第九十四話 戦の後
刈り入れも終わり、そして戦も一応の終わりを迎えた今、我々がする事と言えばただ一つ。
そう、収穫祭である。
ゼン発案、ルーン改良の新しい戦法が目覚ましい戦果を上げたので、敵は攻略法などが思いつくまではしばらく攻めて来ないだろう。
という事で、領民たちのかねてよりの希望もあり、俺たちも彼らを労い自分たちの疲れを取るという意味も込めて、ささやかではあるが祭を開く事にした。
人間、楽しい事のためなら労を惜しまないようで、祭の準備は刈り入れとは比べ物にならない速度で進んだ。お前らどこにそんな元気が残ってたんだよ。
コングは相変わらず無限の体力と牛馬の如き力で櫓や屋台の設営をし、ホーリーやルーンは料理などの手伝いに加わった。
中でも意外だったのがゼンである。
彼は女たちに混じって料理に参加し、これまで彼が旅した様々な国の料理を作った。これがまた店が出せるんじゃないかと思うほど好評だった。こいつ何でもできるな……。
夜になると広場の中央に大きな火が焚かれ、有志の楽団が流す陽気な音楽に合わせて男女が踊った。曲が終わるとペアが入れ替わり、再び楽しげな曲に合わせて疲れ果てるまで踊り続けていた。その姿はまるで、今を死に物狂いで生きようとしているみたいで、ほんの少しばかり俺に生きる事の意味みたいなのを考えさせた。
こうして祭は夜遅くまで続き、人々はひと時の安息を心ゆくまで楽しんだ。
深夜。祭も終わり、領民たちはそれぞれの家に帰った。
広場には誰もいない。さっきまでの喧騒が嘘のようだ。空気には焚き火の後の炭の香りと、人いきれの残滓のようなものが残って寂莫としている。
酔い潰れた奴とか騒ぎ疲れてその辺で寝ている奴がいないか見回っていると、俺を待ち構えていたかのようにゼンがいた。
「どうも」
その時俺はぴんときた。ゼンは俺に用があって待っていたのだと。
「いま報酬をくれ、って感じじゃなさそうだな」
「その話もいいですが、まずは別のお話をしましょう」
そう言ってゼンは、ついて来いとばかりに親指で示した。俺は黙って彼の後に着いて行く。
領地の外周に張り巡らせた防柵の所まで歩いて行くと、ようやくゼンが止まった。
「この辺りでいいでしょう」
「で、別の話って何だ?」
「そうですね、何から話せば良いのやら……」
ゼンは少し言葉を選ぶように考えると、
「では単刀直入に言いましょう」
あっさりと選ぶのをやめた。
「貴方、本当はスレイ殿ではありませんね」
そしていきなり核心をついてきた。
だが、俺は別段驚きはしなかった。何故か、そう言われるような気がしていたからだ。
それは、ゼンがそう感じているように、俺もまた同じものを感じていたからだろう。
「そういうあんたも、本当はゼンじゃないんじゃないか?」
俺がそう言うと、ゼンはにやりと笑った。
「確かに頭に虫は入っていますが、拙僧は正真正銘のゼンで間違いありませんよ」
「なに……!?」




