招かれし者
アルスティーナ皇国。現代日本から見て異世界に存在するその国には魔法が存在した。
アルスティーナから東に向かえば魔導技術が発展した”アルバレア帝国”があり、南には魔族の国”エンボステン”がある。
三国はお互いに牽制しつつ戦争に発展することはなかった。しかし、均衡が崩れる冷酷時代が訪れるのだった。
§ § §
「来たか隼人」
少年が部屋に入って早々に声を掛けたのは、この都市の領主である男だ。
彼の名はサイ・アズール公爵。アルスティーナ皇国四大貴族の一人にして、魔法戦士の名門・アズール流の師範でもある。
「まぁ、準備が出来たからな」
そう言って返事を返した少年の名は転移者”桜城隼人”。
今から一年と三ヶ月前にこの世界へと召喚された現代日本の高校生である。
「その何だ。遂にこの日が来たようだ」
「皇都招集か……」
隼人の解にサイは重々しく頷く。
「もともと、隼人や隼人のクラスメイトはこの日のために召喚された。しかし、その目的は皇国以外の全てを滅ぼすという実にくだらないことだ。その中、隼人を向こうに送るのは――」
「姫様と接触するためだろ?」
「その通りだ。侵攻を推奨しているのは現皇帝陛下”ザドキル・アルスティーナ”様だが、陛下に異を唱えた者がいる。それが、アルスティーナ皇国第一王女”フィーエル・アルスティーナ”様だ。他国侵攻ほどくだらないことはない。王女殿下の派閥を支援するぞ」
アルスティーナ皇国にはある規則がある。前の国が絶対君主制であったが故に生まれた規則だ。
第一群に属する爵位持ち、アルスティーナ皇国における皇族同士で国政に関する対立が起きた場合に適用される。
その際、第二群に属する公爵家はどちらを支持するかを選べるというものだ。
基本的には平和的解決で済むのだが、今回は随分怪しいとサイは言う。
「分かってるよ。ルー兄も異存ないって言ってたし、俺としても師匠の判断は間違ってないと思ってるさ」
隼人がルー兄と呼ぶ人物の名はルーファス・ガーランド。魔法師の名門・ガーランド流の師範代である。
ルーファスの名前が出て来たことにサイは安堵する。
アズール流と祖を共にする流派であるガーランド流は、皇国においてアズール家に並ぶ名門となった。
皇国の兵士は勿論のこと、他国の勢力からもアズールとガーランドは皇国の双璧を成す流派として広く知られている。
ガーランド家の家督は既にルーファスが継いでいることが、サイを安堵させた理由の一つでもある。
「そういえば、ガーランドの方はどうだったんだ?」
「問題なく予定通り修めてきたよ」
サイは呆れきった目で隼人を見据え「相変わらず物覚えが早過ぎるな」と言った。
「仕方ないでしょ。俺の固有スキルなんだから」
皇都に召喚された隼人や隼人のクラスメイト五人には貴族が持つものと同じ、いわゆる身分証明書のようなものを配られている。
漆黒のカードであるそれは、それぞれの身分、スキルなどが表示される。
スキルと言っても、仮想ゲーム空間という訳ではないので、基本的には増えないし、ゲームのようなスキルポイントなんてシステムもない。特異体質を具現化したものだ。
それこそ、ゲームで言うところのポテンシャルに相当する。
そのまま二人は最終確認をし、別れを告げる。
「隼人を利用するようで悪いが、お前が我々の切り札だ。よろしく頼むぞ」
「当然。あれだけ大きな肩書き貰ってるんだから充分だよ。だから、行ってくる」
隼人はそう言って執事長に連れられて馬車へと向かった。
§ § §
薔薇に似た花が広がる庭園の片隅で、椅子に座りお茶をする。そんな日々を少女は既に数ヶ月続けていた。
「ふふ、綾香は随分と余裕そうね」
そう少女に声をかけるのは四大貴族の一人、ライカ・レイフォルト。中距離魔法戦闘を得意とするレイフォルト家の現当主である。
「確かに一年ぶりに隼人に会えるから安堵してるかもしれない」
「ほんと、綾香は隼人君が好きね」
茶化すようにライカは言うが綾香は表情一つ変えずに返事をするーー違うと……
「私と隼人は一心同体。そこに恋愛感情はないわ」
綾香はカップを置きライカを見る。ライカは正面へと腰をかけた。
「そう。それでいいのならいいけどね。それで? 皇都へ行く目的は分かったのかしら?」
皇都へは召喚された五人全てが招集されている。綾香も例外ではない。
「分かっているわ。レイフォルト家の代理人として姫様の力になるでしょ?」
「ええ、その通りよ。それに、薄々分かってるんでしょ? それがきっと貴方の為にもなるって」
そう言ってライカは微笑む。
「そうね。隼人は陛下のやり方に絶対反対するわ。そうすると自分で行動を起こすか、別の方法を取るでしょうね。ただ、私がレイフォルト家にお世話になっていることと一緒で、アズール家にお世話になっている隼人は迷惑をかけることを考慮して姫様に付くことを選ぶでしょうね。アズールの当主になんて言われるかは分からないけど、隼人なら上手く丸め込むはずよ」
まるで自分のことの様に話す綾香。
ライカはその様子を見て「なるほど、一心同体――ね」と、綾香には聞こえないくらいの声で呟く。
ただ、それは一心同体というほどではないにしろ、ライカ自身にも言えることだった。
「随分と信頼してるのね。でも、その心配はないはずよ。サイ君。アズールの当主も陛下のやり方に反対してたし、ああ見えて人を見る目はあるから……多分、どうなるか分かってて隼人君を選んでるはずよ」
ライカの話を聞いて綾香は逆にジト目を返す。「ライカの方こそ、アズールの当主が好きなのね」なんて言ってみてもはぐらかされるだけだった。
「彼とは幼馴染なのよ。学校もずっと一緒だったし、父が私にアズール流を齧らせようとしてたから」
レイフォルトは中距離魔法戦闘を得意とする一族というのは先に述べた通りだ。しかし、ライカは他の一族の者に比べると魔法制御力において劣っていた。
それを危惧したライカの父はアズール家で剣を学ばせたのだ。
当主となったライカの戦闘スタイルはレイピアと魔法による戦闘である。扱いやすい基礎魔法を駆使し、強力な近接攻撃で攻める彼女のスタイルはその強さから一族からも新しい戦闘スタイルとして認められた。
「アズールは色々な武器を用いるわ。隼人君も相当強くなってるんじゃない?」
「無茶して無ければ良いんだけど……」
綾香はそう言うが、やはり力を抜ききったような表情をしていた。
§ § §
二人がそんな会話をそれぞれしていた日の夜、王の住まう街、皇都アルスティーナには召喚された者の一人、間宮真司がバルコニーから外を見ていた。
「皆は上手くやっているだろうか?」
そう呟くも答える者は誰もいない。
真司は王の命令により一人皇都に残り過ごしていた。曰く、勇者なんだとか。
勇者と言われてチヤホヤされるのは悪い気はしない。しかし、一方で辛い訓練があるのも事実。
半年前に渡された聖剣クレイブもようやく手に馴染み始めた。準備としては問題ないはずだ。
召喚された五人の中で先頭に立つことになる。勇者なんて肩書があるのだから当然のことかもしれない。
ただ、あの桜城隼人が大人しく言うことを聞くだろうかと真司は危惧していた。
日本に居た頃も隼人と幾度となく衝突している。今回もそうなるのではないかと。
危惧していることは他にもある。桜庭綾香のことだ。
幼馴染である綾香のことを考えると是が非でも自身の近くに置いておきたいと、この一年以上もの間、真司は強く切望していた。
だが、隼人と衝突すれば綾香が隼人側に付くのは誰が見ても明らかだった。だからこそ、ここで溜息をついていたのだ。
そして、最後の危惧それが……
「遂に招集がかかりましたね。答えは出ましたか?」
いつの間にか後ろに立っていた少女、アルスティーナ皇国第一王女フィーエル・アルスティーナの誘いだ。
現在アルスティーナ皇国には二つの勢力がある。それが、隣国をアルスティーナに統合するというザドキル陛下一派と平和条約の締結を目指すフィーエル王女一派だ。
他の四大貴族の家に行ったクラスメイト達にはどちらに付くか選択権がない。
それは各当主の代理人としてこちらに来るからだ。当主の決定を伝えに来て行動するだけの存在だからだ。
当然のことながら反抗は許されない。当主の決定が絶対だからだ。
皇帝にとって勇者以外はただの駒でしかないということだ。
だが、真司の立場は違った。
なにせ、勇者だ。陛下と王女の両方から「こちらに付け」とお誘いが来ている。
アルスティーナ皇国の法に基づき、皇族の対立時には立場に関係なく発言権があるとされている。つまり、陛下と王女は現状対等の立場にあり、どちらに付いても相手側から責められることはないのだ。
自分で選べるというのがまた真司を不安にさせるのだった。だが、一ヶ月も悩みに悩んで真司は答えを決めていた。
「フィーエル王女。申し訳ありませんが、私は陛下の側に付かせて頂こうと思います」
それが散々迷った挙句に出した答えだった。
「理由をお聞きしても?」
王女は何となく予想していたのだろうか、それほど驚いた様子もなく真司に再度問う。
「やはり迷いました。聖剣クレイブを預かりし者として楽観視出来ない問題だと思ったからです。ですが、この国の民が困っているのなら、それを早く終わらせるために戦おうと決めたのです」
「そうですか。やはり星の導きには逆らえないのですね……」
そう言って王女は夜空を見上げる。
「星の導きですか?」
不思議そうに真司は聞く。まるで聞き返されることも知っていたかのように、王女は解を返す。
「ええ。私の固有スキル”星見”の力と言ったところでしょうか。私は幼少期より巫女長候補として育てられました。未だ修行中の身の為に巫女でしかない私ですが、それでもやはり王家の血のせいか強い霊力を持っています。だから、星を見ていると時折来るんですよ。神託に似た何かが」
「神託に似た何かですか。では、この先のことも何となく分かっているんですか?」
部屋へと歩き始めた王女は振り返り
「何となくはですけどね」
去り際に「それでも被害を最小限に出来たらいいですね」と残したのがやけに印象に残った。
果たして、それが他国との戦争に対してなのか、それとも別の何かに対してなのかは今の真司には知りようもないことだった。
§ § §
それから一週間が経った。
アルスティーナ皇国には馬車くらいしか長距離の移動手段がないため、四大貴族の治める土地から皇都へ出向くにはそれくらいの時間を要するのだ。
東のアルバレア帝国には導力を利用した移動手段があるそうだが、この世界の住人ではない日本人には到底想像できるものではなかった。
そして、各地から四大貴族の家紋の入った旗を掲げて馬車が皇都入りを果たしていた。
海を臨んだ都市・海の都クウィールからは四大貴族”ガルド・レイアース”の代理人、柏木巴。
鉱物に恵まれた都市・岩の都ガーディアからは四大貴族”ミギル・デイファン”の代理人、味嶋光輝。
山の上に築かれた都市・空の都ラミュリアからは四大貴族”サイ・アズール”の全権代理人、桜城隼人。
森に囲まれた都市・森の都ウィディアからは四大貴族”ライカ・レイフォルト”の代理人、桜庭綾香。
全てが集まる都市・皇都アルスティーナからは皇帝陛下”ザドキル・アルスティーナ”の代理人、間宮真司。
だが、この時は誰もが想像していたのに目を逸していた。
ただただ、過酷で死と隣り合わせな日々が目の前に控えていることを……
これは、日本に住まう少年少女が異世界のいざこざに巻き込まれていく――そんなストーリー。
あ、初めまして。三日坊主っていいます。
最近、ふとお話を書いてみたくなって始めました。
さてさて、どれくらい飽きずに続けられるかな? そんな、自分と対決するために投稿という形にすることにしました。
一昔前なら新人賞に投稿するのが当たり前だったんでしょうが、私は期限が欠片もない状態だと手が動かないようです。
不定期でも投稿なら少しは気が引き締まるでしょ? 多分……
そんなわけで、毎週月曜日の投稿目指します。更新されなかったら「翌週の月曜には更新されているはず」と願ってみてください。もしかしたら、更新されているかもしれません。
あぁ、でも。多分、新人賞用にも何か書くと思います。なろうには投稿しませんけど。
自分で言うのもなんですが、自己満足全開な内容になる予定です。だって異世界もの(それも俺TUEEEなやつ)書いてみたいけど、新人賞に投稿するには芸なさすぎじゃない?(笑)
なんで、異世界ものばかりの"小説家になろう"で埋もれていく作品の一つとなりつつも、誰か一人だけでも気に入ってもらえれば幸いです。




