マヤと魔法使いのネコ (1)
私の人生が大きく変わったのは、中学二年生の夏。
このお話は私の人生を大きく変えた、中学二年生の夏のお話です。
私の中学校には七不思議があるらしい、だけど私は興味も無いし怖くもない…話だったんだけど…。
夜の学校に行くとなったら話は別、七不思議が怖くて怖くて仕方がない、特に夜中の食堂で人を喰う化け猫の話が超怖い…。
マヤは授業中にも関わらず、頭を抱えて悩んでいた。
「あんな約束しなければ良かっ…あっ!」
マヤは我に返り口を手で抑えた、しかし声はもう出ていた。マヤはチラッと右席を見た。
「麻夜もしかしてー、ビビってんのか?」
最悪、怜衣に聞かれた。二階堂 怜衣はお調子者でうるさいバカ、そして私の幼馴染み。
怜衣の挑発に乗ってしまい、今夜学校に肝試しに行く事になってしまった。
マヤの右隣の席の怜衣は立ち上がり、マヤに指を差して声を上げた。
「麻夜が肝試しビビってる!ビビってるでー!」
「二階堂君、授業中はお静かにしなさい!あと授業中立ち上がらない!制服の第一ボタンも留めなさい!」
「ごめんなさーい!」
怜衣は元気に返事をし、第一ボタンを留めてから座った。クラスメイト達の笑い声が廊下まで響いていた。
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時間は夜の11時、ほとんどの家の灯りが消えていて、星が綺麗に見える時間帯。私と同じく肝試しに行く事になった月本 栞と一緒に学校に向かって歩いていた。
栞は中学で出来た友達で運動神経良くて優しい。
「ねー栞、オバケなんていないよね?オバケなんて嘘だよね?化け猫なんていないよね?」
「マヤちゃんやっぱり怖いんやね。」
栞は笑いながらマヤの顔を覗き込んだ。
私は少し恥ずかしくなり、とっさに思いついた事を話した。
「よ、夜の散歩って涼しくて気持ちいいねー。」
「あっ話逸らしたね!」
栞はニヤニヤと笑いながら、見つめてきた。
「そ、そう言う栞はオバケ怖くないの?」
「ウチは足速いから、すぐ逃げれるから怖くないねん!」
栞は走って行った。
「えーーー!って、待ってー!」
マヤが栞の後を追いかけ走って行った。栞はすぐに止まると、マヤに笑顔を向けた。2人は足並みを合わせて、学校へと歩いて行った。
私は学校に着くまで、栞との会話を楽しんでいたけど…学校に近づくにつれて、心臓の鼓動が速く鳴っていたのを感じていた。
夜の学校に着くと、怜衣が門の上に座っており一人で待っていた。怜衣はマヤと栞に気がつくと手を振ってきたので、私と栞も手を振り返し門まで駆け寄った。
私は校舎を見上げると、寒気がした。
怜衣は左手で柱を掴み、右手を2人に向けた。
「ほら、手掴んで!」
「ウチはだいじょうぶっ!」
栞が門から少し退がり勢いをつけてジャンプして、門の上に手を乗せると、腕に力を入れて登った。
「おー!さすが栞。麻夜は力無いだろ?早く手掴め!」
私は怜衣に馬鹿にされている気がして、自力で門を超える事にした。
マヤは勢いをつけて門に飛び付いた。
「ふぅーーーんっ!!」
私は腕の力を全力で使い身体が少し上がった。しかし、途中から上がらず足をバタつかせた。
「んーーーっ!やっぱ無理!!」
怜衣はマヤの腕を掴み、しんどそうな顔をしながら持ち上げた。
私は力を入れて血管が少し浮き出た、怜衣の腕をなぜか凝視していた。
「麻夜どうした?、ぼーっとして。」
「えっ!?いや、何でもないよー?」
マヤは動揺を隠しながら、門から学校側に降りた。
怜衣は手招きをして2人を運動場の方に誘った。怜衣の後について行くと、サッカー部の部室があり3人は部室に入って行く。
この学校のサッカー部の部室と校舎は繋がっていて、怜衣がサッカー部という事もあり、サッカー部の部室から校舎へと忍び込む事になっていた。
「あまりその辺の物に、触るなよ。」
サッカーボールや、ゼッケンなどが転がっていた。
「触らないよ、それより汗臭いね。」
「何匂い嗅いでるんだよー。」
「嗅いでなくても臭うほど、臭いって言ってるの!」
「マヤちゃん二階堂君、落ち着いて…。」
たわいもない話をしていると、少し頑丈そうな扉があった。怜衣はポケットから鍵を取り出すと、扉の鍵穴に刺した。
私はこの時、鍵が合わなければ良いのにと少し願っていた。ガチャリ!その音にマヤは体をビクッとさせた。
扉が開き怜衣は校舎内へと、足を踏み入れた。マヤと栞も校舎へと入り、3人は持って来た懐中電灯を点けた。
「よし、まずは教室から行こうぜ!」
怜衣が先頭を切り歩いて行った。
私は静かすぎる真っ暗な廊下で限界だった。
マヤは栞の腕にガッツリくっ付きながら、栞に引きずられる様に歩いた。
教室や音楽室などを周り終わった。幸い何も怖い事は起こらなかった。だけど私の胸の鼓動は一向に落ち着かず、胸騒ぎがしていた。
マヤはいつの間にか栞の腕から離れていて、怜衣の腕にしがみ付いていた。
私はこの先が化け猫の話の食堂だと思い出して、すごく怖くなり怜衣の腕を強く引っ張った。
「もう、帰ろうよ、心臓が飛び出しそうだよー。」
怜衣はクスクスっと笑った。
「後は七不思議の人食い化け猫が出る食堂だけだぜ。
もしかして麻夜、人食い化け猫なんて信じてるのか?」
怜衣はマヤに挑発するように話した。
すると、マヤは怜衣の腕を離して、軽く突き飛ばした。
「信じてないよ!怜衣こそ、怖がってるのか歩くの遅いよ?」
すると、怜衣は食堂へと走って行った。
「ちょっと!怜衣!」
マヤと栞も小走りで追いかけた。
今小走りで走っているの突き当たりを、右に曲がった所に食堂がある。マヤと栞は突き当たりを右に曲がった。
怜衣は食堂の窓を覗いて立ち止まっていた。
「怜衣ムキにならないでよー。」
マヤも怜衣の隣に行き、懐中電灯で窓から食堂を照らした。
食堂には大きな黒い影があり、液体を飛ばしながら豪快に何かを食らっていて、無数の光る目が一斉に私の方を向いた。あまりの恐怖でマヤは腰を抜かし、大きな尻餅をついた。
「出たぁぁぁああああーー!!!」
「きゃぁぁぁああああーー!!!」
そんな私を尻目に怜衣と栞は叫び逃げ去ってしまった。
「待って!怜衣ー!栞ー!待ってー!」
叫んでも、二人は戻って来なかった。
私の視線には動く大きな影の一部が見えていて、徐々に近づいて来て、ポチャポチャと液体が滴る音も聴こえて来た。
あまりの恐怖で強く目を瞑り、体を縮こませて強く両手を握って、心の中で何回も謝った。
ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい…。
すると私の手に液体が滴り落ちてきて、すぐ側に化け猫の気配を感じた。私はパニックなり動けず、とっさに大きな声で叫んだ。
「ごめんなさぁぁああーーーいぃぃぃ!私は美味しくないですよぉぉおおーー!!」
「ニャッ!?いきなり叫ぶニャッ!」
マヤは人間の様な声と言葉に驚き、目を見開いた。
目の前には全身黒い毛に、ヨダレを垂らした大きな口には牙がある、化け猫の姿があった。
「ギャァーー!!化け猫が喋った!?」
「化け猫?…よく見ニャッ。」
マヤは恐る恐る目をそっと開けた。あれ?
猫耳が付いていて黒い刺繍が入っている、白いローブを被った、可愛らしい黒猫が二足立ちしていた。
マヤは目をこすり、もう一度確認した。やはりそこにいるのは、白いローブを被った黒猫が二足立ちしていた。
「え!?……猫さんだっ、可愛いー。」
マヤは声を上げて抱きつこうとした。
「バリニャー!」
黒猫が両手を伸ばした。
ゴンッ!
「いったーい、壁??」
マヤは黒猫の方に手を伸ばして、ペタペタとパントマイムの様になっていた。
「魔法の透明な壁ニャ。」
「えーっ!猫が魔法を使った!?
えぇーーっ!猫が喋った!?
ええぇーーーっ!猫が立ってる!?」
マヤは驚き、大きな尻餅をついた。
「リアクションが遅いニャ。
俺は人間が嫌いなんニャッ、帰ってニャニャ。」
黒猫は手でシッシッとエモーションをとった。
「ええー!猫さんと喋るの初めてだからもう少し喋りたいなー!」
マヤは目を輝かせながら黒猫を見つめた。
黒猫はプイッと首を振り半回転して、食堂に四足歩行で歩いていった。
私はゆっくり立ち上がり、食堂へと歩いて行く、食堂に入るとそこに黒猫はいなかった。
なんだったんだろ〜?
「麻夜ちゃんごめんね、置いて行っちゃって大丈夫?」
マヤが振り返ると、栞が走って戻って来た。
「大丈夫だよ、けど最初っから置いて行かないでよー!怖かったんだよー!」
マヤは栞に抱きついた。
マヤと栞は足速に歩いて帰った。
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翌日…私は学校で、栞と他の女の子の友達と、先に逃げ帰った怜衣の話をしていた。
すると怜衣が影から私の方を見ていたが、気にせず話し続けた。
放課後…委員会で遅くなった私は少し昨日の事が気になって、食堂に寄ってみる事にした。
食堂は閉まっており、中を覗いても生き物がいる気配はしなかった。
「何だったんだろー、昨日の猫さん…。」
マヤは食堂から靴箱へと向かって歩いていった。
靴箱から靴を取り出し上靴をしまって、靴を履いた時、何かが靴の中に入っていた。
マヤは靴を脱ぎ靴の中に手を伸ばすと、カサッと音を立てて何かを摘み取り出した。
「紙?なんか書いてる…。」
マヤの手には小さく折られた、メモ用紙を持っていた。
花咲 麻夜さんへ
大事なお話があるので、屋上で待ってます。
これってまさか…告白!? 誰からだろう?まさか、バスケ部のクールな長身イケメンの、水島君?
まさか、成績学年トップなのにメガネイケメンの、松神君?
まさかまさか、天然キャラでふわふわしてて可愛いけどカッコいいイケメンの、砂糖君?
まさかまさか、家庭的なイケメン服師君?
マヤは浮かれた表情で、階段を駆け登って行った。
「私の王子様だーれだ?」
マヤは屋上の扉を開けた。学校の屋上からの景色は遮るものが無く、少し田舎のこの街を一望出来る場所であった。
その景色に私は少し見惚れていた。
「綺麗な夕日ー、そんな事より王子さ…ま…?」
マヤの視線の先には怜衣が居た。
「何だー、怜衣かー。」
マヤは怜衣の隣まで歩いていき、屋上の柵にもたれかかり景色を眺めた。
2人は少しの間景色を眺めていた。
すると、怜衣がマヤの方を向いて話し出した。
「麻夜、あのさー…俺…。ずっ…ずっと…前から……ずっと前から…。」
「ずっと前から…?」
マヤは柵にもたれかかるのを止め、怜衣の方を向いた。
あっ!!?王子様っていうか、告白って…まさか…まさか怜衣ー!?
私は頬が熱くなるのを感じて、怜衣と目が合うとより熱くなった気がした。私は動揺を隠すため、とっさに景色の方を向いて眺めているフリをした。
すると、私の視線に白いフードを被った猫が見えた。昨日の猫さん?あの場所はスーパーの裏の駐車場だ。
「怜衣ごめん、急用が出来た!また明日ねー!」
私は怜衣に対して少し罪悪感を感じながらも、その場の空気に耐え切れず、飛び出してしまった。
気を紛らわす為か、昨日の事が気になるのか、どちらが本当の気持ちか分からないけど、スーパー裏に行ってみる事にした。
最後まで読んで頂きありがとうございます!