 役立たずのあいつの開けた穴を、埋めなきゃならないのに――。



***



「なんだ、無能が帰ってきた」


 部室に戻るなり、あいつが言った。


 気がつくと、俺はあいつに殴りかかっていた。あいつも俺に殴り返してきた。先輩がすぐにとめに入ったから、あまり殴れなかった。


 引き離されるなり、あいつは怒涛のように喋り始めた。このイベント企画が始まってから、俺が何の仕事もしていないだけでなく、いかに皆の足をひっぱり、邪魔をしてきたかを、いつ息継ぎしているんだ、ってレベルですさまじい勢いでわめき続ける。俺は言葉に押し流された。何も言い返せなかった。


 皆の視線が痛い。寒い。わけが分からない。泣きたかった。


 先輩が肩を叩いて、席につくよう、促してくれた。




 会議が終わってから、あいつとは仲直りした。ちゃんと俺の役割をやってくる、と約束した。



***



 自分でもわけがわからないほど、喋っていた。言葉が堰を切って溢れでていた。あいつのこれまでの過失の数々、理詰めにひとつ、ひとつあげつらっていた。あまりの勢いに、あいつは言い返す隙さえみつけられないようだった。周囲の冷たい視線に、あいつも渋々反省しているようすをみせた。


 だけど、反省したわけじゃない。



 翌日、頼んだイベントのリクリエーション内容を考える企画、こいつがもってきた案は、やはり、とんでもなかったのだ。


 屋外でのリクリエーションなんて面倒くさい。紙とえんぴつさえあればできる、室内ゲームを考えてきた。


 自慢げに笑う、こいつ。


 この屋外企画のために、僕が運動場を抑え、日程を調節し、備品を準備してきた苦労を何だと思っているんだ?


 

 言葉がまるで通じない。どこまでも平行線だ――。






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