第九十五話 ゼンの目的
ゼンから同類の匂いのようなものがあったのでてっきりそうかと思っていたが、いったいどういう事なのだろう。
「一度は不覚を取って体内に入られはしましたが、脳を支配される前に氣で拘束したのですよ」
「拘束って、そんな事できるのか?」
「できますよ。貴方なら、拙僧の頭の中にご同類がいるのがわかるはずです」
確かに、ゼンからは山賊の頭領に感じたのと同じものを感じる。だから、彼の中に俺みたいな虫がいるのは本当だろう。
「しかし、拙僧は意識を乗っ取られてはおりません。こうしてしっかりと自我を保って貴方の前に立っている」
「どうやらそのようだな、あんまり信じたくはないが……。
それで、俺にそんな話をしてあんたの目的は何だ?」
「目的、ですか」
ゼンは少し困ったような顔で笑う。
「それがですねえ、困った事に拙僧にもわからないのですよ」
「はあ?」
俺が頓狂な声を上げると、ゼンは「実はですね、」と語り始める。
事の始まりは、やはりゼンが寄生された事によるものだった。
しかし修行僧だった彼は、いち早く異変に気づき寄生虫を氣で封じる事に成功した。それにより虫は脳に達したものの自我を奪われる事なく現在に至る。
氣力で虫の支配を防いだのも驚きだが、そこから先がさらに驚きである。何と彼はいま現在も頭の中の虫と共生しているのだ。最初はゼンの自我を消して身体を支配しようとする虫との戦いの日々だったが、ある日ついに彼は虫に勝利した。するとどうだろう、それまで自分の限界だと思われた領域を遥かに超える能力を発揮できるようになったのだ。
後にこれが脳内の虫による恩恵だとわかったゼンは、さらなる修行によりその効果を自分の意思でコントロールできるまでになった。
「だからコングの怪力をものともしなかったのか」
「左様。拙僧の持つ体術と頭の虫による肉体強化を伴えば、いかに筋骨隆々の力自慢であろうと子供を相手にするようなもの」
そうして虫の能力を意のままに引き出せるようになったゼンは、ついには虫の意識を感じ取れるまでになった。うっすらではあるが、頭の中の虫が何を感じて何を思っているのかわかるという。
「それで、同類が近くにいると感じて北の領地にまで足を運んだのですが、残念ながら一足遅くてそれらしい者はすでにおりませんでした。
で、領主に詳しい話を伺ってみれば、山賊の頭領を倒したのは貴方たちだと言う」
「バロンから俺たちの事を聞いてやって来たのか」
「それもありますが、頭の虫が囁くのですよ。これもまた虫の仕業だと」
「つまり、あんたは虫を追ってやって来たってわけか」
「拙僧を乗っ取ろうとした事といい山賊の話といい、どうもこの虫は気性が荒いというか血を好むきらいがあるように思われます。僧である身としては看過できぬゆえ、もしも同じ虫を身に宿した者が非道を働くような輩であれば、これも何かの縁。同じく虫を宿した拙僧の手によって止めるのが筋と考えた次第」
確かに、虫によって力を得た者と対等に戦えるのは、恐らく同じ虫の力を得た者だけだろう。
「傭兵と言って俺に近づいたのも、それが目的か」
「左様」
ゼンの細い目が、一瞬鋭く開かれた。まるでこちらの善悪を計り、その結果によっては殺す事もためらわない。そんな目だった。




