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もう一度始まる人生

 かすかに名前を呼ばれた気がする。


 そんな気がして目が覚めると絨毯の上で寝ていた。

 しかもすごい疲労感が体を襲ってくる。

 何時間も肉体労働したあとみたいだ。

 

「なんか変な夢を見ていたなぁ」

 ポッカリと丸い穴が開いた天井から空を見上げながら呟く。


 神様が俺を殺し、代わりに異世界に送るという変な夢だ。

 アニメや漫画ではあるまいに・・・。

 いや好きだけどさ。

 

 それにしても体が疲れすぎていて起き上がれない。

 仕事では肉体をあまり使わないので久しぶりの感覚だ。

 心が疲れ切っているのに肉体が疲れていないときは眠れないことがよくある。不眠症の自分にしては珍しくいくらでも眠れてしまう。


 空は青くて、気温は昼寝にちょうどいい温度だ。

 さわさわと木の葉が風に揺られて気持ちのいい音を奏でているし。


 このままもう一回ぐらい眠ろうかな。


 ん?

 ポッカリと穴が開いた天井?

 さわさわと揺れる木の葉?


「はい?」


 驚いて上半身だけを起こすと、変な植物園・・・じゃなくて神殿? みたいなところで俺は寝ていた。


 大理石の柱がアーチ状の天井を支え、天井には大きな穴。そしてその下に神秘的な若木が台の上に植わっている。

 木の背丈はだいたい人の三倍ぐらいだろうか。幹はそこまで太くないから若木だと思うけど・・・すごく気持ちのいい雰囲気がある。心が清らかになる感じのする不思議な木だ。

 俺は天井の穴と同じサイズの鉢植えみたいな石の台の周りに敷かれた絨毯に寝ている。しかも服はスーツじゃなくて麻地で白いゆったりしたものだし。


 訳が分からない。

 たしか俺は工事現場でクライアントと一緒に・・・。


 あー。

 思い出した。

 俺は鉄筋の下敷きになったんだ。

 でもそれじゃ・・・あの夢は―――。


「シン! 返事ぐらいしなさいよっ!?」


 とつぜん女性の大声が俺の名を呼び、だれかが近づいてきた。

 そちらに目を向けると、俺と同じような白い服を着た女性がいた。


 しかもすごい美人だ。

 長い金髪で、青い瞳、透き通るような白い肌と彫りが深い顔立ちがどこか近寄りがたい美しさを感じさせる。それを感じるのは、端正な顔に不満そうな表情だからかもしれない。美人が怒ると怖いというのは本当だった。


 しかしだれだろう?

 俺には外国人の知り合いは大学の頃の研究室の留学生しかいないし、彼は韓国の研究員だったはず。彼女と比べると月とすっぽんよりも違いがある。


 美人さんは俺が起き上がれないのに気がつき、落胆したように肩を下ろす。


「はぁ・・・また魔力切れね。ここに来て三ヶ月。聖樹様と感応する魔力配分ぐらい学びなさいよ。ほんとう、魔法の才能はあるくせに使い方が下手なんて宝の持ち腐れよ。もういいわ、瞑想場から出てさっさと食事の準備するわよ」


 ・・・はて?

 なんか・・・俺のことよく知ってそうだけどどういうことだ?


 俺が不思議そうに彼女を見ているのに気がつき、また目つきが悪くなる。


「あなたの当番を忘れたわけじゃないでしょうね?」

「えっと・・・。当番というのもよく分からないですけど・・・その前にどなたですか?」

「はっ?」


 今度は彼女がキョトンとする番だった。

 そしてくっきりと眉間に皺を寄せる。そんなに寄せたら戻らなくなりそうなほどだ。


「ねぇ・・・もしかして私を馬鹿にしてるの?」

 腕をまくし上げそうな勢いで俺に顔を近づけて、声を低くし睨み付けてくる。


「め、めそうもない。本当に記憶がないんです」

「・・・記憶がない・・・? あなた、今日はどこまで聖樹様とつながったの?」

「つながる?」


 聖樹様とはたぶん・・・俺の横にある木のことだろう。

 それとつながるなんてよくわからないけど・・・つながったことはないはず・・・。


 俺の表情をじっと見て、彼女は嘘がないかを探しているようだった。

 真剣な顔をしている。


「魔力を聖樹様と感応させて、魔法を学ぶことよ。ごくまれに深いところまで聖樹様とつながると魂が聖樹様の一部になったり、新しい知識を得たり、神託を授かったりするの。魔法の頂点を極めた賢者だけが至れる境地。もう伝説となってしまったけど・・・まさかあなたが聖樹様から何か啓示を受けたわけじゃないでしょ?」


 魔法? 賢者? 神託?


 えっと・・・そんな感じの人を夢で見たような・・・。

 たぶん黙ったほうが大事にはならない予感もするが、それだと俺は訳も分からずここで何かをする羽目になる。


 正直に言うことにした。


「夢で変な老人には会い―――」

「も、もしかして救世主、賢者ロシピュール様のこと!?」


 はじかれたように彼女の大声が瞑想場に響き渡った。


 どうやら・・・大事のようだった。

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