第九十二話 振って叩け
ルーンのアイデアを元に訓練を重ね、短期間ながらもそれなりの形に仕上げる事ができた。
そしてタイミングを見計らったかのように、敵がやってきた。
恐らく前回よりも多い敵軍が、草原にずらりと並んでいる。その圧巻を、俺たちは村を取り囲む防柵の外から眺める。
今回は領地内の被害を抑えるために、こちらも最初から村の外で敵軍を待ち構えていた。そしてお互いの姿が認められたその時、
「かかれーっ!」
戦が始まった。
大将の号令で敵軍の前列に弓兵が並ぶ。前回こちらを嘗めてかかって大敗したためか、さすがに今回は慎重に戦略を組み立ててきたようだ。
まずは教科書通りに弓兵による一斉射撃が始まる。合図とともに引き絞った弓から矢が放たれ、放物線を描いてこちらに飛んでくる。その数は、空が黒い点で覆い尽くされたかに見えるほどだった。
対するこちらはまだ弓を引かない。
「立てえーい!」
ゼンの号令で、領民たちが一斉に槍を真上に立てた。雲を突くような長さの槍がずらりと並ぶ様は圧巻だが、驚くのはまだ早い。
「まだよ、まだよ」
空を見て、こちらに向かってくる矢の速度を計るゼン。そしてタイミングを見計らうと、
「今だ! 振れえーぃ!!」
持っていた槍を左右に振り始めた。
「それイチ! ニ! イチ! ニ!」
ゼンの掛け声に合わせて領民たちが揃って槍を左右に振ると、飛んできた矢が次々と払い落とされていく。列によって振るタイミングをずらしているので、万一前列の槍が落とせなくても後列が落とすので大丈夫。何重にも振るわれた槍に矢はことごとく落とされ、俺たちは一本も届かない。
「おーすげーな。本当に槍で矢を落としてるぜ」
雨のように落ちてくる矢を避けながら、コングが呑気な声を上げる。『弓矢なら槍で叩き落とせますよ』と最初にゼンの話を聞いた時は冗談かと思ったが、実際見てみるととんでもない光景だ。
やがて矢が飛んで来なくなると、今度はこちらの番だ。一旦槍は置いて弓に矢をつがえると、敵陣に向かって一斉に射る。相変わらず下手なもんだが、そこそこ敵陣に届いたので良しとしよう。
互いに矢を射ち終わると、次は騎兵の番だ。槍を持った騎兵がずらりと並び、号令とともにこちらに向かって一気に駆けて来た。
「さて、ここからが本番ですぞ。皆さん、用意はいいですか!?」
ゼンの声に、領民たちは威勢よく叫び返す。そして隊列を組み変えると、全員が槍を握る。
「ぜんたーいかまえー!」
ゼンの号令で槍を構える。敵陣に向かって伸びる槍が横一列に並び、今まさに突っ込んで来ようとする騎馬を牽制する。
「立てえーぃ!」
第二の号令で、前を向いていた槍が天を向く。その間に騎馬がどんどん迫ってくる。
やがて蹄が地面を蹴る音が怒涛の如く聞こえてくると、もうすぐ目の前に敵が迫ってきた。
「たたあーけえー!!」
そして第三の号令で、掲げられていた槍が一気に振り下ろされた。
ざあっと滝のように頭上から降り注ぐ槍頭に襲われ、騎馬隊は総崩れになった。辛うじて落馬を免れた者も、第二第三の槍に叩かれ息絶えていく。
ここまでは大成功だが、当然敵も対応してくる。騎馬の第二陣は正面突破を避け、左右に別れて槍の範囲外から攻め込もうとしてきた。
ま、そうくるよな。




