よさこいに出会った日
「ああ、もう。いい加減にしてくれ」
バンッと机を叩く音が部屋に響いた。
鳴海 陽は苛立っていた。
外はひたすら騒がしく、シャワシャワと鳴く蝉の声、じゅんと汗で湿ったTシャツ、果てにはクーラーの室外機が回る音すら気に障った。
だが、陽の怒りの根本はこの夏の過ごし方にあった。
高校生として過ごす最後の夏休み、AO入試で早々に受験戦争を切り抜けた陽は、遊ぶ計画を妄想の上でびっしりと立て、コンビニのバイトでた貯めた小遣いを全て使い切るつもりでこの夏に挑んだのだった。
しかし裏を返せば、周りは受験戦争真っ只中。夏を制すものは受験を制すと、教師達に脅された同級生は机に歯形を残すかの如く齧りつき、まるで陽を相手にはしてくれなかった。
彼女など聞くまでもなく、ならばと後輩と遊ぼうにも3年間帰宅部を貫き通した陽には仲のいい後輩などおらず、ただただバイトで積み上げた貯金が増えていくだけの悲しい夏を過ごしていた。
外に出てみようかな、と外を一瞥したが、すぐにやめた。
ーーーーー名古屋の夏を舐めてはいけない。
陽の住む愛知県名古屋市は日本でも屈指で熱い街だった。
ヒートアイランド現象だかなんだか知らないが、心の底からいい迷惑だよ。心の中で悪態をつき、ドサッとベットに倒れ込む。
机の上のコーラを飲もうと手をのばすが、陽の左手はコーラの水溜まりにダイブし、ベタベタと嫌な感触が指先を包んだ。
どうやら先ほど机を叩いた拍子に零れたらしい。
「あーーーもう、いい。コンビニいくわ」
イラつきがピークに達した陽は左手をハーフパンツに擦りつけながらドスドスと音を立てて階段を降り、お気に入りのサンダルを履いて外に出た。
むわっと湿度の高い空気が身体にまとわりつき、肺が吸い込む。
瞬間汗がぶわっと吹き出たが、そんなことは気にもとめず自転車のキーを捻り、跨った。
今日はなんだか騒がしい。
ピークに達した苛つきのせいで暑さも忘れていた陽だったが、先程家の中ですら聞こえていた騒音は流石に気になった。
よくよく聞いてみれば、和風のようなロックのような、よく分からない曲が聞こえる。
「なんだろな。近場で祭りなんかあったっけか。まぁいいか」
本日は8月最終週。
名古屋では、にっぽんど真ん中祭りが、行われていた。




