雪柳
春休みも残すところあとわずか。お彼岸で帰っていた親戚連中がそれぞれの家に戻る日がきた。玄関先に荷物を置いて、のんびり雑談してたと思ったら――。
出立の時間になって、一番下の従姉妹の姿が見つからないらしい。大人たちは大慌てだ。大声で名前を叫んで探し回っている。広い屋敷に広い庭、どこもかしこも大騒ぎ。
知ってるのに、あの子の隠れる場所くらい。訊けば教えてあげるのに。
僕はこっそり庭におりた。
ほら、壁に沿った庭の外れ。幾重にも被さる雪柳の花の下。揺れる白波の間をぬって、重たげな枝をそっとよけると――。
白い木綿のワンピースが丸くなってる。見つけてもらうのを待ちくたびれて、眠りかけてる。
呆れ顔の僕を寝ぼけ眼が見あげてる。彼女は口を尖らせて、顔をしかめて人差し指を立てている。
「しいっ! ずっといっしょにいてあげるからね」
「僕のため?」
僕は彼女のどんぐり眼をのぞきこむ。彼女はあひるのように口をつきだして大きくうなずく。
「なんで?」
頼んだ覚えなんてないんだけど。
「お嫁さんになってあげるって言ったでしょ」
嘘だろ! どうやら僕は売約済みらしい。
流れる白いベールを被った子に、永遠の愛を誓われた。
純白の雪柳の下で――。
観月さんの、「花言葉ものがたり」(自由参加コラボ作品)に参加させて頂いた掌編に、加筆したものです。